↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つに割れない心のあり方〜年下幼馴染と年下アイドル、どちらの手も離せない~  作者: 大神ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/15

13 鎮火の仕方


 正直、この部屋に居たくない。


 そう思わせるほど、空気が重かった。


「そ、それで……あの暴露記事は?」


「ああ……あの写真自体はコラージュではなく本物らしい。ただ、あの写真が撮られたのは、一輝が高校時代に短期留学をしていた時のもので、両脇の女性二人はその時mお世話になったホストファミリーの娘たちらしい」


「なら、クラブに出入りしていたって言うのは?」


「留学先の学校で開かれたパーティーで、クラブ風にされていたもので、本物のクラブでもなければ未成年飲酒や喫煙もないし、女遊びもしていないってよ」


 真司が言い切って、力を抜いて椅子の背もたれに寄りかかると、一輝が頭を下げた。


「本当ですよ、利央さん。おれは、確かに今ではモデル仲間とバー行くこともあるし、モデル仲間主催のパーティーに行くこともありますけど……貢がせたことはないし、練習生になった時から恋人もいません」


「じゃあ、完全にガセネタじゃない」


「だから、すぐに誹謗中傷と虚偽の流布として弁護士先生についてもらって動いてる。だが、厄介なのはアンチでな」


「何かあったの?」


 ガセネタと分かっている割には、全員が浮かない顔をしている。


「脱退要求が出てるんだよ。すぐにでも、一輝を辞めさせろ……ファン連盟はいかなる裏切りも許さないって過激なやつがな」


「なにそれ」


「さらに、ネット上では一輝を擁護するファンとアンチが激しくぶつかり合ってるんだよ」


 真司がタブレットを利央に手渡した。

 そこには様々な書き込みがある。


『応援したくないって言うなら、何も言わずに静かに去ればいい』


『過去がどうあれ、今の一輝を見るべき! 彼のおかげで毎日を頑張れる』


『アンチは引っ込んでろ!』


『一輝、辞めないで!』


『事務所は一輝を守って!!』


『ファンをATM扱いするな!』


『裏切り者』


 数々のコメントに目を通していると、一輝が立ち上がった。


「社長……おれ、グループを辞めます」


 静かな声だった。

 顔は心配になるほど白く、ぎゅっと握られた手はわずかに震えている。

 追い詰められたような姿を可哀想だと思いつつも、読んだばかりのファンのコメントがちらつく。


「あんたはアンチの言うことを聞く訳?」


 そう利央が口にすれば、メンバー全員の視線が自分に集まるのが分かった。


「たいした数でもない否定的な意見を尊重するのが正解なの? どれだけの脱退を反対する声があると思ってるのよ! その子たちの気持ちは無視?」


「おれは……彼女たちの理想や期待する気持ちを踏みにじった」


「馬鹿なの? 踏みにじられたと思ってたら、女の子はさっさと推しなんて、ぽいっとして別の推しを見つけて応援するわ。あんたが脱退するって決断をしたら、今度こそ本当の意味で気持ちを踏みにじって傷つけるのよ? こんなにも戦ってくれている彼女たちを」


 コメントを見せようとタブレットを一輝の前に滑らせたが、彼は見ようとしないで目を背けて拒んだ。


「怖いの?」


「ああ、怖いよ! 昨日まで応援と愛を囁いてくれていた子たちが、今日は拒絶の言葉を叫んでいるかもしれないんだから」


 椅子に座り込んで、テーブルに突っ伏した一輝に、メンバーは掛ける言葉が見つからないようだった。

 それもそうだろう、彼らが初めて体験する自体だ。

 有名になれば、自ずとこういった事が起こるであろうことは分かっていても、実際に体験するまではどれほどのものかなんて分からない。

 でも仕方がない。

 愛されるという裏には、必ず妬みや嫉妬がついて回るのだから。


「全ての人に愛されようとするのを辞めなさい。そんなの無理なんだから。全ての声を聞いて、愛されるように努力し続けてたら、最後には自分なんてものがなくなってしまう」


 そんな傀儡みたいな存在をファンは欲しいわけではないだろう。

 自分の思い通りにしたいのなら、人間ではなく育成ゲームでもやっていればいい。

 ここにいるのは、生身の人間なのだ。

 ファンという全体に愛は返せても、一人一人に愛を囁やける訳でも、愛を誓える訳でもない。


「否定的な言葉や声は無視して、あなたへ変わらずエールを送る声にだけ耳を傾けなさいよ。だから、真司?」


「な、なんだ?」


 突然、話の矛先が自分に向いて、真司は驚いた顔をした。

 その拍子に、ぎしりと椅子が鳴る。


「私は、映像を撮り直すなんてしないから、絶対に辞めさせないでよ? すぐに作業を終えて、予定よりも早く公開するのも良いんじゃない?」


「……そうだな。そもそも、俺は辞めさせる気はないぞ。だが、それとは別に、すまないな利央」


「なにが?」


「うちのアイドルの騒ぎで、お前のある意味デビュー作になる映像にケチがつくかもしれない」


「謝る必要ないわよ。そんなことでケチがつくような仕事はしてないつもりだし。映像の出来とはなんの関係もないわ。これから忙しくなりそうだから、そろそろいい?」


「ああ、出来上がりを楽しみにしてるよ。わざわざ、すまないな」


「気にしないで。それじゃあ、 あんたたちも、気にしすぎんじゃないわよ?」


 メンバーたちに声をかけ、会議室を出て廊下に出ると後ろから声を掛けられた。


「利央さん……ありがとう」


「あんたたちが頑張ってる姿を見てきたのよ? 黙ってられると思う?」


 陸斗を真司に引き合わせ、グループが出来ていく過程も、宣材写真を撮ったのも利央だった。

 陸斗だけではなく、全員が可愛い弟分なのだ。


「あんな声に負けるんじゃないわよ?」


「うん……ファンのためにも、全員で乗り越えるよ。社長には、他にも考えがあるみたいだしね」


 強い闘志を燃やした目をした陸斗は、そう言って会議室へと戻っていった。

 また一つ成長した後ろ姿を見送り、スマホを取り出して映像編集のチームへと電話した。

 すでに真司が連絡を入れていたのか、チームリーダーの女性は俄然やる気に満ち溢れた声で、最高の映像を最短で作ると息巻いていた。


「大丈夫そうでしたか?」


 他に何をすべきか考えながら歩く利央の背中に、そんな声が掛けられた。

 振り返らずとも声で分かるが、振り返れば颯が別の部屋から出てきて、利央の隣に並んで歩き出す。


「あの子たちは大丈夫よ。ちょっと、つまずいたことのない小さな石につまずいただけで、無事に通り過ぎられれば、大きく成長できる子たちだからね」


「利央さんは大丈夫ですか?」


「私? 私は……これから少し忙しくなるってだけよ。挽回するためにも、最高のものを世に出さなくちゃ。アルバムに使う写真は、すでに決まって印刷に入っているし、残っているのは映像だけどみんなが怒りをパワーにしてくれたおかげで、三日後くらいには出来上がりそうだし」


「俺に手伝えることはありますか?」


 心配そうに言われて困ってしまうが、利央は仕事に集中している時には人と会わない。余計な時間を過ごしたくないし、気を使いたくないのだ。

 これまで恋人と長続きしなかった理由もそこにある。

 真実を言えば、颯だって嫌になって離れていくかもしれないが、これが利央であって変えることは出来ないのだから仕方がない。


「ないわ。仕事に集中したいから、連絡も取らないし会わない」


 これまでと同じように口にしたのに、なぜか後悔が押し寄せてくるが、一度口にしたことをなかったことには出来ない。


「いつからですか? 今日は送っていっても?」


 エレベーターのボタンを押して、扉のすぐ開いた中に乗り込むと、少し考える素振りを見せた颯が穏やかな声で言った。


「えっ? えっと……今日から。でも、このまま下の階にある場所で編集作業をしてるから、送る必要はない。泊まり込みで作業もするし」


「……分かりました。ただ、きちんと休憩をとって、睡眠と食事もとってくださいね」


 下の階で扉が開き、降りる利央の背中に心配そうな声が掛けられたが、振り返って言葉を返す前に扉は閉まって行ってしまった。

 初めて感じる名残惜しさに戸惑いつつも、映像編集の部屋に入る頃には利央は仕事に全神経を集中させた。

 自分の初仕事であり【SPIDER】の新しい一面を引き出す為の映像作り。

 失敗も許されないし、中途半端なものを世の中に流す気もない。

 いきなり世界中をとは言わないが、日本中の目を釘付けにするものを作ってみせる。

 上着を脱いで、袖を捲りあげた利央は、椅子に座るとパソコンの画面に映るCG処理のされた映像のチェックを始めた。


 


 ★★★




 暴露記事が出た十時間後、事務所はファンに向けてメッセージをSNSで出した。

 ネット上に上がった暴露はガセネタであり、強固な対応をすること。

 写真はコラージュではなく、写っているのも一輝ではあるが、クラブでの写真ではなく高校生時代にアメリカに短期留学していた際に撮られたものであることについて説明されていた。

 最後に、一輝を脱退させることはなく、変わらず七人を応援してほしいという一文で終わっていた。

 その効果もあったのか、最初に上がった以上の騒ぎにはならず、一時期放映をやめていたCMも流れるようになった。

 ただ一つ変わったことと言えば、騒ぎから三週間、説明から二週間経った今も、公式SNSや個人のアカウントに動きがないことだ。

 これまで、毎日のように更新されていたものが無くなり、一部では自然消滅させるのではという声が上がるほどに【SPIDER】はまるで姿を消したかのようだった。

 ネット上では、不安を抱くファンの声が大きくなり、聖地と言われているメンバー行きつけの店などはファンで溢れ、置いてあるコメントノートには帰ってきてという切実な言葉が並ぶ。

 利央も、何度かそんな店の前や、公式グッズの店などに集まるファンの姿を見ていただけに、少しだけ「彼らは大丈夫だ」と声を掛けたくなったほどだ。


(後少し、後少しだから)


 そんな言葉を心の中で呟きながら、一緒に準備を進めた。

 急ピッチの作業に、若干の疲弊を感じていても、目的達成のためなら苦ではない。

 それどころか、心は踊っている。



 それから数日後──。



 公式SNSには、真っ黒な写真が一枚アップされた。

 間違いの投稿なのか、意図したものなのか、ファンの間に新たな騒ぎが沸き起こった。

 真っ黒なのは、解散を示唆しているのではないか。

 やはり一輝は脱退させられるのではないか。

 アカウントが乗っ取られた。

 色々な憶測が、短い時間の間に湧き上がったが、たくさんの特定班の働きもあって、更新の十時間後には大きな話題になった。

 画像を一番明るくすると──。



 Dー7。



 という文字と蜘蛛の巣が浮かんできたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。