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第2話 水氷の勇者

 アレックスは大隊長ロビンと共に、物見やぐらから戦場を見下ろしていた。


 しかし、王国軍の劣勢を見た瞬間、命令を待たずに飛び出していたのだ。


「……あとでロビンさんには怒られるだろうな」


 苦笑しながらも、アレックスは空を滑るように戦場へ降下していく。


 後列長槍隊は寸前のところで救うことができた。


 だが、その先に広がる光景は惨状そのものだった。


 前列大盾隊と前列長槍隊の陣地には、立っている人間が一人もいない。


 亜人たちは死にかけの異人や騎士を、おもちゃのように扱っていた。


 振り回して投げ飛ばす。

 人間同士をぶつけ合い、吹き飛ぶ姿を見て笑う。

 中には、頭をゆっくり踏み潰し、その感触を楽しむように目を細めている者までいた。


 その光景を見た瞬間、アレックスの全身に激しい怒りが走る。


 空中から地面へ向かって右手を突き出し、叫んだ。


「アイスバースト!」


 次の瞬間、亜人たちの体が一気に凍り付く。


 地面には無数の氷柱が生まれ、白い冷気が周囲へ吹き荒れた。


 突然の出来事に、残った亜人たちは思わずたじろぐ。


 その中央へ、アレックスが静かに着地した。


 全員の視線が一斉に彼へ向く。


 牙を剥き、怒りを露わにしていた。


「なるほど。獣でも仲間意識はあるようだな」


 アレックスは冷え切った声で呟く。


「だが、私はそれ以上の怒りに支配されている」


 右手を前へ突き出す。


「アイスニードル」


 アレックスの周囲に鋭利な氷柱が次々と出現した。


 それらは弾丸のような速度で、一発ずつ亜人へ襲い掛かる。


 氷柱は体を貫き、亜人たちは体を痙攣させながら倒れていく。


 仲間を殺されたバイソン亜人が怒声を上げた。


 巨大な両腕を組み、そのままアレックスの頭へ叩き下ろす。


 まるでダブルスレッジハンマーだった。


 だが――。


 振り下ろされた両腕は、アレックスへ届く寸前で止まった。


 まるで見えない壁に受け止められたかのようだった。


 目を凝らしたバイソン亜人は気付く。


 アレックスの全身を包み込むように、巨大な透明の泡が存在していた。


 その泡が、攻撃を優しく受け止めていたのだ。


「すまないな。私には生半可な物理攻撃は届かないぞ」


 直後、泡が一瞬で凍り付く。


 攻撃していたバイソン亜人も、腕ごと氷に閉じ込められた。


「まだ終わらない。クラッシュ!」


 凍った泡とバイソン亜人が、一気にはじけ飛ぶ。


 砕け散った無数の氷片が、周囲の亜人たちへ襲い掛かった。


 まるでショットガンのようだった。


 亜人たちは反射的に両腕で顔を守る。


「なるほど。さすが獣だ。危険予知は人間以上か」


 アレックスは小さく感心したように呟く。


「では、これはどうだろうか。ウォーターボール」


 アレックスの周囲に、スイカほどの水球が複数浮かび上がった。


 次の瞬間、それらが高速で亜人たちの顔面へ飛翔する。


 亜人たちは顔を両腕で守っていた。

 だが、水球はそのわずかな隙間をすり抜け、顔面へ直撃した。


 鈍い音が響く。


 亜人たちは両腕をだらりと下ろし、そのまま地面へ倒れ込んだ。


 腕は無傷だった。


 しかし、守っていたはずの顔面だけが無惨に潰れていた。


 すべての亜人を殺し尽くしたアレックスは、近くで倒れている騎士へ歩み寄る。


 もはや屍に近い状態だった。


「大丈夫だ。もうすぐ助けが来る」


 アレックスは静かな声で言う。


「だから、それまで頑張るんだ」


 騎士がかすかに頷いたのを確認すると、アレックスは再び地面を蹴った。


 そのまま、まだ生き残っている亜人たちの陣地へ向かって飛び去っていく。

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