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第5話 事後報告

 王国軍の被害は甚大であった。


 前線に出ていた部隊は壊滅に近い。

 地面には折れた槍や砕けた盾が散乱し、血の臭いが夜風に混じって漂っている。


 しかし、幸いにも両軍の後列大盾隊、弓隊、支援部隊は無傷であった。


 そのため、生き残った異人たちは、すぐに手分けを始める。

 半数は戦場に残された生存者の確認へ。

 もう半数は野営の準備に取り掛かった。


 近くの森林では、異人たちが無言で木々を切り倒していく。

 疲労で動きは鈍い。

 それでも手を止める者はいなかった。


 やがて、切り出した丸太を並べるようにして、三メートルほどの高さの簡易防壁が作られていく。


 さらに中央には、急ごしらえながらも三階建てのログハウス風の砦まで建設されていた。


 敵がいつ襲ってきてもおかしくない。

 だからこそ、一刻でも早く拠点を完成させる必要があった。


 救助活動が終わるころには、すでに日は沈んでいた。


 焚火の明かりだけが暗闇の中で揺れている。

 あちこちから負傷者のうめき声が響き、異人たちは疲れ切った顔で黙々と動き続けていた。


 砦の大広間には、大部隊の指導者たちが集められていた。


 急ごしらえで作られた木造の広間には、乾ききっていない木の匂いが残っている。

 外ではまだ負傷者のうめき声が響いており、誰一人として表情は明るくなかった。


 その場には大隊長ロビン、中隊長ハインケル、マイティ、生き残った小隊長たち、数名の上級騎士、そしてアレックスの姿がある。


 ロビンは椅子に深く腰掛けたまま、重く息を吐いた。


「それでは被害状況を聞こうか」


 疲れ切った声だった。


 普段の威厳は失われていた。

 眼帯の下にある片目も、どこか焦点が定まっていないように見える。


 一人の騎士が前へ出る。


「はっ。我が軍の被害は甚大です」


 室内の空気がさらに重くなる。


「まず、赤軍、青軍両陣営の前列大盾隊、前列長槍隊、後列長槍隊は壊滅的被害が出ています」


 騎士は言葉を選ぶように、一度口を閉じた。


「異人の被害は五万人以上。前線にいた両陣営の騎士も、ほぼ全滅です」


 その報告に、何人かの騎士が苦しげに顔を伏せる。


 一万いた騎士のうち、生き残った二千人は、後列大盾隊や弓隊と共にいたため無事であった。


 ロビンはその報告を聞いた瞬間、激しい眩暈に襲われた。


 視界が揺れる。


 そのまま前へ倒れそうになるが、椅子に座っていたため辛うじて踏みとどまった。


「大隊長!」


 近くにいた騎士たちが慌てて手を伸ばす。


 しかしロビンは片手を軽く上げ、それを制した。


「大丈夫だ。心配しなくていい」


 そう口にする声にも、いつもの力強さはない。


「六万か……一時間も立たずに六万の兵を失ったのか」


 今朝までのロビンの姿は、もうそこにはなかった。

 たった半日で、十歳は老け込んだように見える。


 十万いた大部隊の半数以上を失ったのだ。

 どれほどの名将であろうと、正気を保つのは難しいだろう。


 重苦しい沈黙の中、ハインケルが静かに口を開いた。


「なぜ亜人どもは異人ではなく、騎士を優先的に殺そうとしたんだ?」


「異人は無傷な者も多いが、騎士に無事な者はいなかったと聞いたが」


 質問を受けた騎士は暗い顔のまま答える。


「おそらくですが、あのような乱戦であれば、長槍を持つ三人組の異人より、訓練された騎士のほうが脅威と判断されたのだと思われます」


「また、生き残った騎士の話では彼らは果敢に戦ったため、真っ先に狙われたとのことです」


 ハインケルは細く息を吐く。


 『果敢に戦った』


 その言葉に少しだけ引っかかるものを感じた。


 だが今ここで追及しても意味はない。


「なるほどな」


 短くそう返し、ハインケルはそれ以上何も言わなかった。

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