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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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悪魔で司教

「へえ」


 正眼に構えるモトナリ少年に喜面を浮かべるフェイルーラ。その意図が分からずモトナリは眉を少し顰める。


「ああ、悪い悪い。悪気はなかったんだけど。良い構えだと思ってね」


「お褒めに預り光栄です。と返せば良いのですかね?」


「別に。褒めていないよ。隙がなく、敵からの攻撃に備えた、実戦(・・)で磨かれた構えだ。君、モトナリ君だっけ? 人を殺した事があるね? こんな闘技場(いつわり)ではなく、現実で」


 フェイルーラの言に、身を引き締めるモトナリ。


「ありますよ。将軍家に仕える身ですから。護国の為、逆賊を誅する事に躊躇いはありません」


 モトナリの応えに、フェイルーラの喜面はより濃くなる。対するモトナリの方はその顔が渋面へと変わっていく。


「その様子だと、貴方も人を殺した事があるようですね」


「まあね。これでも領主貴族の末席だ。しかも武闘派の家系となれば、領民の為に賊を殺すのも仕事だよ」


「成程……」


 フェイルーラの言葉に耳を傾けながら、モトナリはフェイルーラの危険度を一段階上げる。一度でも人を殺した事のある者は、他者の命を亡きものとしたその罪の重さに潰れるか、人を殺す事への忌避感を亡くしていくかのどちらかだと、経験上理解しているからだ。そしてフェイルーラはこれまでの対戦を観るからに、明らかに後者の類である。


 モトナリが警戒度を上げる中、フェイルーラはそんな事は気にせず、ジャージのズボンからグローブを取り出し、それを両手に嵌める。


「モトナリ君は、守護精霊と契約していないのかい?」


 グローブからガンブレードを取り出すフェイルーラの声は、普段と変わらぬ穏やかな声音であった。そのはずなのに、同じバトルフィールドの中にいるモトナリには、それがまるで(あらが)い難い命令のように響いた。


(……竜の武威の中に身を置いているんだ。半分命令のようなものか)


 そう心の中で毒を吐きながら、モトナリはフェイルーラの質問に答える。


「います」


「でも、出さないんだ?」


 それは、フェイルーラにはガンブレードを出させておいて、自分は本気で闘わないのか? と言外に尋ねているように、モトナリの耳に響く。


「わ、私の守護精霊は、このような場には似つかわしくない精霊ですので」


「ふ〜ん」


 反応はその一言。が、それが言外に、良いから出せよ。と命じている事が、モトナリには察せられた。フェイルーラがこれまで見せた闘い方自体、闘技場とは合わないものだ。この試合で、フェイルーラ相手に手札を温存するのが得策とはモトナリも思っていない。主家のジュウベエさえ、フェイルーラ相手に座敷童のまつりを温存しなかったのだ。それを、それより格の落ちるモトナリが温存するのは、こちらから申し出ておいてあまりに失礼だ。


「ふう……。本当に、闘技場(ここ)とは相性が悪いし、合戦(ケルターレ)まで温存しておきたいんですが……、やっさん」


 これで入学後の合戦でヴァストドラゴン寮が不利になっても、モトナリ(わたし)を咎めるなよ。などと予防線を張ったうえで、モトナリは自身の守護精霊を召喚した。


 それは、フェイルーラが初めて見る異形であった。表現するなら、色はモトナリと同じ小豆色を更に暗くしたような色で、大きさは人間大。風船のような丸い頭を持ち、それを八つの触手で支えて立っている。そんな見た事も想像した事もない生き物だった。


「それは、また変わった精霊だね」


「海坊主のやっさんです」


「ウミボーズ?」


 また知らない精霊の名前が出てきて首を傾げるフェイルーラ。座敷童にタヌキ、そして今度は海坊主だ。見た事も聞いた事もない異国の精霊に首を傾げるのも仕方ない事だった。


「この国だと、シービショップやビショップフィッシュと呼ばれる精霊ですね」


 これを聞いてフェイルーラも合点がいく。シービショップやビショップフィッシュは、タイフーンタイクン領などで契約される精霊だ。だが、


「魚と言うには、奇妙な姿だね」


「タコですからね」


「え? タコなの? それが?」


「はい」


「へえ、初めて見るや。それがタコ」


 感心しつつ上から下まで良く観察するフェイルーラ。


「噂に聞いた悪魔魚(デビルフィッシュ)が、精霊司教魚(ビショップフィッシュ)として眼前に現れるとは思わなかったな」


 これにはモトナリの方が眉を寄せる。


「デビルフィッシュ、ですか?」


「ああ。この国だとその異形の姿から忌避される魚介類だね」


 フェイルーラの言に、モトナリの眉のシワが深くなる。


「私の国では、タコは多幸に似て、縁起物とされているんですがね」


「ああ、もし気分を害したなら謝るよ。ビショップフィッシュと一概に言っても、色々種類がいる事は知っているよ。海生生物なら、何であれビショップフィッシュになる可能性があるらしいから、タコ? がビショップフィッシュになってもおかしくはないねえ」


「そうですか。美味しいですから、今度ご馳走しましょうか?」


「美味しいんだ。って言うか食べるんだ、タコ。…………まあ、牛や羊の精霊と契約している者が、牛や羊を食べないかと言えば、話は別だろうしねえ」


「祖国でも、漁師などの中には、縁起担ぎで食べない者もいますね」


 さもありなん。とフェイルーラも首肯する。


「まあ、タコの形をしているけど、その精霊はタコではなく、ウミボーズ? らしいけど、それは強いのかい?」


 海の名が付いているのだから、魔力属性は海なのだろう。とフェイルーラも推測する。が魔力属性が海だけとは限らない。元は自然精霊であったであろう海坊主の特性が何なのか、フェイルーラには皆目見当が付かないからだ。


「強い、と言うよりも、ズル(・・)い。と言うのが妥当でしょう。やっさん、暗夜迷路」


 モトナリが指示を出すと、海坊主のやっさんが、風船のような頭に付いた筒状の口のような部分から、上空へ向かって墨を吐き出す。これによってバトルフィールドは上空から暗闇に染められていき、バトルフィールドは一寸先も見えないような夜へと変貌したのだった。


「確かに。闘技場(ここ)向きではないね」


 モトナリが守護精霊を召喚したくなかった理由をフェイルーラは知ったのだった。


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