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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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132/139

内と外

 グロブス殿下の失態、いや、王家の失態により、ガイシア女王陛下はレストランに来てすぐに王城へとんぼ返りする事となりました。学校に入学する年齢にもなる我が子の尻拭いをしなければならないとは、王家と言うよりも親としてさぞ恥ずかしかった事でしょう。


 そんなトラブルがあったものの、魔属精霊発現の秘密会議の為、様々な方々が忙しなく会議の準備を進められていきました。


 私の隣りに座るフェイルーラ様は、側近のグーシー君から、行政府でのあれこれを纏めた資料を渡され、それに素早く目を通していきます。ただペラペラと資料を捲っていくだけでなく、分からない部分は適宜グーシー君に質問し、脳内でそれらを補完していきます。


 フェイルーラ様の派閥の方々はこのような形の会議に慣れているのか、その動きに乱れはなく、この場に残ったセガン監督官を始め、教皇猊下に私の父上、行政府の担当職員、軍部の方々、王立魔法学校の学長様たちなどに、適当に席を割り振っていき、店員たちに指示出しして、料理なども協力して提供してくれました。


 そして、万事準備が終わったところで、邪魔になる自分たちは粛々と別部屋へ待機しに行きます。ここに入り切らなかった行政府の職員や軍部の方々、学校の研究生たちも同行されているので、向こうは向こうで内容の擦り合わせをするのでしょう。


「ええ、今回は……」


 会議の準備が整ったところで、フェイルーラ様は部屋の左手へと移動しては自ら進行役となり、今回の事のあらましを自ら説明していきます。本来であれば派閥のグーシー君などの仕事のはずで、フェイルーラ様はソファでどっしりとそれに耳を傾けて入れば良い立場のはずですが、誰もフェイルーラ様自ら進行役をしている事に意を唱える事はしません。


 まあ、フェイルーラ様が一番今回の件に詳しいので、誰かから質問があっても即座に対応出来るので、確かにフェイルーラ様が進行役なのは理には適っていますけれど。婚約者としては、こう、少し胸がモヤモヤします。


 ✕✕✕✕✕


 フェイルーラ様はこれまでの説明を終えても、席に戻る事もなく、部屋の端で立ったままでした。多く喋ったので、少し喉を気にされていましたので、水を差し入れると、これを一気に飲み干しました。きっと緊張もあったのでしょう。


 次いで行政府の魔属精霊担当の方が、今回の件について説明を始めました。私も手元の資料とプロジェクターを見比べて、内容把握に努めます。フェイルーラ様が丁度良いところで担当の方に質問をして下さるので、どうなっているのか想像が働き、頭に良く入ってきます。


 私の意見も取り入れられて作成された資料により、魔属精霊の増加は確かなものとグラフが示し、担当の方が大聖堂と上下水道には相関関係があると口にしたところで、部屋の扉がノックされました。


「会議中に申し訳ありません」


「何だ」


 軍部の方が扉の向こうの声に反応します。どうやら軍部の方で何かあったようです。


「王領にて、魔属精霊が発現しました」


「早過ぎる!!」


 冷静に状況説明する軍部の方の声に、父上が思わず大声を上げました。気持ちは分かります。私の胸も跳ね上がりましたから。イグニウス兄上が逝去されて、まだ二週間と経っていません。強大な魔属精霊の出現は、これまで月に一度か、隔月程度でした。それがいきなり半分の日数に短縮されたとあってはたまったものではありません。


 動揺する中、思わず頼るようにフェイルーラ様へ視線を向けると、フェイルーラ様は平静な顔をしており、その顔を見て、自分も落ち着きを取り戻しました。


 フェイルーラ様の視線は、扉の向こうの軍部の方に返事をした軍部の、恐らく上層部であろう方に向けられています。そちらもフェイルーラ様へ視線を向けており、それだけで二人の間で今後どのように行動するか打ち合わせているのが分かります。


「場所と精霊のレベルを教えて下さい」


 フェイルーラ様が、扉の向こうに語り掛けました。確かに、魔属精霊が出現した。と言う情報だけで、その場所もレベルもまだ知りませんでした。


「場所は王領北東部。王領北東の駐屯地のすぐ南です。レベルは5です」


 これにフェイルーラ様と軍部の方、そして平静を取り戻した父上が視線を交わします。


「前回、イグニウス卿の時はどこに?」


 フェイルーラ様が直接的に父上に尋ねました。今は婉曲表現を使っている時ではないからでしょう。


「王領の北北西部、サイクロプス砦付近だ」


「随分北ですね?」


 確かに。サイクロプス砦は、今は王領に含まれていますが、戦時ではギガントシブリングス領の砦として使われていた要塞です。古アンティークス湖を挟んで、キュクロプス砦と対となっています。西のグリフォンデン領の次期領主が向かう場所としては、少し違和感を覚える場所。私も兄上の訃報を聞いた時、不思議に思った場所でした。


「その時の精霊レベルは幾つでしたか?」


「9だ」


「9!?」


 これには目を丸くするフェイルーラ様。精霊にはレベルがあります。まあ、人間が勝手に付けたレベルですが。一番低いのが1で、最も高いのが10。そして9ともなれば大災害や天災と呼ばれるレベルです。兄上がお亡くなりになられたとて不思議のないレベルです。ただ、8、9、10レベルは高過ぎて滅多に出現するものではありません。十年に一度あるかないかです。


 これに開いた口が塞がらなくなったフェイルーラ様でしたが、皆の注目がご自身に集まっている事に気付くと、咳払いを一つして、気を持ち直しました。


「レベル8でいきましょう」


「やりたい事は分かるが、高過ぎないか?」


 フェイルーラ様の提案に、軍部高官の方が直ぐ様眉を顰めます。確かに、立て続けにこのレベルの魔属精霊が出現していては、国が立ち行かなくなってしまいます。


「確かに新聞などが嗅ぎ付ければ、軍部に不信感を抱く一般市民も出てくるでしょう。なので、先手を打ちます。最初、軍としてはレベル8か7と想定されていたが、最終的にはレベル5で落ち着かせます。ただ、その誤認は魔属精霊の数が多く、これにより多くの動植物が魔物化した為。と日刊アダマン新聞さんがリークと言う形で情報を流せば、辛うじて面目を保つ事は出来るかと」


 フェイルーラ様の案に、軍部高官は腕組みしました。幾ばくかの時間目を瞑って思案したその高官は、目を開くと嘆息し、


「分かった。今回はこちらも身を切ろう」


「ありがとうございます」


 どうやらフェイルーラ様の案で軍も動くようです。


「では、私は領の駐屯地に連絡を入れてきます。母上は既に出発しているかも知れませんが、信号弾を打ち上げれば、問題ないでしょう。それで気付かなくても、ウェルソンも同行しているでしょうし」


 これに軍部の方々は苦笑いです。言って部屋から出て行くフェイルーラ様。軍部高官が「おい」と一声出すと、その後ろに控えていた軍人さんが、フェイルーラ様の後を追いました。レベル8と偽装するとなれば足並みを揃える必要がありますから。


「どうなっておるのだ?」


 事態に理解が追い付いていない教皇猊下が、誰に尋ねるでもなく、そんな声を上げました。皆で一瞬で目配せし、どうやら説明は私がする事になりそうです。


「精霊レベルはご存知ですよね?」


「うむ。それくらいはな」


「精霊レベル、魔属精霊のレベルは1から10までありますが、軍ではこれを更に三つの危険度に分けているんです。1から4は領軍で対処、5から7は領から要請があった場合には近くの他領や国軍が動く、そして8以上はそれが国内のどこで発現しても、国内の全軍部に出動要請が出されます」


「ほう?」


 顎に手を当てる教皇猊下。


「今回はレベル8と言う体となりましたから、ヴァストドラゴン領軍は、たとえ北東派閥が出動を拒否したとしても、これは戦時法と言う法律で決定している事ですから、その拒否を突っぱねて軍を動かす事が出来るのです」


 何となく理解が追い付いてきたのか、教皇猊下は今度は目を細める。


「恐らく、ヴァストドラゴン領の西、王領とヴァストドラゴン領の間にあるイーストフォートレス領には、王領を北上するように要請するでしょうから、ヴァストドラゴン領軍は、レベル8の魔属精霊を逃さないように、北東側から動く事になると思われます。もしかしたら、今回の魔属精霊発現により、北東派閥にかなり(・・・)の被害が出るでしょう。それこそ、各領の領主が総入れ替えになる程に」


 これでやっと理解してくれたのか、先程の軍部高官のように教皇猊下は目を瞑って腕組みします。


「実際にはレベル5の出現でありながら、各領の領主は不審死する、か。…………ふむ。今のは聞かなかった事としよう」


 ありがとうございます。と言えば良いのかな。国民の大多数を騙すこんな計画を、本当に実行してしまうのだから、フェイルーラ様も容赦がない。


「しかし、あの年齢でこれだけの智謀を働かせられる者が、今の今までまるで名を聞かなかったと言うのは不思議な話だ」


 軍部高官がそう漏らし、その視線はグーシー君に向けられる。確かに、王都に来てからのフェイルーラ様の行動は目覚ましいものです。何故これで日陰に埋もれていたのか謎です。


 しかしこんな疑問にグーシー君は議事録を書いていた少年と顔を見合わせ、互いに苦笑しました。


「何と言いますか、フェイルーラ様のルーツにその疑問の答えはあります。としか」


「フェイルーラ君のルーツ?」


 気になったのでしょう。軍部高官は更にグーシー君にその次を促します。実のところ私も気になる。


「フェイルーラ様は、領都の聖堂で、元教皇であられたボールス枢機卿と、マエストロであるウェルソン様から薫陶(くんとう)を受けてお育ちになられた方なのですが」


「凄い名前が出てきたな」


 これに顔をひくつかせる父上や軍部高官。私は時代じゃないのでそれ程詳しくはないけれど、私の父の時代では圧倒的な存在だった事は、これまでのフェイルーラ様周辺の言動から分かります。


「そしてボールス卿もウェルソン様も、根幹が善性なもので、無自覚に、当たり前に、弱者救済を行われるのです。それを見てお育ちになられましたから、困っている者が入れば手を差し出して当然と言う考えでして、結果として今のように地位や名誉、名声などまるで気にしない方となられました」


 確かに。利己的な欲の為に、私の負担を減らそうと教皇猊下や女王陛下に物申す方はおられないでしょう。


「今回の一件も、我々は内側の人間ですから、フェイルーラ様がどれだけ奔走されたか分かっておりますが、結果が出れば、フェイルーラ様の母上であられるセイキュア様の暴れっぷりか、ガイシア女王陛下の断行が取り沙汰されるだけでしょう」


 これには全員が黙り込んでしまいました。確かに、今回の一件、どう転ぶかは分からないけれど、功労者として、フェイルーラ様のお名前が一番に取り沙汰される事はないでしょう。そして、そんな事関係なく、フェイルーラ様は今後も弱者救済を素で行っていかれるのが目に浮かびます。


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