相関関係
このレストランで一番大きい個室。と言う、それはもう大部屋だろ? と言うべき部屋には、それでもここに集まった全員が入れる事はなく、主要な面々が部屋を占拠しており、入りきれなかった面々は別室待機だ。
何故俺はこっちの大部屋にいるのか。首を傾げたくなるが、お前の始めた事だろ。と言われてしまえば反論も出来ない。だって、こんな、内乱を孕んだ大事になるとか想像しないじゃん。いや、こっちは関係ないんだけど。
「はあ……」
「大丈夫ですか?」
現状、俺の思い付きのせいで駆けずり回ってくれたであろうグーシーが、心配そうに声を掛けてきた。
「ああ、大丈夫大丈夫。気疲れだから」
少し薄暗い部屋の中、ソファに座りながら、グーシーにへらりと笑い、うちの派閥が纏めただろう資料に目を通す。今回の魔属精霊発現の件、俺が起点であり基点なので、流れやら何やら理解しておくべき点が多くて面倒だな。
などと思っているうちに部屋のテーブルには店員たちによってどんどんと料理が並べられていき、それが終われば、残ったのは今回の対策の為の面々のみだ。このタイミングで立ち上がり、部屋の左手の、何もないところまで歩いていく。当然と言うか、皆の視線が俺に集まる。
「ええ、今回は私、フェイルーラ・ヴァストドラゴンの頓狂な思い付きに対して、このような錚々たる方々にお集まり頂きありがとうございます」
部屋を見渡せば、三十人を超える大人たちがこちらを注視している。大体が座っているが座りきれずに立っている者もいる。この中で成人していないのは、俺とグーシー、それに今回の議事録を書くうちの派閥の一人、インシグニア嬢に侍女二人くらいか。他、王立魔法学校の研究生もいるが、研究生なら二十歳を超えているはずだ。
「いや、問題の規模を考えれば、早々に対策案を打ち出すべき案件だ。これで少しでも国民を憂いから救えるなら、集まって当然だよ」
ガイシア女王陛下が所用で王城に帰ってしまったので、ある意味この中で一番地位が高い? セガン監督官がそう口にすれば、皆が首肯する。いや、地位的には学長か? いや教皇猊下か。いやいや、そんな事を考えている時じゃないな。
「では早速、今回の強大な魔属精霊の発現に関する、大まかな現状把握から始めたいと思います」
そう俺は言いながら左手の端に退く。これを合図に、既に部屋の反対側、議事録を書いている少年の側に回っていたグーシーが、投射機を操作すると、こちらの白い壁に新聞記事の一部、日刊アダマン新聞の天気予報図が大きく映し出された。
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そんな訳で、今回の発端となった天気予報図から、魔属精霊が時計回りに発現しているらしいと言う推測が派閥で出され、そこからアグニウス卿などを巻き込み、強大な魔属精霊が時計回りに発現している証拠探し、そこへ俺の大聖堂の再建設やインシグニア嬢の上下水道の大工事などの推測、そこからアグニウス卿が軍部に協力要請したり、そして王都自体が巨大な魔法陣である事から、これらに詳しいであろう王立魔法学校に協力を仰いだところまでの流れを説明した。
「と、このような形で、様々な分野から精鋭であられる皆様に、集って頂いた次第です」
一気にここまで説明し終えると、皆が首肯を返してくれた。ここまでは理解して貰えたらしい。はあ、喋り過ぎて喉渇いた。と思っていると、インシグニア嬢が側まで来てスーッと水の入ったコップを差し出してくれた。ありがとうございます。と軽く笑顔で返しながらそれを飲み干す。
「では、ここからは、この後……」
グーシーの方へ視線を移すと、その視線がアグニウス卿の方……、いや、その近くの一人に向けられる。眼鏡を掛けた燻んだ銀色の髪を七三にした二十代後半と思われる男性だ。男性も自分に視線が集中したのが分かったのか、資料らしきものを持って立ち上がると、人で溢れる中を、俺とは反対側の端までやって来ると、俺や部屋の全員に礼をしてから話し始める。
「ども。アダマンタイタン行政府、精霊対策課、魔属精霊担当のディリジェン・シルバーマインです」
家名から、グリフォンデン領派閥らしいと分かる。
「フェイルーラ様からの要請を受け、アグニウス卿からも直々に協力するようにとの命で動き出した今回の件ですが、精霊対策課からしても、今回の件は新たな知見が得られるものであり、今後、これを元に、魔属精霊対策をしていく事は確かな案件です。これを念頭に置いて、皆様お聞き下さい」
俺が『様』付けなのは、次期領主であるインシグニア嬢の領婿だからかな?
「フェイルーラ様の派閥の皆様とアグニウス卿傘下の面々、我々精霊対策課、日刊アダマン新聞から、天気予測士のウェイザー氏と、占い師のアスィア嬢のお力も借りて、行政府の図書館や対策課がこれまで集めた資料なども洗いざらい調べ、分かったのは、フェイルーラ様の説が確かなものであった。と言う厳然たる事実でした」
その後も、ディリジェン氏の説明は続き、適宜グーシーがプロジェクターの内容を変えながら、行政府で分かった事を説明していく。
これで分かったのは、やはり魔属精霊が時計回りに発現するようになった起点が、大聖堂再建設後である。と言う事だった。大聖堂焼失後でも、大聖堂再建設中でもなく、明確に大聖堂再建設後であるらしい。この説明がなされると、教皇猊下が渋面となるのが薄暗がりでも分かった。
「それだと、上下水道の大工事は無関係と言う事ですか?」
グーシーの資料に目を通しているから、ある程度分かっているが、まるで何も知らないかのようにディリジェン氏に尋ねる。
「いえ、そうとも言い切れません」
ディリジェン氏は俺の質問に、大聖堂の再建設だけが理由だと言い切れないと口にし、グーシーに次の資料を提示するように目で合図を送る。白い壁に投射された資料が、大聖堂再建設前後から、今度は上下水道の工事前後をメインとしたものに切り替わる。
恐らく対策課とうちの派閥で作ったグラフなのだろう、三本の線が描かれていた。横に延びる線は『年』を表しており、縦に延びる線は魔属精霊の『発現件数』を表しているらしい。そしてその二つの線の中で右斜め上へと変遷する線がある。これが実際の魔属精霊発現件数だろう。
「これは……」
グラフとして見るとはっきりする。大聖堂再建設前は発現がない年なども散見されるが、大聖堂再建設後に一気に増え、毎年発現するようになっている。しかしそれは件数こそ増えたものの十年近くは横ばいであった。それが上下水道が完成してからは緩やかに増加の一途を辿っている形だ。
「つまり、大聖堂の再建設と上下水道の工事は恐らく無関係ではなく、大聖堂、上下水道の双方が完成した事で、魔属精霊の増加は完成したと?」
俺が確かめるようにディリジェン氏に尋ねれば、首肯するディリジェン氏。これには部屋の全員が閉口する。一体、百二十年前のこの国で何が起こったんだ? 恐らく皆が頭にそんな疑問を浮かべただろうところで、ディリジェン氏が再度口を開く。
「これに関してなんですが、フェイルーラ様、インシグニア様から齎された情報を元に、再度角度を変えて調査した結果、この双方には共通した部分がある事が判明しました」
資料を見ているので分かってはいたが凄いな! もうここまで調査が終わっているとか。皆の期待の視線がディリジェン氏に集まる中、部屋の扉がノックされた。
「会議中に申し訳ありません」
扉の向こうから男性の声が聞こえ、
「何だ」
それに応えたのは黒い軍服を着た暗紫色に赤いメッシュの長髪を、全て首の後ろで纏めた壮年の男性だった。軍人さんか。と言う事は、北東派閥との間で何かしら進展したのか?
「王領にて、魔属精霊が発現しました」
「早過ぎる!!」
これに声を上げたのはアグニウス卿だ。ご自分のご子息を亡くして、まだ二週間も経っていないはず。確か強大な魔属精霊は今は月一かそれ以下程度の出現率だったはずだ。それを考えればあのような動揺の声が上がるのも当然だった。




