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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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悪い顔

「……はあ。こう言っては何だが、賢竜と会ってから、国の膿がボロボロと表面化してきている気がするな」


 へたりこんだガイシア女王陛下をセガン王配陛下が助け起こす中、ガイシア女王陛下がそんな事をこぼす。


「そう言われましても。こちらもこんな事には関わりたくないのですが」


 ガイシア女王陛下と顔を合わせながら、互いに苦笑いをする。本当に、この国の膿はどれ程国を蝕んでいるのか。……考えたくないが、そうも言っていられない。


「グロブス殿下の側近は、どの領の出身者なのですか?」


「……メドウ家の者だ」


 ガイシア女王陛下の言葉に、俺は目を覆う。よりによってあそこかよ。


 メドウ領はヴァストドラゴン領とギガントシブリングス領の中間地点にあり、そこら一帯を治める中小領地貴族の寄親的立場だ。北東派閥などとも言われ、近年ではヴァストドラゴン領の騎士貴族でも、我が家よりもメドウ家の命を優先するような動きをする者たちもいる程、台頭してきた家だ。


 立ち上がったガイシア女王と再度顔を合わせ、また苦笑いする。どうしたものか。


 この時点でメドウ家が動き出す事が確定している訳ではないが、動き出してからでは人死にも多くなるだろう。とは言え、王領は広大だ。各地に国軍が配備されていると言えども、王都の本軍が北東に行くまでに北東地区の国軍が北東派閥の侵攻を阻めるのか。いや、北東地区の国軍が、既に北東派閥に買収されている可能性も考えて行動する必要があるか。ああ、もう! 全てが後手後手だ!


 脳みそがグチャグチャになりそうな時、俺の服の背中を握る感触に、ハッと我に返る。振り返るとインシグニア嬢が、目は前髪に隠れて見えないが、不安そうにこちらを見上げていた。……はあ。婚約者を不安にさせてはいけないよねえ。…………!


「北東派閥なら、女王陛下の『王命』で牽制出来るかも知れません」


「私の『王命』でも、既に後手に回っている事に違いはないだろう……」


 幾らメドウ家が先導しても、旗頭のグロブス殿下を王都に繋ぎ止めているので、向こうは結局烏合の衆だ。とは言え、数は力だ。中小貴族でも集まれば、相応の戦力となる。ここで怖いのが、この烏合の衆に気を取られている間に、ギガントシブリングス領がどのような動きをするかだ。ギガントシブリングス領の親族はアダマンティア王国中に存在しており、これを契機に一斉蜂起されれば、国が滅茶苦茶になる。いや、何ならこの騒動の裏に……。いや、ここで憶測を持ち出すのは陰謀論過ぎるか。分かっているから女王陛下もそこら辺は口にしていないし。


 だが、ここら辺は無視で良い。今回はタイミングが良かったのだから。


「今頃、母上のいる第一周遊旅団が、領の北西に着いた頃かと」


 俺の言葉を聞いて、女王陛下が悪い顔で口角を上げる。これにはセガン王配陛下も学長も、何ならアグニウス卿まで目を覆った。


「そうか。セイキュア殿は今、ヴァストドラゴン領の北西(・・)にいるのかあ」


「ええ。母上は、一昨日の朝に領都ドラゴンネストを第一周遊旅団を連れて出発し、今丁度は北西に着いている頃ですね」


「あの方はせっかちだからなあ。今から私が『王命』を発令しても、テレフォンで先に連絡を入れてしまったら、どのように動く事やら」


「ハハハ、流石に母上も、『王命』が届く前に、他領に侵攻はしないと……、良いなあ」


「ハッハッハッハッハッ」


「アッハッハッハッハッ」


 なんて三文芝居で、誰が納得するかって? これは俺と女王陛下の心の安寧の為にしているのだ。いやあ、流石に、母上もテレフォン一つで他領に侵攻なんてしないよ? シナイヨ。


「済まぬが店長よ」


「は、はい!!」


 一般市民が女王陛下から声を掛けられる事なんて、王都に住んでいても生涯で一度あるかないかだろう。レストランの店長は目を白黒させている。


「店のテレフォンを一時貸しては貰えぬかな?」


「も、勿論です! どうぞ、お好きなようにお使い下さい!」


 言ってガイシア女王陛下を店内に招き入れる店長。これに倣って、全員で店内に……、ってその前に、


「息子さん、どうします?」


「ああ、忘れていた」


「忘れ……!?」


 母親に自分の存在を忘れられていた事に、目を丸くするグロブス王子。でも事態は急を要していたので。


「あれでしたら、うちの派閥の乗ってきたバスで、王城までお送りしますが?」


「うむ。ではそれで」


 扱いのぞんざいさに、眉を(しか)めるグロブス王子だが、今は色々あるので、親だからと言って、そちらにかまけている場合じゃないのですよ。そんな訳で、


「はい、立って。動いて下さい」


 グーシーが主導して、グロブス王子一行をバスに誘導する。一人を除いて。アーネスシスが抑え付けているメドウ家の少年。アーネスシスが目で、「どうします?」と訴えてくるので、


「アグニウス卿に引き渡して。で、宜しいでしょうか?」


 アグニウス卿を振り返ると、


「うむ。彼とは夜が明けるまで語り明かしたい者も多かろう」


 言って、アグニウス卿の側近たちがメドウ家の少年をどこかに連れていく。夜が明けても話は終わらないと思うけど。まあ、今はそれどころじゃないか。


 俺はガイシア女王陛下を追う形で店内に入る。完全予約制なので、個室しかなく、外での喧騒もこの中では静かなものだ。いや、これで出禁にされるって、グロブス王子は何をやらかしたんだ。そんな、もう過ぎた事が頭を過ぎるが、それを振り払い、目の合った店員の誘導に従うと、店のバックヤードに連れて行かれた。そこでテレフォンをしている女王陛下。


(王城か、軍部かな?)


 俺はグローブからメモ帳を取り出すと、現在母上たち第一周遊旅団が(たむろ)している駐屯地のテレフォンナンバーをそこに書き出し、テレフォンで命令している女王陛下の前のテーブルに差し出す。これに通話しながら目を通すガイシア女王陛下。


 関係各所へテレフォンをしている女王陛下を横目に、俺はグローブから今度はグロブス王子の時にも使用した公文書用の用紙を取り出し、母上たち第一周遊旅団への『王命』の命令書を書いていく。


 書き終わるとまだ通話しているガイシア女王陛下に、これで問題ないか確認して貰い、頷き返して貰った事で、これを女王陛下の前のテーブルに置き、万年筆を手渡すと、ガイシア女王陛下はすぐにこれにサインを書く。そして一旦受話器から顔を離すと、話口に手でフタをして、


「軍と王城、行政府への緊急事態による私の権限執行の命令書も頼む」


 との命を受けたので、これもグローブからもう一つ万年筆と三枚の用紙を取り出し、さっさと書いていく。こう言うのは早さが大事だからねえ。


「……セイキュア殿か? ガイシアだ。久しいな……」


 どうやら王都の各所への連絡は終わったらしく、母上と会話し始めたようだ。この間に三枚の命令書も書き終わり、それにもサインして貰う。


 テレフォンでの母上との会話はまだ少し続きそうなので、少し暇になったから、ピンときた別の文書も書いておく。まあ、これにはサインして貰えないだろうけど。と思いながら書いた誓約書をガイシア女王陛下に見せると、「はは」と思わず笑みを見せるガイシア女王陛下だったが、これにも快くサインしてくれたのには驚いた。


「……ふう。済まないが、セガン、賢竜よ。私は王城に戻らなくてはならなくなったので、ここで失礼するぞ。店長よ、この誓約書は後日王印を押してこの店に届けさせるから、そのつもりで」


 早口で捲し立てる女王陛下に、付いて行けない店長が首を傾げるが、それどころではないガイシア女王陛下は、四枚の命令書を持って、店を後にするのだった。


「あ、あの、誓約書……、とは?」


 訳の分からない店長が、恐る恐る俺に尋ねてきたので、女王陛下がサインした誓約書を見せる。


「これは……!」


 そこには、この店が女王陛下の庇護下にある旨、この店での無礼な態度は、どんな貴族であっても女王の名の下、罰を受ける旨が書かれていた。


「四大貴族の一角よりも、女王陛下直々の庇護下の方が、強制力が強いかと思って半分冗談で書いたんですけど、陛下もノリが良いなあ」


 これには顔を引き攣らせる店長と、「くっくっくっ……」と笑うセガン王配陛下。


「グロブス殿下のもありますし、いっその事、店に入ってすぐのレジカウンターのある場所にでも飾れませんかねえ?」


「良いね。ガイシアも、笑いながら快諾してくれると思うよ」


 セガン王配陛下は、未だに笑いを噛み締めながら、そんな事を口にする。この両陛下、意外とお茶目なんだよなあ。


「それにしても、ガイシアとフェイルーラ君、二人で流れるように仕事が進んでいって、思わず見入ってしまったよ」


「そうですか?」


 ガイシア女王陛下の普段の仕事振りが分からないので何とも言えない。こちらは領都で文官見習いをしていただけだし。などと考えていると、セガン王配陛下が、ふと目を伏せる。


「フェイルーラ君とグロブスが、もっと前に、十年前にでも出会っていたら、こうならずに済んだのかな」


「いえ、十年前は私は魔漏れに苦しんでいましたから、殿下が私を気に入った可能性は低いかと」


「そう言えば、そうだったねえ」


 そう口でこぼしながら、セガン王配陛下は目を細めながら俺を見るのだった。


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