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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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クローズドプラン

 現れたのは教皇猊下だ。流石にアダマンティアだけでなく、世界中で信仰され、その影響力も絶大な教皇猊下の登場に、グロブス王子側も畏れ慄く。


 教皇猊下はちらりとグロブス王子に目をやると、興味もないと女王陛下の方へ視線を向ける。


「今回の件、彼も関与しているのかね?」


「い、いえ。馬鹿騒ぎをしたいと駄々を捏ねていたので、直ぐ様然るべき沙汰を下そうかと」


「母上!?」


 グロブス王子からしたら教会に身柄を売られたようにでも感じたのだろう。目をまん丸にして口をあんぐり開けている。しかし、これは好機だ。


「教皇猊下」


「うん? 何かね?」


 一礼してから教皇猊下に事のあらましを説明する。教皇猊下にこの場を取りなして貰うのが、一番収まりが良いだろう。


「グロブス殿下は、その王家の権勢を傘に、このレストランを脅迫するような態度を取ったようでして」


「脅迫?」


 これに眉を寄せる教皇猊下。


「はい。この店はそもそもヴァストドラゴン家の庇護下にありますので、王家とはいえ、蛮行に屈する事は出来ぬと、ここの店長はそれを拒否しました。グロブス殿下の脅迫は王国憲法第三条の特記事項にも抵触し兼ねない行為であり、これは看過出来ない事であると、私は考え、グロブス殿下一行にはこのレストランに近付かないよう警告したのですが、それも受け入れられず……」


 それっぽい言葉を並べ、教皇猊下のグロブス王子への不信感を煽る。


「ガイシア女王陛下、セガン王配陛下も現れ、事は一刻を争うと判断し、すぐに行動に移さねば、となったところへ教皇猊下が現れた次第です」


「ふむ。して、フェイルーラは私に何を求める」


 中々に話が通じる御仁で良かった。


「内容と致しましては、殿下らに王都内からの外出禁止と……、二週間程の無償奉仕を命じて頂ければ、様々な事柄がその間に沈静化するかと」


「分かった。では、そのように取り計ろう」


『なっ!?』


 俺の申し出により教皇猊下から直ぐ様沙汰が出された事に、またも驚愕するグロブス王子一行。


「お、お待ち下さい! 教皇猊下程のお方が、一方の言い分だけを聞いて、沙汰を下すなど、要らぬ悪評に繋がり兼ねません。せめてこちらの言い分もお聞き下さい!」


 必死になってどうにかこの場を切り抜けようと声を上げたのはグロブス王子……、ではなくその側近、先程剣を取り出した少年だった。


「そちらの言い分も何も、グロブスの母とフェイルーラが言うに、お主らが馬鹿騒ぎをする為に、この店を脅迫したのであろう? 神に誓って、この私の前で、それが違うと言えるのか?」


 教皇猊下の言葉に、グロブス王子一行は何も言い返せなかった。ほぼほぼ正しいからね。


 でもこれで内乱の危険度はより低くなった。グロブス王子が王都から出られないとなれば、内乱の旗頭として戴く事は難しい。旗頭がいなければ、内乱を起こそう集まってもそれは烏合の衆だ。国軍で対抗出来るだろう。ヒヤヒヤしたが、ここで教皇猊下が来てくれて助かった。人死にが一人でも少なくなるならそっちの方が良い。


「フェイルーラ様」


 今度は誰だよ? と声の方へ視線を向けると、グーシーたちがアグニウス卿たちとこちらへ歩いて来ていた。皆困惑顔だ。そりゃあそうなるよね。


「ふむ。まだ始まっていないようだな」


 更に王立魔法学校の学長が、教師? 教授? やら白い制服を着た研究科の学生を連れて現れる。


「な、な、何事です!? 王都の重鎮たちがこんな一堂に会するなんて」


 自分ではどうにも出来ないお歴々方の登場に、グロブス王子はたじろぎ、後ろの令嬢方など身を寄せ合っている。


「グロブスに話したところでどうにかなる問題じゃない。さっさと王城に戻って教皇猊下より確かな沙汰が下りるまで静かにしているのだな」


 母上にして国母たるガイシア女王陛下にピシャリと(たしな)められては、グロブス王子も引き下がるしかない。


「俺だって、王子です! 国難があると言うなら……」


 そんな事もなかった。


「人気取りのつもりなら足を突っ込むな。怪我では済まぬ。市井で馬鹿騒ぎをしているような貴様に、その命を懸けられると言うのか?」


「ならば、そやつ……、エスペーシの兄は良いと言うのですか!?」


 まだ引き下がらないのか。そしてやはり名前は覚えられていないようだ。


「そうだ。こやつはその命を賭して、私に異議申し立てをしに来た男だぞ。国の為ならその命散らす覚悟など既に持ち合わせている」


 いや、まあ。出来るなら俺も死にたくないですけどね。


「何事なのだ、インシグニア?」


 事態が飲み込めないアグニウス卿が、俺の後ろにピッタリくっついているインシグニア嬢に話し掛けると、


「へ?」


 などと間抜けな声を漏らすグロブス王子。ああ、やっちゃいましたねえ。


 グロブス王子が漏らした声の意味が理解出来ず、皆の視線が俺に集まる。はあ。


「……先程、一番に辿り着いた我々なのですが、グロブス殿下は、インシグニア嬢を見ても、「知らない」と答えられたので……」


 うっわあ。アグニウス卿は勿論、ガイシア、セガン両陛下に、教皇猊下までがグロブス殿下を睨んでいるよ。そりゃあ、元婚約者の顔を見て、「知らない」はないよねえ。


「い、いや、服がいつもと違っていたので……」


「服が違っていたくらいで、元婚約者の顔が分からなかったと申すのか、グロブス」


 圧のあるガイシア女王陛下の声。多分王の武威も含んでいるのだろう。跪いていたグロブス王子が、今や両手を地面に突いている。


「済みません、ガイシア女王陛下、セガン王配陛下、それにアグニウス卿も。恐らく、これには我が愚妹、フィアーナも関係しているので、折檻もそれくらいにして頂けると……」


「どう言う事だ?」


 訳が分からないガイシア女王陛下がこちらへ視線を向けてくる。こちらまで睨まないで欲しい。ちらりとインシグニア嬢の方へ視線を向けると、観念した。と言えば良いのか、首肯するインシグニア嬢。まあ、余り(おおやけ)にはしたくない事情だったろうからね。


「どうやら、グロブス殿下はフィアーナとの週に一度の逢瀬で、インシグニア嬢をバックミュージック的に扱っていたようでして……」


 これに膝から崩れ落ちるガイシア女王陛下。怒りよりもショックの方が大きかったようだ。


 対して教皇猊下の顔は真っ赤である。こちらはインシグニア嬢を『聖女』に祀り上げようとしていたくらいだ。その胸中の憤怒はガイシア女王陛下よりも大きなものだろう。


「猊下、沙汰はもう決定しておりますので、どうか気をお鎮め下さい」


 俺の言葉に、キッと俺を睨む教皇猊下。


「これを知っていて、先に沙汰を出させたな?」


「はは、何の事やら」


 それにしても、グロブス王子一行は、事態が悪い方悪い方へドンドン加速して転がっていく事に、恐々として青ざめているな。う〜ん?


「どうかなされましたか?」


 俺に声を掛けてきたのはグーシーだ。流石に付き合いが一番長いからか、俺の僅かな機微にも敏感だ。これに、また皆の注目が俺に集まる。う〜ん。でもこの疑問は尋ねないと解消しないよなあ。


「済みません、女王陛下。お尋ねしたい事があるのですが」


「……何かね?」


 何か、ビクついてません? ああ、俺(インシグニア嬢)の件で教皇猊下直々にデウサリウス教の信徒から外されそうになったし、今もご自分のご子息が同様の事態になり兼ねないのだから、気が気じゃないか。


「グロブス殿下は、闘技場で最年少記録を持つお方ですよね?」


「うむ。まあ、現在はまだそうだな」


「これは将来的に軍部に進むと考えるとかなり練られた作戦だと思えます」


「ああ、確かに、そう言う側面はある」


 ガイシア女王陛下も、それは理解されていたか。


「ですが、言ってはあれですが、現在はこの体たらくです。闘技場も以降それ程顔を出しておられないと耳にしました」


「何が言いたい」


 迂遠になり過ぎたか?


「もしや、その頃と現在で、グロブス殿下の家庭教師を代わられたりとかあったのかと……」


「うむ? …………いや、そうだ。こやつの家庭教師をしていた者が戦地に赴き、そこで戦死した為、家庭教師が……!」


 そこでハッとなったガイシア女王陛下の視線は、グロブス王子……、ではなくその側近の少年に向けられた。そしてその側近の少年はこの場から逃げ出そうと既に踵を返している。


「なんて、逃げられると思うなよ?」


 その少年を、素早く回り込んだアーネスシスが締め上げて地面に抑え込む。それを見届けた俺、ガイシア女王陛下、アグニウス卿の三人は目配せする。何処かで誰かが動いた気配だけがあり、俺たち三人は何も語らない。が、いたはずの俺の派閥の何人かは、姿を眩ませていた。仕事が早いねえ。


「な、なな、何なんだ!?」


 事態が理解出来ていないグロブス王子が喚く。これに俺たちは思わず嘆息をこぼしてしまうのだった。


「憚られますが、軽い神輿は扱いやすそうです」


「いや、もう、憚っていないだろう」


 俺がこぼした言葉に、ガイシア女王陛下がツッコミを入れるのだった。


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