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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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王印の価値

 見るからに関わりたくない事態だと言うのに、一体誰が声を掛けてきたのかと、皆の視線がそちらに向かう。現れたのはガイシア女王陛下だった。その後ろからセガン監督官が車から下りてきているので、どうやらそっちから女王陛下の方まで話が通ったらしい事を理解した。まあ、国家の一大事になり兼ねないなら、女王陛下も動くか。


「は、母上!?」


 グロブス王子も、まさか自分の母上であり国母たるガイシア女王が現れるとは思わなかったのだろう。流石に狼狽えている。後ろの女性陣や、グロブス王子の側近だろう剣を手渡した少年もだ。


「何故、このような場所へ!?」


 意外な人物の登場に理解が及ばず、思った事を口にするグロブス王子。


「私が何処へ行くかを、何故グロブスに伝えてからじゃなければいけないんだ?」


 質問に質問で返すガイシア女王陛下。ガイシア女王陛下に一睨みされ、思わずグロブス王子たちが後退る。


「い、いえ、このような市井の店に女王陛下が訪れるとは思わなかったもので」


 取り繕うグロブス王子。


「それはグロブスもそうだろう?」


 それは本当にそう。


「い、いや、ここはフィアーナが経営する店なので……」


 説明するも、グロブス王子の声は尻すぼみに小さくなっていく。なら何でフィアーナがおらず、他の令嬢たちを引き連れてここにいるのか、と返されるのは目に見えているからだ。


 これにガイシア女王陛下は、グロブス王子とでは話が噛み合わないと思ったのか、俺に、説明しろ。と視線を送ってくる。


「あ〜、そうですね。説明はしますので、取り敢えず、グロブス殿下はその物騒なものを仕舞った方が宜しいかと」


 俺の発言で、ハッとなるグロブス殿下。その手には、寸刻前に俺の首を斬り落とそうとしていた抜き身の剣が握られていた。王子だから息子だから大丈夫だったが、これがもし他の貴族であったなら、首を刎ねられていたのはその貴族だっただろう。


 慌てて剣を仕舞うグロブス王子を横目に、俺はガイシア女王陛下に対して説明を始める。


「どうやら貴族の中には、このように市井に自分の居場所を作るのが流行しているのか、フィアーナもその流行に漏れず、ヴァストドラゴン家をパトロンとしてここにレストランを開いたようで」


「成程、賢竜がここを指定したのはそれが理由か」


 頷くガイシア女王陛下。あはは、知ったの昨日ですけど。


「ええまあ。アグニウス卿も所持しているそうですが、そちらは個室が狭く、一対一が基本らしく、こちらには広い個室がありましたので、ここを指定させて頂きました。行政府はもう閉館している時間ですしね」


「うむ。まだ不確定の段階で、行政府の職員に無理をさせるのは間違いだな」


 まあ、精霊対策課の職員さんたちは今日無理させられているんですけどね。残業代出るのかなあ?


「それで大聖堂での練習も終わったのでこちらに来たら、店長とグロブス殿下が揉めていたので、割って入った所存です」


「成程」


 ここまでの経緯は理解してくれたらしく、今度はグロブス王子に視線を向けるガイシア女王陛下。


「ここまでで間違いはないな」


「大ありです! ここの店長は俺を出禁にするとか言いやがるし、こいつに限っては、俺に嘘の誓約書を書かせたのですよ!」


「嘘の?」


 そのワードに反応して、ガイシア女王陛下の鋭い視線がこちらを射抜く。


「グロブス殿下側の勘違いですよ。誓約書の内容を読みもせずに、サインに王印までしましたので」


 俺が肩を竦めると、ギッとこちらを睨むグロブス王子。これに不快そうに眉根を寄せるガイシア女王陛下。対してそれを意に介さずセガン監督官が後ろから俺に寄ってきた。


「どんな内容の誓約書?」


「こちらです」


 俺はグロブス王子のサインと王印の入った誓約書をセガン監督官に渡した。それを上から下までザッと読むと、眉間にシワを寄せるセガン監督官。


「こんなものを書かれるなんて、君はこの店で何をしていたんだい?」


 セガン監督官が胡乱な目でグロブス王子を見遣る。


「んなっ! ただ、……はしゃいでいただけですよ! 悪いですか!」


「レストランは、はしゃぐ場所じゃないと思いますけど?」


 俺の要らない一言に、グロブス王子がこちらを睨む。今のは失言だったかな。


 そんなやり取りをしているうちに、セガン監督官がガイシア女王の方へと寄っていき、誓約書を渡した。これに目を通すガイシア女王。そして嘆息をこぼす。


 誓約書に書かれている内容は、グロブス王子の入店禁止。またグロブス王子と一緒の者も入店禁止。これは以下の文言にも適用される。フィアーナと一緒でも入店禁止。他の誰かが予約してでも入店禁止。他の誰かと一緒に来店しても入店禁止。店員全員の引き抜き禁止。店員からの情報提供禁止。と言う七つだ。これにサインと王印が押されているので、口約束よりも強力で完全な『王家の命』となっている。


「これをされる。と言う事は、一体この店にどれだけ迷惑を掛けてきたんだ貴様は」


 呆れたようなガイシア女王陛下の物言いに、顔を真っ赤にして反論するグロブス王子。


「王家の人間が使うんだ! それだけで店の価値が上がると言うものでしょう!」


 グロブス王子は(わめ)くが、出禁にされている段階で、王家の人間が使う店として、逆に不名誉となっている事に気付いていないのかな?


「王家の面汚しが」


 ガイシア女王陛下も中々にキツい物言いをする。


「んなっ!? 俺が何処で誰と食事しようと、貴方がたには関係ないでしょう!」


 ううん。思春期真っ最中な発言だな。同学年の俺が言う事ではないが、このくらいの年頃だと、親といるより、友達とワイワイしている方が楽しい年齢だよね。自領の年嵩(としかさ)の青年たちも、俺たちくらいの年頃は、良く親たちと喧嘩しているのを見たなあ。


「貴様には王家の人間である自覚がないのか」


 ガイシア女王陛下がグッと睨むと、陛下に対して跪くグロブス王子を筆頭とした令嬢たち。これは王の武威を使われたな。


「グロブス、貴様が何処で何をしようと勝手だが、それで他者に迷惑を掛けるでない。貴様は王家の一人だ。貴様の一挙手一投足が国家であり、国民の模範でなければならない。模範であるべき人間が、それを乱せば、国家は容易く乱れると知れ」


「…………はい」


 これ、返答しているけど、理解しているのかな? してないだろうなあ。喉元過ぎれば何とやらだろう。


「陛下、発言を宜しいでしょうか?」


「許す」


 簡単に許されてしまった。


「グロブス殿下は、普段より王印を持ち歩いておられるようなのですが」


「何だと!?」


 これに驚くガイシア、セガン両陛下。うん、俺も驚いたよ。


「貴様……! 今までに何度使った!?」


「……な、何度と言われましても……」


 跪いたまま、曖昧な答えをするグロブス王子。覚えていないくらいね。そうでしょうねえ。


「全く、何と言う事をしたのだ! 一般市民ならばまだしも、悪意ある貴族との誓約になど使っておれば、下手をすれば内乱に……」


「な、内乱……?」


 事の重大さにまだ理解が追い付いていないらしく、グロブス王子はポカンとしている。今回程度の事に使っていたのならば、良いとは言えないがまだマシな方だ。


 しかしもしもどこぞの貴族が、『グロブス王子がピンチの時には召集に応じグロブス王子に敵対する者たちと戦え』なんて内容の誓約書を大量に発行し、派閥の貴族にバラ撒いていたら、今は既にピンチだ。召集が掛かっていてもおかしくない。


 そうなれば、女王陛下側が『王命』を持っていても、その発行に時間が掛かり後手に回る事となり、本当に内乱となってしまう可能性があり得る。


『王命』の方が『王家の命』よりも上位ではあるが、グロブス王子に付けば、あわよくばグロブス王子が次期国王となり、これに参戦し勝利した貴族たちは、他貴族たちより上位になれる。そうなれば、もうグロブス王子はお役御免。後は貴族たちが傀儡政権を立ち上げ、この国を自分たちの都合良く運営していくだけだ。


「何と(やかま)しい。ここは養鶏場かね?」


 そして更なる闖入者の登場により、また事態が動き出すのだった。


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