何故か火中の栗になる
「済みません、教皇猊下。勝手に決め付けてました」
「なに、誰であれ間違いはある。それに、上下水道の工事が関わっているとなると、大聖堂の再建設時も何かしら関係あるやも知れん」
そう言ってはくれるが、上下水道の敷設となると、大聖堂だけでなく、王都全体の問題になってくる。
「済みません、テレフォンをお貸し頂けますか?」
「こちらに」
神官さんも仕事が早い。ええっと、どこに連絡すれば良いんだ? うちの分館? グリフォンデン領の分館? いや、行政府? 行政府として部署はどこ?
「行政府の精霊対策課ではないでしょうか?」
インシグニア嬢が教えてくれた。
「ああ、そう言う部署があるんですね」
ヴァストドラゴン領の城宮やら、役所にはないな。魔属精霊とか賊が出たら、取り敢えず役所の誰かに申し出れば、そのまま騎士貴族や周遊旅団に連絡が行くからな。
取り敢えず、行政府に連絡を入れる。
『はい。アダマンタイタン行政府です』
女性の声が返ってきた。
「済みません、精霊対策課に繋げて欲しいのですが」
『自然精霊でしょうか? 魔属精霊でしょうか?』
ここでも分岐するのか。
「ええっと、恐らく魔属精霊の方だと思うのですが、ヴァストドラゴン家のフェイルーラから、アグニウス卿に連絡があった。と伝えて欲しいです」
『は? え? ヴァストドラゴン家、ですか?』
物凄く疑われているな。何か王都だと凄く不審人物として扱われる事が多い気がする。気のせいかな?
「取り敢えず、新情報とでもメモでもして貰って、それを魔属精霊対策の方にでも渡して貰えば、こちらはそれで良いです」
『はあ? 新情報? ですか? ん? その新情報に関してメモしなくて宜しいのですか?』
「いや、これって行政府共通のテレフォンですよね? ここで長々会話するより、魔属精霊対策の方から、こちらに連絡して貰った方が早いと思うので。ですから、出来るだけすぐにメモを渡して貰えるとありがたいです。しないと、多分アグニウス卿からお叱りがあるかと」
『…………分かりました。『新情報』だけで宜しいのですね?』
「はい」
これだけやり取りしてテレフォンを切る。テレフォンを終えた俺を、インシグニア嬢や教皇猊下も苦笑気味に見ていた。
「何でしょう?」
「まあ、貴族らしくはないな」
教皇猊下が何とも微妙な顔で食事を続ける。まだ食べるのか。
「フェイルーラ様は文官志望で、自領では文官見習いをされていたようですから、自然と口調も穏やかなものになってしまうかと」
「成程」
インシグニア嬢まで? 何か二人だけで理解したようなやり取りはやめて欲しいんだけど。そしてインシグニア嬢もまだ食べるのね。
俺は、何かジュースでも飲んでいようかな。と近くのピッチャーに手を伸ばしたところで、目の前のテレフォンが鳴った。
「うおっ!?」
早っ!? あの女性はちゃんと仕事してくれたようだ。って言うか、こっちのテレフォンが鳴るのかよ! 俺はピッチャーに伸びていた手で受話器を取る。
「はい、フェイルーラです」
『フェイルーラ君か』
テレフォンの相手はアグニウス卿だった。グーシーじゃなくて心臓が一瞬跳ね上がる。
「ど、どうも、アグニウス卿。お久し振り? ではないですね」
『そんな季節のやり取りのようなものは今は良い。新情報と言うのは、やはり大聖堂が絡んでいるのか?』
アグニウス卿の声が大きいので、教皇猊下の耳まで届いているが、それは仕方ない。
「それはまだ。百二十年前の大聖堂と現在の大聖堂で形が違うのまでは分かりました。カメラで写真に写したので、合流後にそれを渡せるかと」
『そうか。やはり大聖堂が……』
このままでは大聖堂だけが悪者となってしまう。
「いえ、大聖堂の再建設だけが要因とは言えないようです」
『どう言う事だ?』
「インシグニア嬢から情報提供があったのですが、その頃は休戦中で、王都で上下水道の大工事がされていたと」
『…………』
流石にテレフォン越しでもアグニウス卿が閉口しているのが分かる。
「国レベルの問題ですから、一カ所の変化だけで、どうにかなるものではなかった。と言う事かと」
『確かに。こちらでも、大聖堂の再建設前後から調べ直しており、新しい大聖堂の建築をしだした頃から魔属精霊が時計回りに出現し始めていたので、大聖堂が怪しい。と決め付けていた。ただ、それにしては王都より南西にある、アンティークス分川の下水処理施設付近での魔属精霊や魔物の発生が多かったので、それを聖属性への魔属精霊による攻撃と捉えていたが、……はあ。こちらでも王都の上下水道の大工事に関して調べよう。話の擦り合わせをしたいのだが、時間はあるか?』
アンティークス川は、王領北部にあるアダマンティア王国最大の湖、大アンティークス湖から南のタイフーンタイクン領、そして海まで流れる。それは王都で一度分岐し、王都から南西にある旧王都とを繋ぐアンティークス分川を下水処理施設として使い、綺麗になった水はまたアンティークス川に戻される。王都だとアンティークス川って地下を流れているから、分かり辛いんだよねえ。
しかし時間の擦り合わせと言われても、この後まだ聖歌隊と練習あるしな。
「一人、こちらに寄越して貰えますか? カメラを渡しますので。夜には合流出来るかと」
『分かった。私の部下を向かわせよう。その者に夜にどこで話し合いをするか伝えておく』
それで良いか。…………良いか?
「魔属精霊対策の方々は、王都の魔法陣にどれくらい精通しておられるのですか?」
『ああ……、確かにな。魔属精霊出現時、軍に連絡を入れるなり、どこに出現したかなどを記録するのが主な仕事で、魔法陣に詳しくはないか』
「そうなると、王立魔法学校に協力を仰ぐのがベターかと」
『そうなるな。こちらも軍部から人を喚ぼう』
あれ? これ、俺が王立魔法学校に協力を要請する感じ? まあ、良いけど。
「魔に属するものと対するなら、こちらも協力しよう」
教皇猊下が話に加わってきた。
『猊下がそこにおられるのか!?』
これが耳に入ったのか、アグニウス卿も驚きだ。いや、ここ教皇猊下の執務室ですけど? いや、行政府でどこから掛かってきたか聞いたのかな?
「はあ、まあ、教皇猊下の執務室でテレフォンしていますから」
『…………ええ、他意はありません』
「分かっておる。こちらの変化が関係している可能性もまだ残っておるしな」
あはは、何か話がデカくなってきたなあ。もう大人たちに全部任せたい。
「では、王立魔法学校にはこちらから連絡入れておきます」
『うむ。しかしそうなってくると、集合場所をどうするか悩ましいな』
何で?
「グリフォンデン領の分館なり、アグニウス卿の懇意にしているお店で宜しいのでは?」
夜となると行政府は閉館しているし。
『貴族の館に教皇猊下が来られる事は、王都ではタブーとされている。そうなると、どの貴族も教皇猊下を館に招こうと躍起になるからな。それに私が懇意としている店は、個室が狭いのだ。使う時は大体相手は一勢力だからな』
成程? 俺の派閥に、アグニウス卿の派閥、魔属精霊対策の方々に、軍部、教会、王立魔法学校。確かに、各派閥から少数を選出して喚んでも、結構な大人数だ。二、三十人にはなるか。ん?
「ああ……、場所はどうにかなるかも知れません」
『本当かね?』
昨日のレストラン、個室と言っても俺の派閥にエスペーシの派閥全員入れたし、いけると思う。
『では、場所は君に任せる』
「はい。では夜に」
『うむ』
「はあ〜〜」
受話器を置くなり思わず長い溜息がこぼれてしまう。
「何と言いますか、大変な事になってきましたね」
インシグニア嬢も心配なのか、こちらの顔を覗き込んでくる。
「まあ、私に出来る事は少ないかと」
人を集めて場所のセッティングくらい。だと良いなあ。難しい話は大人たちで話し合って貰って。
「さて、セガン監督官に連絡して、必要人員を用意して貰おう」
まさかこんなに早く借りを返して貰う事になるとは思わなかったなあ。




