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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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先入観

「ふむ。それでフェイルーラはいつまでそこに立っているつもりだ? お主も座って一緒に食事にせぬか」


 教皇猊下に気を利かせてしまった。ちらりとお付きの二人の神官を見ると、「どうぞ」と目で訴えている。そうまで言うなら。それにまだ別件があるし、その事も聞かないと。


「済みません。ご相伴に預かります」


 言ってインシグニア嬢の隣りに座ると、どっさりと神官たちにより肉料理が並べられていく。凄い……! 野菜や果物の産地であるヴァストドラゴン領では中々見れない光景だ!


 何から手を付ければ良いのか分からず、あわあわしていると、インシグニア嬢が、鶏手羽のローストチキンや、ローストビーフ、鶏の丸焼き、豚肉のカツレット、ステーキ、フォアグラのテリーヌ、ミートボールパスタなど、それぞれ切り分けて俺の皿に載せてくれた。


「済みません。肉料理には余り縁がなかったもので」


「いえ、これくらいは」


 言いながら、心ばかりのニンジンのグラッセやタマネギのポタージュなども付けてくれた。うん、少しでも野菜があると嬉しい。


 何だか皆に見られている中、縁のないステーキから手を付ける。こ、これは……、美味しい。凄く美味しいけど、何か脂を食べているみたいだ。この調子だと、他の肉料理もこんな感じなのかな? 一番脂が少なそうなローストビーフに手を伸ばす。ああ、うん。これくらいなら?


「どうかね?」


 何がそんなに気になるのか、教皇猊下がワクワク顔で尋ねてくる。


「……ああ、我が領は国の食糧庫と言われていますが、実態は野菜や果物の産地で、肉料理と言うもののランク付けは良く分からないですね。それでも各家で鶏や、牛なども飼っていますが、鶏は卵目当て。牛は肉牛ではなく、農耕用の牛ですから」


「ふむ、そうなのか」


 腕組みして難しい顔をしている。この寸評には不満かな? でも実際に肉の味の差とか良く分からない。


「あんまり脂の多い肉と言うのを食べた事がないんです。ベーコンもそれ自体の脂で焼きながら、同時に目玉焼きを焼くのに使ったりしますし、肉と言えばもう働けなくなった鶏や牛なので。それらや川で捕れた魚を、パテやテリーヌなどの保存食にするのが一般的ですね。ですから、ここにあるのだと、ローストビーフかな? 脂への舌馴染みがあるのは」


「ふむふむ。フェイルーラは余り脂の多いものは好まないのだな」


 何やら納得している教皇猊下。


「いや、肉の脂に縁がなかっただけで、オリーブやゴマ、ナッツ系などの油脂は結構好きです」


「フェイルーラ様が供して下さったピーナッツはとても美味しかったですものね」


 インシグニア嬢がそんな事を口にすれば、教皇猊下の目の奥が光る。いや、別に良いんだけど。


「ピーナッツだけ、と言うのもあれですから、ミックスナッツとしましょう」


 俺はグローブを手に嵌めて、そこからミックスナッツの入った紙袋を取り出す。そこへすかさず神官が皿を持って来た。こう言っては何だが、良く訓練された神官だ。


「ほう、これか」


 匂いを嗅いでから、教皇猊下は皮を剥かれ、塩で軽く味付けされたミックスナッツに手を伸ばす。


「ほうほう。美味いな!」


 どうやら教皇猊下にも気に入って貰えたようだ。これを見てインシグニア嬢も手を伸ばす。うん、口角が上がってニコニコだ。


「もしも、今後も不意に食べたくなりましたら、ワースウィーズ商会の方へご連絡下さい」


 そう売り込んでおきながら、俺はニンジンのグラッセやタマネギのポタージュなどに手を伸ばすのだった。ミートボールパスタ美味しかった。


 ✕✕✕✕✕


「あの、尋ねたい事があるのですが」


 それなりに腹が膨れたところで、教皇猊下に話を振る。


「うむ? 何かな?」


 左手にぎっしりミックスナッツを持ちながら、そこから一つ一つ様々なナッツ類を食べていく教皇猊下に、直接的に尋ねる。


「この大聖堂って、一度焼失して、建て直していますよね?」


「うむ」


「その、こうなる前の大聖堂の設計図なり見取り図なりって残っていますか?」


「何だね? 藪から棒に?」


 まあ、あちらからしたらそうなるよね。う〜ん、これを口にすると明らかに俺の心証が悪くなるが、人命が掛かっているので、そうも言ってはいられない。


「教皇猊下も、魔属精霊による被害には胸を痛めておいでだと思われますが……」


「うむ。何やら徐々に増えているようだ。と感じている」


 そう言うのにも、敏感なんだ。まあ、神官尼官の派遣が増えているとなれば、魔属精霊なりが増えていると行き着くのも当然か。


「それが、どうやら百二十年程前から、一定の法則に基づき、この王領に強力な魔属精霊が出現しているらしいと、分かったのです」


「…………百二十年前。つまりフェイルーラは、その時に起きた大聖堂の焼失と再建設により、魔属精霊の出現に法則性が生まれた。と言いたいのかな?」


 俺へ警戒するような視線を向けてくる教皇猊下。流石に教皇猊下を手の上で転がす事は出来ないよね。


「この王都は元々城塞都市で、王都全体が巨大な魔法陣です。完成した頃の大聖堂は、今の大聖堂と比べると、荘厳と言うよりも質実なものだった。とボールス卿より聞き及んでおります」


「つまり、大聖堂の建築様式を変えたが為に、強力な魔属精霊の出現が増え始めた。と君は言いたいのかな?」


 うう。教皇猊下からの圧が凄い。そりゃあ、教会のせいで魔属精霊が増えた。なんて認められないよねえ。情けなくも思わず助けを求めてインシグニア嬢の方へ視線を向けると、何やら考え込んでいる。


「フェイルーラ様、それは少し荒唐無稽ではありませんか?」


 どうやらインシグニア嬢は教皇猊下側だったらしい。


「何も、変わったのはこの大聖堂だけではありません。王立魔法学校も元は魔法部隊や傭兵たちの施設であり、闘技場は武器や食料の保存用の建物でした。行政府も各地の貴族部隊の施設で、王城と軍基地はほぼ昔のままですが、この大聖堂だけが変わった訳ではありません」


 インシグニア嬢の言う事は至極尤もだ。が、俺がそれらを除外したのには理由がある。


「ですが、それら五つの施設は焼失もしくは、破壊されていないんですよ。確かに王立魔法学校、闘技場、行政府はその役割を変えましたが、建て直した訳ではなく、大魔法により、その役割を変質させたんです。破壊や焼失により建て直した訳じゃない」


 これにまた考え込むインシグニア嬢。


「しかし、(にわか)には考えられん。焼失した事実は確かだし、建築様式を変えたのも確かだ。しかし、この王都は巨大な魔法陣だ。であるなら、当時の教皇が、それと知らずに勝手に王領に不利益が出るような建設をしたとは考えられん。少なくとも、当時の国王らと話し合いをし、建設はしただろう」


「それは……、そうかも知れません」


 うう、一人で突っ走り過ぎたか。


「フェイルーラ様」


「はい?」


 教皇猊下やインシグニア嬢と話し合いをしていると、一人の神官が何やら持って来た。丸めた紙や紙束だ。


「当時の絵師が描いた大聖堂の絵画や簡単な図面、それに現在の大聖堂の見取り図となります」


 おお! そんなものがちゃんとあったのか! これは嬉しい誤算!


 食器類を片し、当時の絵画や図面と現在の見取り図をテーブルに広げて比べる。


「やっぱり全く違いますね」


 俺がぽつりと漏らした言葉にインシグニア嬢と教皇猊下が頷く。ボールス卿の言っていた通り、昔の大聖堂は質実で、それでいて温かみがある。基本が木製だからだろうか? それに対して現在の大聖堂は荘厳で神聖さを感じさせる。どちらが良い悪いではなく、建築様式の差で好みが分かれる感じだ。


 昔からそれなりに広さがあり、形としては丸みのある四角形だ。前方に相当数の人間が入れる礼拝堂があり、後方は神官尼官たちの住居となっている。それを繋ぐように両脇に通路がある。


「真ん中は……」


「『契約召喚の儀』を行う不撓の花園だ」


 ですよねえ。大きな守護精霊などになると、礼拝堂には収まりきらない。第一、『契約召喚の儀』を行う者やその親族で溢れているので、召喚する事自体難しい。なので、礼拝堂の奥に花園、正確には不撓の花園と言う、茎が折れたりしてもすぐに復活する色とりどりの花が咲いた花園があるそうだ。


「ん? この花園の四方にある小さな四角は何ですが?」


「養蜂箱だ」


「養蜂箱?」


「普段は蜂蜜を採取しているのだ」


「蜂蜜?」


 そう言えば、昨日も闘技場でそんな話題が出たような? ん? でも昔の図面には養蜂箱はないな。まあ、常春の魔法は戦争後に敷かれたから当然か。


「王城にも花壇があり、蜂蜜を採取しています」


「王城でもですか!?」


 インシグニア嬢の言葉に素直に驚く。凄いな王都。王家謹製の蜂蜜か。味に差はそんなにないだろうけど、値段はお高そうだ。


「取り敢えず、両方、写真に収めさせて頂いても?」


「…………まあ、仕方ない。大聖堂の潔白を証明させる為だ」


 教皇猊下の許しが出たので、俺はグローブからカメラを取り出し、パシャパシャと前大聖堂と現大聖堂の図面を写真に収めていく。


「あの……」


 そんな事をしていく中、一人何やら考えていたらしいインシグニア嬢が声を上げた。


「はい。何でしょう?」


 写真も撮り終わったので、インシグニア嬢の方を向くと、神妙な顔をしている。


「確か百二十年前と言うと、ギガントシブリングス領の属していた国と、ヴァストドラゴン領のあった国と停戦していた時期ですよね?」


「ああ〜、確かに?」


 そこら辺は確かに時代的には平和だった頃だ。


「それが?」


「どこかの社交場で耳にしたのですが、その頃に王都で上下水道の大工事が行われた。とか」


「はい?」


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