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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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地位と差

「失礼します」


 教皇猊下の執務室に入ると、教皇猊下……とインシグニア嬢が食事をしていた。まあ、お昼時だからそうなるよね。


「どうした。そんなところに突っ立ったままで?」


 教皇猊下が、あの脂っこい肉料理を食べながら、入り口で突っ立ったままの俺に尋ねてきた。


「す、済みません。インシグニア嬢がおられるとは思わなかったので」


「そうか? インシグニア……嬢が来た時は、いつも私と昼食を摂っている」


 それはそうなんでしょうけど。思わず自身の眉が下がるのが分かる。


「ええと、インシグニア嬢は歌奏の為に来ておられるので、昼食の時も、聖歌隊の神官尼官たちと食事を摂られるように計られた方が宜しいかと」


 意味が分からないのだろう。鶏手羽のローストチキンを食べながら、首を傾げている。


「食事時も、午前中の歌奏で至らなかったところを他の聖歌隊の方々と話し合って、午後に備える時間となりますから、ここで食事をするより、聖歌隊の方々と食事をしながら、午前の改善点を話し合って歌奏のレベルを上げる方が、教皇猊下の株も上がるかと」


 これには「ふむ」と頷く教皇猊下。


「そうであったか。それは今まで気付かず済まなかっな、インシグニア嬢」


「いえ、教皇猊下とともに食事が出来る事も、デウサリウス教の信徒であれば、とても貴重な時間ですから」


 口角を上げているが、明らかに作り笑いだ。インシグニア嬢のこれまでのあれこれが想像出来てしまう。と、今はそれどころではなかった。


「不遜ながら、教皇猊下にお願いがあって来たのでした」


「ふむ。願い?」


 これに眉を寄せる教皇猊下。まあ、インシグニア嬢を『契約召喚の儀』の歌奏から外してくれ。とか、無茶な事を口にしてきたからな。


「ああ、ええっとですね、テレフォンが二件来たのは聞き及んでおいでだと思うのですが……」


「うむ」


「セガン王配陛下は、現在王立魔法学校所属となっておりまして……」


「待て待て。何故そうなる?」


 いきなり機先を削がれてしまった。


「セガン陛下の価値を下げる為です」


 これに更に眉を寄せる教皇猊下。


「教皇猊下のお陰もあり、私の首は今も繋がっているのですが、その件で、セガン陛下の威光が強過ぎる事が問題となりまして、そうなると、今後セガン陛下に良からぬ虫が寄ってくるのは自明の理。なので先手として、王族でもあられる王立魔法学校の学長の下に就いて頂いたのです。これなら、セガン陛下の言葉であっても、学長がクッションとなって、変な要望は通せませんから」


「ふむ。成程な」


 どうやら理解して頂けたらしい。


「それでですね、セガン陛下……、今はセガン監督官ですが、セガン監督官は、音楽に造詣が深い方でして、王立魔法学校の入学式でインシグニア嬢に歌奏をさせる。と言う案も、セガン監督官のものなのですが、一昨日に私も招待されて、魔法学校の音楽倶楽部の歌奏を見学させて頂いたのですが、それが、インシグニア嬢と比べると、ここの聖歌隊よりもやはりその差が歴然でして」


「うむうむ。ここの聖歌隊に入れるのは、本当に全国、いや、世界的にも一部の者だからな」


 教皇猊下的に、聖歌隊を褒められて嬉しそうだ。


「なので、指導者を招聘したいと言う話となったのですが……」


「ウェルソンが来るのか!?」


 身を乗り出す教皇猊下。


「いえ、ウェルソンは母上の所属する周遊旅団に同行しているので、こちらに喚ぶ事は難しく、次案としてウェルソンの弟子の一人のシキイを喚ぼう。と言う事になったのです」


「シキイ?」


 ウェルソンじゃない事にがっかりしながら首を傾げる教皇猊下に、お付きの神官の一人が、「王立楽団におられた方です。次期マエストロの呼び声も高かったかと」と耳打ちしている。


「ふむ。それが何故こちらに話を通す事となるのだ?」


「ウェルソンは、あれで教会所属ですから、その弟子であるシキイも現在教会所属なんです」


「成程」


 これにニヤリと笑みを見せる教皇猊下。教会から王国に人材を派遣するとなると、貸しが作れるからねえ。教会としても何か別件を申し出てきても突き返すとか、インシグニア嬢の派遣を王国より教会を優先させるとか、動き易くなるだろう。


「それでですね。シキイを招聘するにあたり、魔法学校内に礼拝堂を作り、シキイ自身もそちらで生活するように要望を出したのですが、それが理事会で通った。とセガン監督官から連絡が来た訳です」


「魔法学校に礼拝堂を作るのは、信徒として良い心掛けだが、そのシキイを魔法学校に縛るのはいかがなものなのだ?」


「いや、シキイの拘束時間もそれ程長くはならないでしょうから、準マエストロ級の指導を、こちらの聖歌隊にも指導出来る時間は出来ると思います。ただ、寝食を魔法学校にするだけで」


「う〜む。その礼拝堂がどの程度の広さか知らないが、こちらからも、数名送る事は可能か?」


 やはり、教会的にも、王立魔法学校の様子は気になるか。向こうに先に通しておいて良かった。


「それは勿論。シキイ自身も、ヴァストドラゴン領の聖堂から何人か連れてくる事は想定していますから」


「うむ。であるなら、こちらは問題ないぞ」


 ふう。ここまではオーケーだ。さてここからの事はどうなるか。


「それでですね。教皇猊下にはシキイの神官の位を上げて頂きたいのです。シキイは現在準司教の位にあります。ですが、魔法学校内の礼拝堂とはいえ、一つの教会を預かる者としては少し位が低く、学生たちに見くびられる可能性もありますので、畏れ多い事ですが、教皇猊下直々に、シキイを司教に昇格しては頂けないでしょうか」


「……成程、それが今回の願いか」


「……はい」


 これに腕を組んで悩む教皇猊下。


「シキイとやらは、神官としてどうなのだ?」


 これに目を逸らす。


「まあ、神官としては口は悪い方ですね。でも、音楽の腕はそれこそマエストロに並ぶ程で、素行としても、他者に対して口が悪い以外は手を上げたり、地位を傘にして何か無理矢理面倒事を押し付けるような奴ではありません」


 これに教皇猊下は「ふむう」とまた考え込む。悪い奴じゃないんだよ。ただ、音楽の事となるとヒートアップして口が悪くなっちゃうんだよねえ。あ、


「それと、これは書状で良いのですが、ボールス枢機卿宛に、ウェルソンを司教から大司教に昇格させるように一筆書いて頂けませんか」


「ん? そう言えば、前に話した時、ウェルソンは司教と言っていたな」


「はい」


「ならば大司教など挟まず、枢機卿に昇格させても良かろう」


 そっちは甘々なんだ。


「いや、ウェルソンはボールス枢機卿に心酔しているところがあるので、同じ枢機卿に昇格したら、逆に畏れ多いと拒否してしまうと思うので」


「ふう〜む。彼の功績を鑑みれば、枢機卿への昇格も当然なのだがな」


 ははは、外からはそう見えるんだろうなあ。


「まあ、そう言う地位などに縛られるのを嫌う奴ですので」


「そうか」


 また腕組みする枢機卿。


「ウェルソンの事は承知したが、シキイ、だったか? 彼に関しては直接会わねば、判断出来ぬな。場合によってはこちらから司教を派遣するとセガンに伝えよ」


「畏まりました」


 このお方、意外と教皇としてはしっかりしているんだな。昼間からTボーンステーキを食べているけど。


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