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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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ぐるぐる回る

「一件は私の部下からだと思いますけど、もう一件はどちらからですか?」


 テレフォン先の相手を待たせるのも忍びないので、連絡してきた神官さんとともに早足で大聖堂内を歩く。


「セガン陛下です」


 ああ。シキイを招聘する為に、魔法学校内に礼拝堂を作るってあれか。そう言えば今日緊急で理事会で提案する。って流れになっていたっけ。


「それは待たせたらいけませんね。早く行きましょう」


 俺がそう口にして、神官さんを追い抜く勢いで歩き出すと、逆に神官さんは速度を落とす。


「いえ、セガン陛下の方からは、万事望み通りとなった。と言伝を預かっております」


 ふむ。万事望み通りか。セガン監督官だから意見が通ったのか、前々からそこら辺問題として提起されていたのか、シキイを招聘出来るなら、と意見が通ったのか、理事会で何が話し合われたのか知らないが、シキイがこちらに来るのは確定みたいだな。となると、


「テレフォンの後、教皇猊下と話し合いをする機会を頂けないでしょうか? 少し今後の事で相談したい事が発生しましたので」


「相談、ですか? フェイルーラ様からの相談でしたら、マルカッサン教皇猊下も、無下に断る事もなされないかと思われますから、大丈夫かと」


 そうなの? 俺は嫌われていると思っているのだが? 一応音楽の才だけは認められているのかも知れないが、人格は認められていないと思う。まあ、神官さんがそう言うなら、望みあり。と思っておこう。


 ✕✕✕✕✕


 通された部屋は事務室だった。大聖堂であろうと、いや、ゼウサリウス教の象徴である大聖堂だからこそ、事務室はあって当然だろう。ここは他の部屋と違って地味だ。本当に事務仕事をする為だけの部屋。と言った印象である。


 事務室で事務仕事をしている神官尼官を他所に、「こちらです」と受話器をテレフォン本体の横に置かれたテレフォンの受話器を取る。


「代わりました」


『お忙しい中済みません、フェイルーラ様』


 テレフォンの相手はやはりグーシーだった。


「いや、良いよ。丁度昼休憩に入ったところだから。しかし、半日で連絡してきたって事は相応の何かがあった。と思って良いのかな?」


『……はい。フェイルーラ様の勘は、残念ながら当たっていました』


 やはり強力な魔属精霊の発生は、王都を中心に時計回りに発生しているのか。まあこれ、派閥の子が言っていたんだけど。


『アウグニウス卿、日刊アダマン新聞の天気予報記者、占い師と連絡を取り、行政府内にある図書館で落ち合いました。何故かクリア女史とオーバ氏も来ていましたが』


 何で? ネタになると思ったのかな?


『それで、図書館に保管されていた日刊アダマン新聞の天気予報や、その予測の元となったこの五百年の天気情報の記録されたある王族血統の日誌、他に天気が記載されている本やエッセイなど、それにアグニウス卿から、政府が所蔵している魔属精霊の発現地点の情報を照らし合わせ、色々調べたのですが、発現点は王都から近い遠いはありますが、時計回りである事は間違いないようです』


「そう。そうかあ……」


 ううん? 可能性としてあり得ると思っていたが、俺の予想では五分五分だった。それがほぼ確定となると、それではまるで王都があるから、強力な魔属精霊が王都を中心に時計回りに出現するように誰かが仕掛けたかのような、陰謀論的なものが頭を過ぎってしまう。


「アグニウス卿は何と?」


『天気予報はこれからも続けて良い。しかし今回の事を新聞として取り上げる事は禁ずる。との判断です』


 クリア女史が絶望顔をしているのが目に見えるな。しかし、王領は広い。ヴァストドラゴン領などの四大貴族領よりもだ。時計回りと分かったところで、何時何処でがはっきりしない限り、下手したら逃げた先で魔属精霊や魔物と出会う可能性は少なくないだろう。


『それと……』


 まだ話の続きがあるらしく、グーシーは声を潜める。大声では言い難い事なのだろう。


『天気予測士が手に入れた王族血統の日誌で分かった事なのですが、この日誌によると、以前は時計回りではなく、ランダムだったようです』


「ん? どう言う事?」


 思わず受話器越しに首を傾げてしまう。


『気象データに関してはほぼ変わらず五百年前から、南西から北東に向かって、気候が変化していっているのが分かるのですが、ある一点、百二十年前頃から魔属精霊の出現はランダムではなくなり、出現数もそれ以前と比べて増加傾向にあります』


「つまり百二十年前から、突如として魔属精霊は時計回りに出現するようになり、そしてそれは年々増え続けている。と言う事で合っている?」


『はい。これが何故なのか、アグニウス卿やその派閥の貴族、また部下の行政府職員たち、かの占い師なども首を捻っている次第でして……』


「それで俺に連絡してきたの?」


『申し訳ありません。これに気付いたフェイルーラ様なら、何かしら、気付く事があるのではないか。とアグニウス卿が』


 魔属精霊の増加は、王領だけでなく、このアダマンティア王国全体の問題だ。王領での魔属精霊との戦いで、跡継ぎとなるはずだったご子息のイグニウス卿を亡くされているアグニウス卿にとっては他人事ではない。魔属精霊の増加に対して、少しでも情報を集めたいのだろう。その場にいないが、焦りが垣間見える。


 しかし、百二十年前の事で何か知らないか。といきなり言われてもなあ。俺は歩く生き字引じゃないのだ。王領や王都生まれでも育ちでもない。そんな情報ポンポンと出る訳ない。と俺は事務室を見回す。もう昼休憩だと言うのに、数名がせっせと事務仕事に勤しんでいる。…………あれ?


「済みません」


 俺は受話器の話口を押さえて、事務仕事に当たっている神官さんの一人に声を掛ける。因みにここまで連れてきてくれた神官さんは、教皇猊下の方へ向かっている最中だ。


「はい。何でしょう?」


 神官さんが紙にペンを走らせるのを止めて、こちらを向いてくれた。


「仕事中、済みません。変な事を聞くようで申し訳ないのですが、確か、この大聖堂ってかつて全焼して建て直しましたよね?」


「はい。百年以上前になりますが」


 …………んん?


「その、設計図ってあります? 百年以上前のと、現在の」


「百年以上前のは、流石に燃えてしまって残っていませんね」


「ですよねえ。済みません、変な事聞いて。どうぞ、仕事に戻って下さい」


 俺は話口を塞いでいた手を退けて、グーシーにこの事を伝える。


「大聖堂が百年以上前に全焼して、建て直している。確かその時、かなりお金を掛けて、豪奢に建て直したはずだ。この王都はそれ自体が巨大な魔法陣だから、大聖堂レベルのものに変化が起こったなら。でもまだ憶測だ。こっちには前の設計図は残っていないそうだ。図書館の方で調べてみてくれ」


『そっち、ですか。確かに、時期的にも全焼から建て直しに要した期間の魔属精霊の出現の変化、それにその後どうなったか、王都全体も含めて調べてみます』


「うん。当てずっぽうだから、絶対とは思わないでね」


『分かりました。アグニウス卿の方とも情報共有して事に当たります』


「それじゃあ切るね」


『ありがとうございました』


 はあ。受話器を置いて、嘆息をこぼす。これは……、意図的? それとも意図せずか? 百年以上前じゃあ、真実は分からないなあ。


「フェイルーラ様。教皇猊下がお話をお聞きになるとお申しです」


 そこへ先程の神官さんがやって来た。こっちはこっちでやる事が多い。


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