悪さする天気
俺の目に飛び込んできたのは、地図だった。新聞の裏面、その一角に描かれたその形から、王都を含む王領の地図だと分かる。何で地図なんて載せているのか? しかも地図には幾つか波線が引かれている。それとは別に一週間の天気予報。気温や春の花の開花予想や魔属精霊の出現予測なんてものも書かれている。
「天気予報?」
その地図には『天気予報』と言う題名が付けられていた。怪しい。天気って予報? 予想出来るものなのか? このコーナーを仕切っている者として、アスィアと言う占い師とウェイザーと言う天気予測士と言う二人の名前が載っている。どうやらこの二人で天気や魔属精霊の出現を予測しているようだ。
占い師は分かる。占いの属性魔力持ちは数は少ないが存在するからだ。この予測士ってなんだ?
「どうかされましたか?」
俺が新聞を見入っていたからだろう。グーシーが何か問題でもあったのか、尋ねてきた。
「いや、変わった記事を見付けてね。グーシー、この新聞、そうだな俺たちが来てからの六日分を持って来てくれるか?」
「? 分かりました」
不思議そうな顔となったが、何を聞き返すでもなく、グーシーは食堂を離れた。
「どうかされたんですか?」
その代わりと言うか、アーネスシスは尋ねてきた。
「いや、ちょっと面白いなと思ってね。もしかしたら、予てから懸念していた問題の解決に繋がるかもしれない」
これに派閥の面々は不思議そうな顔となる。
✕✕✕✕✕
「ふむ」
合っている。グーシーに持って来て貰った新聞に目を通すと、曇りか晴れか程度の違いで、ほぼ王都周辺の天気予報は合っている。恐らく予測士のウェイザー氏は、王領の有名どころに天気観測用の魔導具を張り巡らせて、そこから天気を予測しているのだろう。一昨昨日の雪(王都では雨)も合っている。開花予想は過去の統計から割り出しているのだろう。
問題は魔属精霊の出現予測だ。こちらは主に占い師のアスィア氏が行っているのだろうけれど、魔属精霊の発生は、災害発生に近いので、そう言う意味で天気予報に同時に載せているのだろうけれど、これ、微妙に天気予報に被っているところと、全然関係ないところを予測しているものがある。
昔から天気が悪くなると魔属精霊が騒ぎ出す。なんて言われて来ている。ではこの全然関係ないところでの魔属精霊予測は何だ? 新聞を精査すると、天気の悪いところと天気の関係ないところ、同時発生している場合がある。これって、もしかして、最近魔属精霊が増えている報告と関係あるんじゃないか?
「グーシー」
「はい。この一年分、持ってきます」
事が早くて助かる。グーシーに続いて、ブルブルや他の派閥の面々も付いていってくれる。一年分となると大量だからな。
「フェイルーラ」
新聞とにらめっこしていると、不意に声を掛けられた。そちらを見る、ドアのところでエスペーシが派閥の面々とともにこちらをジト目で見ている。
「ああ、悪い。場所を移動するよ」
「は。自分たちの記事が載ってないか、必死にかよ」
エスペーシ派閥の誰かさんがそんな事を口にする。これに睨むエスペーシ。まあ、そんなに気にしてないけど。
「ありがとうな」
俺たちが食堂から出ようと言うところで、エスペーシが俺にだけ聞こえるような声で、そんな事を口にする。
「何社か、エスペーシを一面に飾っている新聞があるから、それは置いていくよ」
これにエスペーシは頷き、エスペーシと入れ替わりで食堂を後にした。
✕✕✕✕✕
「う〜ん……」
場所を勉強室に移し、一年分の日刊アダマン新聞の天気予報とにらめっこをする。本当はもっと長期の情報が欲しかったが、この分館には一年分しか置いていなかった。沢山あっても嵩張るだけだしな。保存用の魔力も無限じゃないし。それでも色々分かってきた事がある。
「天気と魔属精霊の相関関係は、こうして図で見ると、一目瞭然っすね」
アーネスシスの言葉に全員が頷く。実際天気が荒れていると七割くらいの確率で、魔属精霊が関与している。これは魔属精霊のせいで天気が悪くなっているのか、天気が悪くなっているから魔属精霊が現れているのか、そこら辺までは分からない。
が、そっちは良い。まだ予測が立てられるからだ。それよりも、占い師の方がおかしい。弱い魔属精霊は分散して王領の各所に現れると占っているのだが、こちらの正答率は良いところ五割といったところだが、強い魔属精霊の正答率はほぼ百%だ。何これ? インシグニア嬢の兄上であるイグニウス卿がやられた魔属精霊も当てている。
「占いって、『混沌』系統の属性魔力だっけ?」
「はい」
グーシーが間髪入れずに返答してくれた。恐らく自分でも占いが何属性か思い出していたのだろう。
『混沌』属性。別名は『時間』属性。『時間』だから占いは当たる。が、『混沌』属性である為に外れる事も少なくない。それなのにほぼ百%と言うのは、このアスィア氏が高位の占い師なのか、それともこの占いで出てくる魔属精霊が強い故なのか。
「あの」
「はい?」
派閥の女性の一人が、声を上げた。皆の視線が彼女に向けられる。これに少したじろぐ女性だったが、意を決したように自身の意見を語る。
「あの、この占いによる強い魔属精霊の出現予測なんですけど、弱い魔属精霊のせいで、いつどこで現れるか分かり辛くなっていますが、強い魔属精霊だけに絞ると、この王都を中心に王領を時計回りに出現しているようなのですが……」
彼女の発言に、皆してそれまでの天気予報の地図やその簡単な写しとにらめっこする。すると、王都からの位置や距離はバラバラだが、いや、バラバラだったが為に分かり難くなっていたが、確かに強い魔属精霊は時計回りに出現している事が分かる。
「おお! 凄い! 偉い!」
「あ、ありがとうございます」
素直に褒めると、顔を赤くする彼女。これに感化されてか、女性陣が張り切るが、これ以上となると、専門家に頼るのが良さそうだと思うんだけどなあ。
「グーシー、この後、日刊アダマン新聞さんと、アグニウス卿のいるグリフォンデン領分館に連絡いれて。北西の行政府って、確か図書館を併設していたよね? そこならもっと長期間の新聞を保存しているはず。それに行政府なら魔属精霊の出現場所や時間を正確に把握しているだろうし、そちらの専門家もいるはずだ。これらを組み合わせれば、昨今の魔属精霊増加に対して、何かしらの対策が打てるかも知れない」
「了解しました」
ここまでだ。女性陣はがっくりしているが、男性陣ともどもグーシーに付いていって、向こうを手伝って貰いたい。
「じゃあ、俺は大聖堂で演奏の練習をしないといけないから、ここで解散って事にして、後は……、時間的にどうなるか分からないけど、もしかしたら拘束時間によっては夜になると思う。そこまでに、何かしら掴んできて」
『はい!』
うん。相変わらず良い返事だ。




