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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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光と闇

 皆さん、おはようございます。七日目ですね。う〜ん、何故だろう、まだ王都に来て七日目なのに、イベントを百回以上熟した気分だ。


 はあ。今日こそのんびりしたいところだけど、今日は大聖堂に行かなければならない。『契約召喚の儀』で演奏する、『夜明け、始まりの陽射し』の練習があるからだ。……せめて週に一日は休みが欲しいと思うこの頃。


 ✕✕✕✕✕


「おはよう」


『おはようございます!』


 今日はジュウベエ君に叩き起こされる事もなく、今日も今日とて、アーネスシスと派閥の少年が俺の部屋の前に立っていたので挨拶した。そのまま三人で食堂に向かう。


『おはようございます!』


 食堂では俺が入ってくるなり、派閥の全員が直立して挨拶してくれる。皆、真面目か?


「おはよう」


 自分ながら何とも気の抜けた返事をしながら席に着く。今日の朝食はトーストとベーコンエッグにサラダだ。ふと、インシグニア嬢は朝何を食べているのか気になったが、それも魔法学校に入学すれば分かる事だ。と意識から切り離す。


「フェイルーラ様、こちらを」


「うん?」


 グーシーがテーブルに新聞を置いてきた。いつもは口頭で「何があった」とか「何があります」とか報告するのに、新聞をそのまま渡してくるのは異例だ。が、その新聞の一面を見れば、理由も納得である。


『ヴァストドラゴン家の躍進!!』


 そんな見出しがデカデカと新聞上部を飾っている。そしてエスペーシが剣を振るう姿の写真がど真ん中にあり、その右下に小さく、インタビュー時の俺のにっこり笑顔が載っていた。


「これって、クリア女史の?」


「はい。日刊アダマン新聞です」


「いや、これが一面って、王都は話題に欠けているのかな? もうちょっと、こう、政治的な話題はなかったのかな?」


 俺がトーストにベリージャムを塗りながら、そんな事を口にすると、


「他の新聞も同様ですので、今回が異例かと」


 そうなんだ。グーシーが異例と言う事は、政治色の強い新聞でも、一面が闘技場の話題と言う事は、それだけ今日の件は大衆の関心を惹くものと各新聞社は判断したのだろう。母上以来となると、二十年以上振りだろうから、そうなるのも分からんでもない、か? などと考えながらクリア女史が書いたのだろう記事に目を通す。


『この日、闘技場の観客たちは二つの奇跡を観た。一つはニュービーの階数到達記録タイと言う奇跡。そして二つ目はそのニュービーの階数到達記録の更新だ。三十二階。それまで誰も更新する事が出来ずにいたセイキュアの記録を、たった半日で十一階も更新すると言う前人未到を達成したのは、やはりヴァストドラゴン家の者であった。セイキュアの双子の一人フェイルーラはタイ記録を、もう一人のエスペーシはそれを超える新記録を達成したのだ。観客たちは今日と言う日を一勝忘れる事はないだろう』


 案外出だしは普通だった。


『午前の静寂は午後の熱狂によって塗り替えられた。闘技場に颯爽と現れたその決闘者は、右手に光の剣を持って現れたのだ。光のみで構成された剣。戯曲や演劇、シネマなどでは定番ではあるが、それは存在し得ないと学者たちから否定されてきた奇跡の剣。それを携えて現れた僅か十五歳の少年は、全ての対戦相手を一撃で終わらせ、嘗てない速度で闘技場の階段を駆け昇り、日が暮れて外が夜闇に包まれる中、三十二階と言うニュービー新記録を大幅更新した。誰がこの奇跡を予見出来ただろう。誰も予見出来なかったはずだ。だが一人だけそれを予見していた人物がいた。彼の兄である』


 ふむう? 俺に言及するのか? エスペーシに頑張って貰って、俺の功績などなかったものにして貰おうと思ったのに。喋り過ぎたか?


『午前の闘技場はいつもの熱狂と一変して静寂に包まれていた。その静寂の中心にいたのが、上述の光の剣の使い手エスペーシ・ヴァストドラゴンの兄フェイルーラ・ヴァストドラゴンだ。彼の登場に当初観客たちも決闘者たちも色めき立った。何故ならその先日にフリーバトルにて彼は自身の魔力量の十二倍と言う対戦相手と闘い見事ジャイアントキリングを果たしたからだ。だがこの日の彼は違っていた。彼はジャイアントキリングをしてみせた時に使っていたガンブレードを持たずに現れたのだ。そうそれは徒手空拳で闘うと言う宣誓であった。闘技場の誰もがこれを嘲笑った。フェイルーラの魔力量は騎士貴族でも下、闘技場で闘う者たちの中でも下だ。そんな彼に徒手空拳で何が出来ると言うのか。だがその皮肉は第一戦で悲鳴に変わった』


 悲鳴なんて上がっていたのか?


『まるで街中を歩くかのように対戦相手に近付き心臓を手刀で一突き。誰もがゾッとした。そして理解した。彼はガンブレードと言うバフがあるから強いのではない。全身そのものが既に凶器であると。その後の彼の闘いはここで語るには余りに凄惨であった。まるで殺人現場を観せられたかのようで、どの階層であっても彼が現れるとフロアは静まり返る。そして血気盛んにして勇気ある決闘者たちが、闘いたくないと次々とサレンダーしていくのは、異様でありこれまで何年と闘技場で取材してきた記者自身、始めて観る光景だった。その初めてに惹かれ、私はこの決闘者に興味が湧き、直撃取材をする事とした』


 そうね。俺に声掛けてきたのはクリア女史とオーバ氏の二人組だけだったから、社としたら他の新聞社と差別化出来ると思って、俺視点からの記事を載せる事にしたのかな?


『取材は閉じられたグループ席で静かに行われた。それは最初から意外の連続だった。あんな殺人を犯した彼だがバトルフィールドとは違い、彼はとても穏やかな紳士だった。上述通り、決闘者には血気盛んな者が多く、ここで闘う武闘派の貴族も一癖二癖ある者が多い。そんな中、武闘派筆頭として知られるヴァストドラゴン家の彼は穏やかな、言葉を選ばず記すなら、他の決闘者たちから気弱と取られてもおかしくない緩やかさであった』


「俺って、気弱に見える?」


「いや、『普通』じゃないですか? 多分、闘技場で闘うタイプには見えない。と言う意味かと」


 ああ、そう言う。グーシーの言葉に納得する。


『更に驚いたのは、彼が取材前に最初に発した言葉だ。「自分は二枚舌だ」この国の貴族は往々にして二種類に大別されるのは貴族や市民問わず知っている事だ。それを分かった上で彼は自分を二枚舌と評した。なのでこの後の取材内容に関して彼の言動はそれを念頭に置いて読んで戴きたい。それはここからの彼の言動がともすれば荒唐無稽と取られるからだ』


 お、ちゃんと二枚舌って書いてくれている。ここら辺は端折られると思っていたが、俺の取材内容が向こうには荒唐無稽に思えたらしい。


『まず彼に何故今日徒手空拳で闘ったのか尋ねた。理由として今日彼は本来であれば闘うつもりはなかったとの話だ。では何故闘ったのか。理由はさる王侯貴族より要請があってとの話だった。それが誰であったかは話さなかったが、その王侯貴族が彼に求めたのは、彼の母の代名詞『インビジブル・バースト』を観せるように求められたとの話であった。そう、彼は二十一階に昇るまでにあの『インビジブル・バースト』を使っているのだ。この時点で荒唐無稽である……』


 その後も連連(つらつら)と、俺のインタビュー記事が記載されている。インビジブル・バーストに始まり、俺が無属性魔力である事とか、それに対して、エスペーシに簒奪された。と口しており、そこからエスペーシの光の剣の考察、俺たち派閥が兄弟から殺人集団と呼ばれている事とか、インシグニア嬢が話した、大聖堂であった事や王城であった事、俺を覚悟の人と称した事、午後を楽しみに。と言った事などなど、結構盛り込まれた記事だ。ただジュウベエ君とブルブルの確執は書かれていない。理由は俺には憶測しか出来ないのでまあ、脇に退けておこう。最終的に、クリア女史の記事はこう締められていた。


『光あれば闇がある。エスペーシが正しく光であるのなら、フェイルーラは闇である。恐らくエスペーシ・ヴァストドラゴンは今後も光の当たる正道を進むのだろう。それは容易に想像が付く。そしてフェイルーラ・ヴァストドラゴンはその光を利用して闇に潜むのではないだろうか。終始穏やかだった彼だが、その眼から諦観は見受けられなかった。王立魔法学校で圧倒的強者であるエスペーシが敵に回ると分かっていても、彼の眼に陰りはなかった。であるならフェイルーラ・ヴァストドラゴンにはこれに対抗する策が既にあるのではないかと私は思う。それはまるで太陽を飲み込む日蝕の如く』


 何をちょっと詩的に纏めているんだよ。これ新聞記事だよね? 一通り読み終わったので、グーシーから他の新聞も渡して貰い、比較するが、やはりエスペーシの新記録と光の剣の話題だけで、俺の事は一行二行程度だ。このクリア女史が書いた日刊アダマン新聞だけがおかしい。


 何だかなあ。と思いながら他の記事も読んでいると気になる記事? が目に飛び込んできた。


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