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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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出禁に出来ん

「わざわざ見送りにまで来て貰ってしまって、申し訳ありません」


「い!? いえいえ、こちらの者も慮って頂き、ありがとうございます」


 エスペーシとの作戦会議もどきの後、ここでする事もなくなったので、個室から出で行くと、店長さんが、わざわざ時間を作って、俺たちの見送りに来てくれた。


「いやあ、こちらが迷惑掛けた方ですから」


 などと店長と会話している間に、アーネスシスが頼んでおいたクッキーの詰め合わせを貰っている。


「あ、そう言えば、迷惑掛けたからではなく、サービスで頂いたクッキーが美味しかったので、また来たいと思っているのですが、予約って、どれくらい埋まってます?」


 これにパアッと明るい顔になる店長さん。


「フェイルーラ様でしたら、いつでもお越し頂いて構いません」


 ? どう言う事?


「多分、この店は本来なら予約制のうえ、紹介がないと入れない店なのかと」


 俺が首を傾げていると、インシグニア嬢がそのように説明してくれた。成程? 分からん。


「紹介は必須事項なんですか?」


「来店客がこの店で何か粗相をした場合、その来店客だけでなく、その来店客を紹介した人物も連帯責任で入店禁止にする店が、王都には何件かあります」


 成程? 分からん。


「それだけの権限が一店舗のレストランにあるんですか?」


「遡ると、後ろ盾として大物貴族が付いている場合が大抵で、なので、店に迷惑を掛けた客やその客を紹介した人物を、その大物貴族の名の下で入店禁止にしているかと」


 はいはい。


「もしやインシグニア嬢も、このような店の後ろ盾を?」


「いえ、父上が会合などで使う用に用意しています」


 意外だ。インシグニア嬢なら、自分用のレストランを持っていても不思議じゃない。


「私が持つと、結局私の歌目当てで、私は食事よりも歌い続けないといけなくなるので」


 成程。インシグニア嬢の紹介となれば、まずはインシグニア嬢に一曲歌って貰う。が通例になりそうだ。社交場だけでなく、余計に歌を要求されるようになっちゃうのか。


 しかし王都にはこう言うシステムの歌もあるんだなあ。ん?


「あれ? エスペーシがこの店で食事していたって事は……」


 俺が目尻を引き攣らせながら店長へ視線を送ると、何とも言えない顔の店長が深く頷く。あ、うん。この店、ヴァストドラゴン家が後ろ盾だ。それならエスペーシが来て間もない王都の予約制の店でフレミア嬢と会食しようと出来た訳だ。俺が乗り込んでも許されたのも、それが理由か。これに関してうちの派閥の面々が事前に何も言ってこなかったので、知らなかったんだろうなあ。恐らく俺の派閥はハブられているのだろう。


「ええ、何と言いますか、重ね重ねご迷惑をお掛けしました」


 後ろ盾の家の者が騒動を起こしちゃいけないよなあ。


「い、いえいえ、本当に大丈夫ですから。こう言った事はままありますので」


 気を使ってくれる優しい店長だが、こう言った事がままあるのは問題なのでは?


「あ、えっと、それで予約なんですけど、もしかして、春分前後に、ヴァストドラゴン家で予約って入っています?」


「……はい」


 やっぱりか。春分には魔法学校の入学式だからな。そこら辺に家族での予約が入っていて……、


「それって誰名義とか、誰が来店するとか分かります?」


「え? 少々、お待ち下さい」


 俺が尋ねると、店長は店の奥に引っ込んでいった。完全紹介制の店なら、来店客も明記されているはずだ。


 数分後、記帳を持って店長が戻ってきた。その記帳をパラパラめくり、


「ジェンタール様名義で、アドラ様以外のご家族での夕餐となっております」


 これはジェンタール兄上が気を利かせてくれたかな?


「あの、エスペーシ君の今日の予約は、何方(どなた)からの紹介なのでしょう?」


 俺がそんな事で一人納得していると、インシグニア嬢の発言を聞いて、店長さんが記帳をぺらりとめくる。


「フィアーナ様の紹介ですね」


「やっぱり」


 やっぱり? 何がやっぱり? ……いや、


「もしかしてここ、ヴァストドラゴン家と言うより、フィアーナが後ろ盾なのか?」


「あ、はい。フィアーナ様のご要望で、ヴァストドラゴン家からの資金提供により、構えた店舗ですので」


 うあ、うん。俺がハブられた理由は分かった。あいつは俺を自分よりも下に見ているからな。でもなあ、そうなるとなあ。


「ううん、店長さん、予約の擦り合わせって出来ますか?」


 俺は店長さんに近寄って耳打ちする。


「擦り合わせ、ですか?」


 これに合わせて店長さんも小声だ。


「こちらのお店も気に入ったので、出来るだけ利用したいのは山々なのですが、フィアーナが来るとなると、グロブス殿下も来る可能性がありますよね?」


「ああ……、はい。何度かフィアーナ様と……、ご来店頂いております」


 うん、それは言外にフィアーナやインシグニア嬢以外とも来ていると言っているようなものですよ、店長さん。


「幾ら個室でも、そこまでの廊下で元婚約者と鉢合わせ。となったら、何かと気不味いかと」


 これに店長さんは深く頷く。


「分かりました。フィアーナ様、もしくはグロブス殿下から予約が入りましたら、ご一報差し上げる形で宜しいでしょうか?」


「はい。その場合、向こうを優先して下さい」


「それで宜しいので?」


 店長さん的には、予約で満杯です。とでも言って、フィアーナやグロブス殿下の方を避ける方に意識を向けていたようだ。フィアーナの後ろ盾があるにしても王子を袖にするのはどうなんだ? いや、もしかしたらグロブス殿下ってこの店でやらかしている? でも王子だからどうにも出来なかった可能性も……。


「分かりました。グロブス殿下が今後何かしら不祥事を行った場合、出禁にして下さい」


「よ、宜しいので!?」


 これには小声だった店長さんも声を裏返して大きな声となってしまう。


「はい。そうなると、フィアーナがあれこれ言ってくる。具体的にはグロブス殿下の出禁を取り下げろ。と言ってくると思いますが、そうなった場合、私を後ろ盾とする。とフィアーナに伝えて下さい」


「は、はあ。王家を出禁にした店の後ろ盾になられると?」


「ええ、まあ。王立魔法学校では、グロブス殿下とは別の派閥となるので、名を売るのに良いと思いまして。経営にもそれ程影響もないと、こちらは考えています」


 俺のこの言葉には懐疑的な視線を向けてくる店長さん。


「貴族どころか王族も出禁にする店となれば、商人や役人の会食の場として、これ程安心出来る場はないでしょうから」


「な、成程。新規常連客の開拓ですか」


「ええ。こちらも王都で安心出来る場は多いに越した事はないですから」


 しかしこれにも店長さんは目を泳がせる。本当に大丈夫なのかと懐疑的だ。その目がインシグニア嬢に説明を求める。


「グロブス殿下を出禁にするのは怖いかと思われますが、フェイルーラ様は、ガイシア女王陛下、セガン王配陛下、両陛下からも、教皇猊下からも信頼の厚いお方ですから、それを加味して、仰られておいでです」


「両陛下に教皇猊下……、す、凄い」


 驚いて目を見開く店長さん。


「まあ、偉い人がしゃしゃり出てくるなら、もっと偉い人でカウンター食らわせれば良いだけですから」


 俺がウインクすれば、これに勇気を貰ったのか、深く重く頷く店長さんなのだった。


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