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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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階段を昇る意味

「そうだな、前提から話そう。グロブス殿下が現王家の第二王子である事は、エスペーシとフレミア嬢が結ばれる事には、余り、深く関係ない」


 俺の発言に、眉を顰ませるエスペーシ。


「向こうは王家だ。それだけで他の貴族と差を開けられていると思うが?」


「男側から考えたらそうだろうし、まあ、ブランドとして、王家と言うのが強い。と言うのは確かだ。でも相手は第二王子。しかも王位継承権は三番目だ。将来的に王位に就くには、それ相応の『何か』をしなければならない」


 俺の説明にエスペーシは頷く。


「フレミア嬢がグロブス殿下と結ばれて、成れるのは、王妃ではなく王家の姻戚と言う立場だ。これは少し微妙だ。と俺は思う」


「まあ、そうかも知れない?」


 エスペーシはピンときていないようだが、女性の承認欲求を満たすには、主家と分家と言うのは大きいと、文官見習いとして様々な騎士貴族の結婚、婚姻、婚約などを見てきた俺は思う。


「が、それでもフレミア嬢がグロブス殿下を選ぶ理由が、俺から見て、二つ思い付く」


「二つ?」


 問い返すエスペーシに頷く。


「まず、王位継承権を持っていると言う事は、ここ王領に領地を所持している。と言う事だ。王侯貴族が結婚相手として持て囃される理由として、安定した収入がある。領地持ちならそれは確約されていると言える」


 エスペーシもハッとして拳を口元に持っていく。そう、エスペーシの立場はとても微妙なのだ。上にジェンタール兄上がいるから、将来ヴァストドラゴン領を継げるか、と言えば、難しい。ただ、父上的にはジェンタール兄上よりも魔力量の多いエスペーシを次期領主に押している節がある。しかしこれを(おおやけ)にしないのは、やはり長子を跡継ぎとする慣習からか、母上とのすれ違いか、文官たちから何かしら讒言(ざんげん)を吹き込まれているか。それに、


「もう一つ理由がある」


「そうだったな」


 俺の言葉に、エスペーシは真剣な顔をして、両手を握ってそれをテーブルに置い。うん、真剣に聞く体勢だが、今更ですか。


「それは地位の問題だ」


「地位の?」


 真剣な顔からポカンとなって首を傾げるエスペーシ。まあ、グロブス殿下は王家なのだから、地位に差があるのは当然だ。だがそこではない。


「エスペーシも、魔法学校を卒業したら、何かしら職に就く訳だ。まあ、武官だろう」


「一応、武官志望だよ」


「それが問題だ」


 これにまた眉を顰めるエスペーシ。


「何が問題かって? 武官になると、必然的にグロブス殿下の下に就く事になるからだ」


「は? 何で? 王家だから、特別って事?」


 これに俺はゆっくり首を横に振る。


「違う。グロブス殿下は既に実績を築いているから、軍に入隊する時、それを鑑みて優遇措置で他の同年代より高い地位で入隊する事になる」


「実績? 俺だって領でそれなりの実績を築いてきた」


 それは俺だってそうだし、他の領地貴族、騎士貴族だって同じだ。だからそれは、余程の功績でない限り、武官志望者を査定する軍の面接官からすれば、どこそこの学校卒業と変わらない実績だ。


「グロブス殿下は、闘技場の最年少出身記録と、最年少勝利記録を持っている。これはかなりデカい。と俺は思っている。同年代でこの実績を抜く事は誰にも出来ないからな」


「闘技場の最年少記録か……」


「そうだ。そのうえで、今後五年間、魔法学校で同じ寮で同じような事をして、同じように卒業するんだ。だから、この最年少記録が効いてくる」


「それは……、確かに」


「向こうは領地持ちで、武官としてもお前よりも立場は上。フレミア嬢がどちらを選ぶかは明白だろう?」


 ここまで言えば、エスペーシも神妙な顔となる。


「さて、ここからが作戦だ」


 お茶で少し口を湿らせてから、俺が、問題解決の策がある。と口にすれば、エスペーシだけでなく、エスペーシ派閥の面々も真剣な顔でこちらを見詰める。


「まあ、簡単な話さ」


「やはり、闘技場か」


 流石のエスペーシもこれを察する事くらいは出来たらしい。


「これまでのニュービーの最高到達階数記録は、母上の二十一階だそうだ」


 これに少し口元を引き攣らせるエスペーシ。


「それを超えろ、と?」


「そうだな。出来るだけ人数は多い方が良い」


「はあ!?」


 これにエスペーシだけでなく、派閥の面々も面食らっているな。


「出来ない。とは言わせない。俺は午前中に闘技場に行ってきて、二十一階まで到達したからな」


「馬鹿な!」


 エスペーシ派閥の誰かがそんな声を上げると、席に付いてお茶を堪能していたうちの派閥が殺気立つ。


「はいはい。ここには話し合いに来たんだから、そう言うのはなし」


 俺の言葉にうちの派閥の面々は静かになるが、エスペーシ派閥の面々はまだ殺気立っている。本当にやめて欲しい。隣りのインシグニア嬢にまで殺気が伝わるから。いや、全く気にせずクッキー食べているな。


「俺の記録を疑うのは別に構わない。が、母上なら一日に二十一階まで到達した事に驚きはあっても疑いはないだろう?」


 これには頷くエスペーシとその派閥の面々。


「それで、その記録を超えれば良い訳か?」


 何も分かっていないな。勉強ばかり出来る頭でっかちな考え方だ。


「言ったろ? 俺だって二十一まで到達した、と。この場合、お前らが信じなかろうが、周囲の評価は俺とさして大差ない」


「ではどうしろと?」


 ここでやるべき事を尋ねてくるのが、エスペーシの悪癖だな。


「ブルブル、君は今日どこまで到達したんだっけ?」


「二十六階です」


『二十六!?』


 目を丸くしてざわつくエスペーシ派閥。


「まあ、二日でね。うちの側近は俺より強い。それくらいは分かっているだろ?」


 これに眉間を揉みながら首を振るエスペーシ。


「ああ、つまり、フェイルーラは二十六階超えをしろ、と?」


「お前、世の中舐めてんのか?」


 俺の言葉がきつかったからだろう。またエスペーシ派閥から殺気が飛んでくる。サクッ。インシグニア嬢のクッキーを食べる音に癒やされる。


「これは何回まで行け。って話じゃあないんだよ。お前がやるべきは、自分が行ける最高到達階まで行く事だ。二十六階なんて通過点だ。三十階でも四十階でも、何なら初日でチャンピオンになっても構わない」


『…………』


 馬鹿にした視線を感じる。「こいつ、何言っているの?」って顔だ。エスペーシ以外。


「本気で望んでいるんだな?」


 エスペーシの問いに首肯で答える。


「チャンピオンは夢想だけどな。だが、一階でも、一勝でも多い方が良い。そうすれば、軍も、父上も、お前を放っておけなくなる。そうなれば、父上もお前を公然と次期領主に押す事が出来るようになるだろうし、軍も、お前の地位をグロブス殿下よりも高く見積もるだろう。正に一挙両得。いや、三得。領地も地位も婚約者まで手に入る」


「理想論だな」


 首を横に振るエスペーシ。これに俺は嘆息する。


「エスペーシ、好いた女性の為にその女性の理想を叶えてやれない男を、その女性が好きになってくれると思っているのか? 俺が女なら、今のお前からは距離を取るね」


 俺の言葉、いや、檄に、俺を真っ直ぐ真剣に見るエスペーシだった。


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