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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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兄貴面

 いきなり押し掛けたと言うのに、店長も店員も恭しく対応してくれた。流石は高級レストラン。


「済みません、話を終えたらすぐに帰りますから」


 予約必須であろうレストラン店内を、給仕のお姉さんの先導で歩く。


「え? あ、はい。店長にもそのように伝えておきます?」


 お姉さんの反応は何故か疑問形だ。


「俺、変な事言った?」


「いえ、どこか変わっていたとは思えません」


 グーシーに耳打ちするも、グーシーも分からないらしい。王都(ここ)で店を開いている人たちは、どうも俺が対応すると変な挙動をする。その理由が未だに分からない。インシグニア嬢の方へ視線を送るも、口角を上げるのみだ。


「こちらが、エスペーシ・ヴァストドラゴン様方が現在お食事なされておいでの個室となります」


 そうこうしているうちに、エスペーシが昼食を摂っている個室の前まで連れてきて貰った。


「わざわざ済みません。これ、こちらを店長さんに、これは貴女の懐に」


 俺はグローブから金一封を二つ取り出す。金一封と言っても中身は商品券だ。基本的にお金のやり取りはIDカードで行われるので、必然的にこのようなものになる。店長さん向けの方が商品券は多い。これをどうするか、店員たちと分けるか自分の懐に仕舞うかは店長次第、いや、このお姉さん次第かな?


「いや、あの、案内しただけですから」


 これを固辞するお姉さんだが、


「営業外の仕事をして貰った訳ですから。店員仲間とどこかでパーッと使って下さい」


 俺がやんわり諭すと、申し訳なさそうにこれを懐に仕舞うお姉さん。それから気を取り戻すと、お姉さんは個室にノックする。


「何だ?」


 低い命令口調のエスペーシ。あからさまに不機嫌な声だ。もしかしたら、フレミア嬢とここで昼食を摂るつもりだったのかな?


「エスペーシ・ヴァストドラゴン様、お食事中申し訳ありません。エスペーシ様を尋ねて、お客様がお越しですが、お会いになられますでしょうか?」


 お姉さんの言葉に、中でゴニョゴニョ話し合ったのも一瞬の事で、


「すぐお通ししろ」


 エスペーシの言葉に、お姉さんが個室のドアを開くと、ワクワクしていたエスペーシの顔が、俺を見て一瞬で落胆に変わる。そして店員のお姉さんを睨むエスペーシ。


「店員さんは悪くないよ。名前を伏せるように申し付けたのは俺だからね」


 言いながら、俺たちはズカズカとエスペーシ派閥がいる大きめの個室に入っていく。そして最後に入ったブルブルが、お姉さんに「ありがとうございしまた」と礼を言ってドアを閉めた。


「悪いね、フレミア嬢じゃなくて。憐れなエスペーシ君」


「何の用かな? フェイルーラ」


 明らかに全員警戒しているな。ここでドンパチするつもりはない。わざわざこちらに融通してくれたお店に、迷惑掛けたくないし。


「ちょっと、今後の話でもしようと思ってね」


 言いながら、インシグニア嬢の為に椅子を引き、隣りに座って貰う。


「笑いにきた。の間違いじゃないのか?」


 普段と変わらぬであろう俺の様子に対して、疑念が顔に出るエスペーシ。


「半分正解かな。まさか、お前がこんなにも役に立たなかったとは思わなかった」


「向こうは王族なんだ。その命に逆らうのは王国に逆らうに等しい」


 エスペーシの言葉に嘆息を漏らす。確かにそれは正しい。が、その程度の認識では困る。


「俺は相手が女王陛下であっても引かなかったが?」


 俺の言に、苦々しげな顔をするエスペーシ。はあ。


「お前のフレミア嬢への愛はその程度だったのか」


「そんな! 俺はフレミア嬢を心から愛している!」


「ふ〜ん。でもフレミア嬢の方は違うみたいだな」


 この場にフレミア嬢がいない事を皮肉混じりに口にすれば、エスペーシには堪えたらしい。カッとなって思わず立ち上がり、竜の武威を俺にぶつけてくる。ふむ。それだけエスペーシはフレミア嬢を愛している訳か。まあ、エスペーシ程度の竜の武威、父上と比べれば俺からしたらそよ風と変わらないけど。エスペーシもそれを分かっているのだろう。竜の武威を解いて着席する。


フレミア嬢(むこう)だって『王命』には逆らえない。だからフレミア嬢は王城に向かったんだ」


「正確には『王家の命』だが、問題はそこじゃない。お前は何を呑気に王都観光なんてしているんだ? 『王家の命』で王城に呼ばれたフレミア嬢が、その間に王都観光なんかしている奴を、それまでと同じく好ましく思ったままと思っているのか?」


 俺の言に歯ぎしりするエスペーシ。まあ、元々今日はフレミア嬢と王都観光の予定だったから、そのまま王都観光をしただけなのだろうが、弟ながら、いや、弟だからこそ憐れに見えてしまう。


「じゃあ、どうしろと!」


「それを敵に聞いちゃう?」


 問うエスペーシに、煽るように返答すれば、顔を真っ赤にするエスペーシ。俺なんかよりも魔力量だけでも十倍以上スペックは高いのに、自分の気持ちに正直に生きられず、他者の命に従うのは、父上と言う絶対的強者によって、自由に生きる事に対してフタをされてきた弊害だろう。


「ま、良い。父上から聞いているだろうけれど、エスペーシ(おまえ)をグリフォンデン寮に入寮するように仕向けたのは俺だ。まだ入学前だし、その尻拭いくらいはしよう」


『…………』


 エスペーシ含め、派閥全員で胡乱な目をしやがってからに。こっちも殺気立つからやめて欲しい。


「そもそも、エスペーシの代わりに俺をグリフォンデン領の領婿にしようと送り込んだのは父上だ。それをエスペーシがフレミア嬢と添い遂げられないからと入れ知恵したのに、恨まれてもなあ。……先に言っておくが、ここから先の俺の助言を聞き入れなければ、お前とフレミア嬢が結ばれる確率は限りなく低くなる。それを肝に命じろ。それで? 聞くのか? 聞かないのか?」


 俺が二択を提示すれば、視線だけで派閥の面々とやり取りするエスペーシたち。どうしたものかと真剣に悩んでいると、個室のドアがノックされた。これには俺とエスペーシが揃って互いの顔を見る。誰が来たのだろう? 今度こそ、フレミア嬢ご本人だろうか?


『あの、お茶とお茶請けをお持ちしました』


 その声は先程のお姉さんだ。


「え? 頼んでませんけど?」


『こちらは、店からのサービスとなります』


 サービス? まあ、そう言う事なら。俺はエスペーシへ視線を送る。頷いたので、


「どうぞ、お入り下さい」


『失礼します』


 ドアを開けて入ってきたのは、先程のお姉さんと、他に二人の店員のお姉さんたちだった。三人とも、心なしか嬉しそうに見える。


「皆を席に座らせて良い?」


「ああ。好きにしろ」


 折角お茶のサービスを受けたのだ。出来るなら派閥の面々には座ってゆっくり味わって欲しい。


 広い個室だから、席には余りがある。そこへ、各々座る派閥の面々。そしてお姉さん方が丁寧な所作でお茶請けを並べていき、お茶をカップに注いでいく。


「済みません。昼時でお忙しいでしょうに」


「いえ、店長からの指示でもありますから。代わりと言うか、「今後、ご贔屓にして頂けると嬉しい」と承っております」


 成程。抜け目ない。そして多分、お姉さんは金一封を正直に店長さんに渡したのだろう。真面目な店員さんだ。


 ✕✕✕✕✕


「それでは、失礼致します」


 それぞれの前にお茶とお茶請けが行き渡ったところで、店員の三名は恭しく頭を下げて、個室から出ていった。それを見送ってから、お茶とお茶請けに手を伸ばす。うん。流石は一流店。


 美味しい。お茶は渋みがなくまろやかで甘く、お茶請けは様々なクッキーだ。何かあった時用に、普段から用意しているのだろうか? 俺は口に含んだだけでほろほろと解けるようなクッキーを味わいながら、残りをインシグニア嬢の方へ渡す。名残り惜しい味わいだが、ここに来たのはクッキーの為ではない。俺はアーネスシスに視線を向け、クッキーを購入しておいて貰う事として、再度視線をエスペーシに向ける。


「さて、俺の話を聞く用意は出来たかな?」


「本当に、フェイルーラの助言がなければ、フレミア嬢と結ばれる可能性はなくなるのか?」


 これに、「はあ」と溜息を漏らす。


「俺は、可能性がなくなる。なんて一言も言っていない。可能性が限りなく低くなる。と言ったんだ。俺の助言がなくてもお前の頑張り次第で、フレミア嬢と結ばれる未来もあるだろう」


 これに顔を明るくするエスペーシ。はあ。


「ただ、第三者目線で限りなく低い。多分インシグニア嬢も同じ意見だろう」


 いきなり振られ、クッキーを食べていた口元を押さえるインシグニア嬢だったが、ゆっくり噛んでから、お茶でそれを流し込み、口を開く。


「そうですね。王族から婚約者を奪う。と言う作戦ですから、限りなく低いのは間違いないかと。恐らくエスペーシ君は王立魔法学校に入学してから、その才能を発揮して、フレミアを振り向かせようと考えておられると思いますが、それでは余程、それこそ女王陛下に何度も認められるくらいの功績を残さなければ、フレミアと結ばれる可能性は低くでしょう。ならば、やるべきは王立魔法学校に入学する前から、ご自身の才能を周囲に認知させる必要があるかと存じます」


 インシグニア嬢の言葉に顔を引き攣らせるエスペーシ。


「要は、学校に入学してからじゃあ、グロブス殿下相手に、何やろうと全て後手後手に回るって事だ。入学前に先手を打っておかないと、お前、才能の片鱗も発揮出来ずに埋もれて終わるぞ」


 俺の言葉に、エスペーシも覚悟を決めたのか、ゴクリと喉を鳴らし、真剣な眼差しでこちらを見遣る。


「教えてくれ。その作戦」


 やっとか。はあ、手の掛かる弟だ。


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