ハラハラする
「はっ! ええと、ええと」
「落ち着いて下さい」
「ひゃい!」
刺激が強過ぎたのか、混乱しているクリア女史に、落ち着くように促すが、自分たちは殺人集団だ。と言った後だ。怖がられてしまったな。それでもプロらしく、深呼吸して気持ちを整えると、またインタビューを再開するクリア女史。中々に胆力がある。
「ストライク・サンダーパレス選手との闘いで、ご自分は無属性魔力だと表明されましたが、それは本当ですか?」
「それ、聞きます? 私が何を言っても、信じて貰えないと思うんですけど?」
無属性魔力と言うのは、昔からその存在だけは囁かれていた理論だ。全ての属性魔力は分解されると、無属性魔力、つまり純魔力に行き着く。と言われてきたが、それが証明されたのは、ここ二十年程前の事だ。
俺よりも魔力量が少ない一般市民であっても、魔力を測定すれば、微風や微熱など、ほんの少しは属性魔力を持っている。それくらい、完全な無属性魔力の人間なんてものは夢物語だ。
あの場では高性能な検知器なら無属性魔力だと証明出来る。と言ったが、恐らく高性能な検知器でも証明は出来ないだろう。それくらい、無属性魔力のみだと証明するには、大掛かりな設備が必要になるからだ。
「まあ、本人は無属性魔力だと語っていた。とでも記事にしてくれて結構です」
「それで、宜しいのですか?」
無属性魔力は神の魔力とも呼ばれている。であれば、これを喧伝すれば、教会で相応の地位に落ち着く事も出来る。なのにそれをしないのか? と尋ねているのだろう。
「ストライク選手との闘いでも言いましたが、私が無属性魔力だと表明すると、双子の片割れに不利益が行くので、無属性魔力(自称)で構いません」
「はあ?」
クリア女史はあんまり納得していない顔だ。
「エスペーシ氏とは、王立魔法学校では別寮となり、対戦する事となるかと思われますが、それでもエスペーシ氏の属性魔力に関して、公開しないのですね」
そこが引っ掛かっているのか。確かに、ここで公開してしまえば、他の寮からもエスペーシはマークされて対策されるだろう。しかしそれは俺からしたらフェアじゃない。まあ、多分、グロブス殿下に俺たちの属性魔力は説明していそうだが。それでも、
「まだ入学もしていませんし、家族ですからね。あいつはあいつで、不器用なんですよ。能力は高いくせに、どうも命令待ちなところがあると言うか、生きるのが下手と言うか、兄としてはどうしたものかと」
俺がそんな事を口にすると、インシグニア嬢の方から笑いが漏れた。これを不思議そうに見遣るクリア女史。
「不躾ですが、インシグニア嬢は、フェイルーラ氏やその派閥が殺人集団だと宣っている事に恐れはないのですか?」
本当に不躾だな。これに前髪で隠れた目を上に向けるような仕草をするインシグニア嬢。数刻思案した後、クリア女史の方を見る。
「ないですね。断言出来ます。即断即決即行な方なので、ハラハラする事はありますが、フェイルーラ様から害意を向けられた事はありませんから」
「は、はあ」
これにもどうにも腑に落ちないらしいクリア女史。対して両手に肉串とポテトを持ちながら、インシグニア嬢が答える。
「でも、ハラハラはしますね。ハラハラ」
「ハラハラ、ですか?」
「フェイルーラ様の魔力量が、領主貴族としては勿論、騎士貴族としても低い事は闘技場の決闘を観たならご理解なされておいでだと思うのですが」
「はい」
「この国と言うよりも、この世界自体がそうですが、魔力偏重、精霊偏重なところがあるでしょう? 魔力量が多ければ、それだけで他より優る。良き精霊と契約していれば、それだけで他より優る。そんな風潮があります」
これに深く頷くクリア女史。
「でも、フェイルーラ様は一般市民と比べれば多い方ですが、騎士貴族と比べれば少ない。それでも行動力が凄いのです」
「行動力、ですか?」
「記者さんなら知っておられるでしょうけれど、一昨日、王城でゴタゴタがあったでしょう?」
これにクリア女史は生唾を飲み込む。恐らく聞き出したかった事なのだろう。それを当事者から聞ける好機は中々ないはずだ。
「フェイルーラ様は、私の負担を鑑みて、セガン王配陛下に直訴しに行かれたのですが、実は、その前に大聖堂の方にも教皇猊下へ、直訴しに行かれたのです」
「ええええ!!??」
余程、信じられない事だったのだろう。目が見開いたまま固まるクリア女史。数刻そのまま動かなくなった後、ハッと我を戻して問う。
「それで、どうなったのですか!?」
「フェイルーラ様的には、私が『契約召喚の儀』で演奏しなくて良くなる。との勝算があったようなのですが、その頼みの綱だった先々代の教皇であられるボールス枢機卿に、手伝うように指示されて、私と一緒に『契約召喚の儀』でオルガンを弾く事になりました」
「ええ!? ええ!? ええ!?」
インシグニア嬢の発言に、驚いて俺を見て、またインシグニア嬢へ視線を戻すクリア女史。本当に百面相が面白い。多分、人に好かれる才能がありそうだ。
「それでも、私が教会の要請で歌奏をするのは今回限り。次回からは、適宜要請を受けて、私に負担がないように。となりました」
「そ、それは、凄い、ですね。畏れ多くも教皇猊下に直訴して、信徒から除外される事なく、結果として相応の成果を出した訳ですから」
「はい」
う〜ん。初めて会った教会のお偉いさんが、地元のボールス卿だったから、いけると思っちゃったんだよねえ。
「そして、王城での一件。詳しくは申し上げられませんが、これも、今回限り。次回からは要請を。となりました」
「それは本当だったんですね!」
これは耳に入っていたらしい。
「ええ。何と言いますか、とても心臓に悪い交渉でした。何せ、謁見の間で、ガイシア女王陛下相手に、フェイルーラ様は膝を突く事もせず、真っ向から交渉なさりましたから」
「…………」
「結果として私の身の保障だけでなく、その場にいた両陛下に、大臣や文官、騎士たちの給金は一年分半額となりました」
「…………」
クリア女史の俺を見る目が、恐怖から胡乱に変わった。人でない何かを見る目だ。
「あ、本来なら、そのお金ってプールして、インフラに使うのが通例なんですけど、今回は金額が金額な事もあって、宝くじを開催する事になりました」
「宝くじ……」
俺がそう言うも、何かもうクリア女史の精神が摩耗しているな。
「フェイルーラ様は、とても身内を大事にされる方なんです。だから、ご自身よりも魔力量が多かったり、立場が上の方であっても、気にせず身内の為にその身体を張る覚悟のある方なんです。だから、身内としてはハラハラして、もう」
インシグニア嬢の言葉に、その場の皆が頷いている。皆の為に動いているのに、どうやら心配させているようだ。すんません。
「…………ハラハラ、成程」
クリア女史はもう放心状態だ。
✕✕✕✕✕
「インタビューありがとうございました。すぐに社に戻って、記事にします」
ヘトヘトになっているクリア女史だが、俺に礼を述べてその場を後にしようとする。そんなクリア女史に声を掛ける。
「あ、午後も闘技場にいた方が多分良いと思いますよ」
「へ?」
「強制はしませんが、恐らく凄い記録が観れるでしょうから」
俺の言葉に眉を寄せるクリア女史とオーバ氏だった。




