制裁に対して
「はっ! ええと、インビジブル・バーストをいつ使ったのかはお教え願えないのでしょうか?」
暫くインシグニア嬢に気を囚われていたクリア女史だが、目を覚まして俺に尋ねる。
「う〜ん。それはそちらで推理して下さい」
「推理、ですか?」
「私は最初に言いましたよね? 私は二枚舌だと」
これに片眉を上げるクリア女史。こう言えば、俺がそもそも本当にインビジブル・バーストを使えるのか、使ったとして、どこで使ったのか分からない。
「話題を変えさせて頂いても?」
「どうぞ」
これ以上はインビジブル・バーストに付いて俺から情報を引き出す事が出来ない。と考えたのだろう。話題は別に移る。
「お母上同様、ニュービーの最高到達階数記録を記録なされた訳ですが、そこは狙われていたのでしょうか?」
「いや、たまたまですよ。そもそも、母上が到達階数記録を持っているのも、今日闘技場に来てから知りましたし。それと、こう言うとまた対戦相手を下に見ている。と思われるかも知れませんが、彼ら彼女らがサレンダーしなかったら、私は今日中に母上と同じ階数まで到達しなかったでしょう」
「知らなかったのですか?」
これにクリア女史は驚く。
「そもそも、私は文官希望だったので、母上や父上が、王都でどのような武勇伝を築いてきたのか、気にしていなかったので」
「文官希望!?」
こっちにも驚く。
「いや、だって、私の魔力量は分かっているでしょう? 一般市民としたら上澄みでも、貴族としたら、騎士貴族でも下の方です。普通に考えれば、武勇で名を上げるのは難しい」
「いや、でも……、いや、え? いや」
混乱するクリア女史。頭を万年筆で掻きながら、懊悩し、どうにか言葉を紡ぎ出す。
「強いじゃないですか!」
これにはうちの派閥から苦笑が漏れる。何が可笑しいのか、これに対してクリア女史は不可解と言わん顔をする。
「まあ、派閥の中では中位より上ってくらいですね。私の側近の三人の方が強いですから」
「え?」
武闘派の領主貴族、それも四大貴族のヴァストドラゴン家の子息だ。武勇で派閥を纏めていると思っていたのだろう。信じられないものを見た。と顔が物語っている。それが面白くて思わずクスリと笑ってしまった。こう言うのを百面相と言うのだろう。しかし、記者には向かないかな。
「それも、二枚舌って奴ですか?」
立ち直ったクリア女史がそう尋ねてくる。ふむ、そう来るか。
「どうでしょうねえ。側近筆頭のグーシーは今日二十五階まで昇ってきましたし」
「俺様もだ!」
グーシーに敗けたジュウベエ君も、そこは譲れないようだ。
「まあ、確かに、素晴らしい闘いを繰り広げていたのは間違いありません、ね」
クリア女史の歯切れが悪い。グーシー対ジュウベエ君の闘いは、クリア女史も観ていたから、その強さを安易に否定は出来ないようだ。
「う〜ん……、確かグーシー氏もジュウベエ氏も、昨日から闘技場で闘っていますよね? それで今日、二十五階だと、ニュービーの最高到達階数記録とは数えられません」
「それは、彼らの対戦相手が、実直に二人の相手をしたからじゃないですか? グーシー、相手にサレンダーされた?」
「いえ」
俺の問いにグーシーは首を横に振る。サレンダーされなきゃ、一試合一試合にどうしても時間が掛かる。到達階数は低くなるだろう。これを理解してか、クリア女史は眉間にシワを寄せる。
「女性がそんな顔をするのは、頂けませんね。シワが残っちゃいますよ」
俺は優しさで言ったつもりなのだが、睨まれてしまった。誰のせいだ。とでも言わんばかりに。
「……はあ。まあ、二日で二十五階は確かに凄いですが、フェイルーラ氏の闘いにはまだ未知の部分が多いので、説得力に欠けると言いますか……」
どうやっても俺が強さで派閥を纏めている。と書きたいらしい。別にそれでも良いけどね。その前に、
「ブルブルは何階まで行けたの?」
「……二十六階です」
これに顔を引き攣らせるクリア女史にジュウベエ君。
「嘘だろ!? 俺より上!?」
驚きとともにジュウベエ君はブルブルを振り返る。
「昨日言っただろ? 側近の三人は俺より強いって」
「ぐぐぐ、良し! 午後も闘技場で闘うぞ!」
これには嘆息を漏らしてしまう。
「さっき言ったよね? 午前で切り上げるって」
「お前らは勝手に切り上げれば良いだろ! 敗けたままでいられるか!」
ジュウベエ君の言葉に、自分が半眼になっているのが分かる。
「な、何だよ?」
これにたじろぐジュウベエ君。
「我々は君のお守りの為に存在している訳じゃないし、午後も闘技場で闘うとなったら、こちらの派閥から、最低でも一人いて貰わないといけなくなる。こちらの予定を狂わすような事は、やめてくれ」
「はあん?」
このジュウベエ君の反応に更に視線が厳しくなる。
「大体、この後闘技場で上位に昇ったところで、ブルブルが午前中に二十六階まで到達した事実は覆らないし、午後はブルブルも俺に同行するから、どれだけ上階に昇ったところで、それはブルブルを倒さずに昇った記録になるんだけど? それでジュウベエ君はご満足なのかな?」
「ぐぐぐぐぐぐぐ、ならっ……」
パァンッ!
そこまで言ったところで、破裂音が部屋中に木霊し、インシグニア嬢は耳を押さえ、ジュウベエ君は全身氷漬けにされていた。
その破裂音の主はブルブルだ。その手には魔法拳銃が握られ、その銃口はジュウベエ君に向けられていた。
数刻で氷が割れ、ブルブルに斬り掛かろうとジュウベエ君が刀に手を触れたところで、俺はジュウベエ君に向かって竜の武威を放つ。これに飛び退くジュウベエ君。
「お前ら……」
怒り心頭のようだが、多分ブルブルの方が内心怒っていると思う。
「私は君を助けたんだよ、ジュウベエ君」
「何が「助けた」だ! だったら銃を撃たせたのは何だ!」
「可笑しな事を口にするね? 日道国将軍家、海神十兵衛吉宗君。常在戦場は君の国の言葉だろう? 先程の銃撃に反応出来なかったのは君の落ち度だ」
これに口をギュッと結ぶジュウベエ君。
「それに、ブルブルが本気であったなら、君を本当に氷漬けにして殺す事だって出来た。それをすぐに砕けるものにしたのは、警告以外の何ものでもない。なのに君はこれに対して、刀を抜こうとした。もし君が刀を抜いていたら、ブルブルは君を殺していたよ。たとえ君が将軍家の人間であったとしても」
これにジュウベエ君が身震いしたのは、氷漬けが冷たかったからか、それともブルブルの本気に対してか。
「こちらは何度も警告しているよね? 私たちはアダマンティア王国四大貴族ヴァストドラゴン家の派閥だ。そしてヴァストドラゴン家は武闘派だ。そして君は私に敗れて現在私の麾下にある。それは君からの提案だ。であるなら、私のやり方に従って貰う。従わないなら、相応の罰を与える。もう一度言う。我々は仮にも武闘派だ。それも賊を相手にしてきた対人間に特化した武闘派。他の兄弟たちからは、殺人集団と呼ばれている。その事を理解したうえで、行動は慎重に頼むよ」
俺の言葉を噛み砕き理解したのだろう。ジュウベエ君は喉を鳴らした後、深く頷いた。
「済まなかった。闘い続きで気分が高揚していたんだ。午後はフェイルーラに従う」
「午後は?」
「……今後は」
「そう。納得して貰えたなら嬉しいよ」
ジュウベエ君は有言実行だからな。口にしたなら今後はこちらに従ってくれるだろう。さて、
「済みません。ちょっとやんちゃしちゃって」
「やんちゃ……って、そんなレベルじゃないですよ! 運営に見付かれば、彼女、ブルブル嬢は確実に決闘者資格を剥奪されますよ!?」
おや? こちらの心配をしてくれるのか。優しいね。
「別に、記事にして下さっても構いません。ブルブル、資格剥奪だって。未練ある?」
「ありません」
「だ、そうです。ブルブルの件も、俺たちが地元で殺人集団と呼ばれている事も、記事にするかどうかはそちらに任せます。インタビュー中での出来事ですからね」
俺の言葉に、信じられないと顔を青くするクリア女史だった。う〜ん。闘技場の決闘者たちもそうだったけど、うちらって、周囲に対して刺激が強いのかもなあ。




