印象の違い
「それでは、インタビューさせて頂きます」
クリア女史が真剣な眼差しでこちらを見詰めてくる中、俺は両手でホエイドリンコを持ちながら、それに頷く。
「はい、どうぞ〜」
対する俺の緩い返事に微妙な顔となるクリア女史。
「どうかされました?」
今度はこちらからクリア女史に尋ねる。
「ああ、いえ、これまでインタビューしてきた貴族の方と印象がまるで異なっていたもので」
これに首を傾げる。
「ああ、これは口外無用として頂きたいのですが、貴族と言うと、高圧的な印象と言いますか、威圧的と言いますか。そうでなくても、こちらの意図を探ろうとか、印象操作しようとか、あまり良い印象がないと言うか……」
最後の方は尻すぼみとなるクリア女史に、思わず笑みがこぼれてしまう。容易に想像が付く。父上や、領の貴族たちだけかと思ったが、王都に来て、尊大な態度の貴族は良く見掛ける。
「まあ、分かる。と同意しますよ。私も王都に来て、大人しい印象を受けたのは、インシグニア嬢とセガン王配陛下だけですね」
「セガン王配陛下とお話になられたのですか!?」
これに驚くクリア女史。そうか、ガイシア女王陛下が守ってきたから、セガン陛下と話した貴族は少ないのか。
「まあでも、これは闘技場外の話ですから」
俺がそう口にすれば、クリア女史は悔しげに口をキュッと結ぶ。
「はあ、そうですね。では、改めて、闘技場での事に関して、インタビューを」
「はい。どうぞ」
俺の返事に一つ深呼吸してから、クリア女史は口を開く。
「今日の試合ですが、手を抜いていた。と言うのが、こちらの印象でした。それは何人かの観客にもインタビューして、同様の感想を得ています」
同様の感想、ね。違う感想は排除しているのだろう。
「う〜ん。手を抜いている、ですか? まあ、確かに、全力とか、本気とかではなかったかも知れません」
「…………意外ですね。お認めになられるのですか?」
これに眉間にシワを寄せるクリア女史。
「対戦相手に敬意を持たずに闘ったつもりはないのですが、私の本業は決闘者ではないので、ここで手の内を全て見せる訳にもいかなかった。と言うのが理由の一つですね」
「成程。そちらにも理由があったのは分かりましたが、だとしても、素手と言うのは舐め過ぎなのでは?」
「あれ? これ、ガンブレードを使わなかった事を責められている?」
また首を傾げる。
「何名かの対戦者にもインタビューしました。屈辱だった。と語っている方もいました」
クリア女史の目は険しい。う〜ん。
「対戦相手の言いたい事も分かります。何人かにはガンブレードを使いましたしね。でもこちらからしたら、言ってくれれば使ったよ。と言うのが本音ですね。私はバトルフィールドで普通に相手に近付いていった訳ですし。その間に相手には選択権があった」
「そうは言いますが、その受け答えからは、対戦相手を下に見ていた。と言う感想が透けて見えるのですが」
中々厳しいな。
「こっちもニュービーですから、闘技場の暗黙のルール的なものは知らなかったので」
「それは……、確かに。一度フリーバトルで闘ったガンブレード使い。と言う噂だけが独り歩きしていたところはあるかも知れません」
おや? 自分の非を認められる人物だったか。
「私も、闘技場デビューは王立魔法学校二年目になってから。と王都に来るまでは決めていたので、今回のデビューはイレギュラーだったんです」
「イレギュラー?」
「ええ。まず、派閥の、そこで肉串を食べているジュウベエ君に急かされた事」
自分の事を話題に挙げられ、ジュウベエ君がムシャムシャ肉串を食べながら、こちらへ視線を向ける。
「男なら、テッペン獲ってこそだろ!」
「男なら。って言うのが良く分からないね。この国の王は女性だし。それに私たちの本業は学業だ。テッペン獲るなら、学校で取るのが本道だと思うけど?」
「うぐっ」
俺に言い返されて、何も反論出来なくなり、顔を背けるジュウベエ君。口論に対してはテッペン穫らなくて良いのかな?
「まず、と仰いましたが、他にも今日闘技場デビューした理由が?」
流石は記者。会話の理解力が高い。ジュウベエ君をダシに、もう一つは伏せておきたかったんだけどなあ。
「まあ、さる王侯貴族から、ちょっと技を見せて欲しい。と求められましてね。恩を売るのも良いかと」
「さる王侯貴族ですか。…………その技と言うのは?」
王侯貴族の方はスルーか。厄ネタだと踏んだのかな?
「インビジブル・バーストです」
『インビジブル・バースト!?』
うわっ!? クリア女史だけじゃなく、オーバ氏も一緒になって驚いている。やっぱり王都だと有名な技のようだ。一頻り驚いた後、口元に拳を当てて、ブツブツ何やら言い始めるクリア女史。
「やはり、お母上から教わったのですか?」
母上がインビジブル・バーストの使い手だった事は知っていたようだ。
「教わった。と言うよりも、食らった。と言う方が正確ですね」
「え? 食らった?」
どうやらインビジブル・バーストはヤバい技と思われているらしく、実の子供に対してこれを使ってきた事に驚いている。
「ああ、私の師、カンフーの師もそうなのですが、覚えたいなら実践で。習うよりも慣れろ。って感じなので」
「ああ、確か、ダカツコッポー? と言うカンフーを使うのでしたね。その奥義の一つ、『二周解結』を覚える為に、何度も技を食らったとか?」
あ、これ、二周解結とインビジブル・バーストが同列になる奴だ。
「インビジブル・バーストは、確かに使い手は少ないですが、二周解結のような奥義じゃありませんからね」
「え?」
「詳しい話は、インシグニア嬢から話さないように口止めされているので話ませんが、理屈を知るだけで、案外使える人は増える技です。二周解結みたいに、身体に刻み込まないと覚えられない技じゃありません」
「インシグニア嬢から?」
技のコツに関して、外部に漏らさないようにする事に、インシグニア嬢が関わっている事を不思議に思ったのか、クリア女史はインシグニア嬢の方へ視線を向けて、固まる。
何だろう? と俺もインシグニア嬢の方へ視線を向けると、ほぼ全てのツマミが、インシグニア嬢の前のテーブルに並べられており、それを嬉しそうに食しているインシグニア嬢。やはりこうなったか。
「『歌姫』ともなると、使うカロリーも相当なようで、ちゃんと食べないと力が出ないみたいで」
などとそれっぽい言葉でクリア女史に説明する。いや、あれは単純に食べるのが好きなだけだと思うけどね。昨日の音楽倶楽部の皆は普通の量だったし。しかしそんな事は知らないクリア女史は「成程」と納得している。
「私がインタビュー前に側近に耳打ちしていたも、彼女に全て食べられちゃう前に、自分の分を確保して貰おうとしただけで、特に変な事をしようとしていた訳じゃないんですよ」
俺がクリア女史に小声で耳打ちすると、「ああ……」と理解を示してくれるクリア女史。それだけインシグニア嬢の食べっぷりは見ていて気持ち良い。
「で、まあ、インビジブル・バーストですけど、第一魔法の技として使用するのは難しいのですが、第二魔法の魔法陣とか詠唱を加味すると、その使い易さが格段に上がるので、それを危惧したインシグニア嬢から、口止めされた感じですね」
「な、成程」
ああ、そう言えばインビジブル・バーストの話をしていたんだ。くらいにクリア女史はまだインシグニア嬢をガン見している。それだけ普段の彼女の印象と掛け離れているのだろう。




