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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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火と水

(ふふ、やっとフェイルーラの側近の実力がどれ程のものなのか分かる)


 グーシーを目の前に、ジュウベエが初手から二刀を握り締めたところに、『ピュ〜イ』と、観客席からこれまでの指笛とは違う澄んだ笛の音が聞こえ、ジュウベエがそちらへ視線を向けると、そこではフェイルーラがモップで床掃除をしていた。


(何だ、あれ?)


 意味が分からず、対戦相手のグーシーに尋ねようとすると、グーシーはそれまで使っていた長剣を腰の鞘に仕舞い、新たに空間魔法陣から剣を取り出す。不思議な剣だった。


 剣身は波打ち、それこそ波のようにも見えるし、炎の揺らぎのようにも見える。鍔は真っ赤な花飾りとなっていて、花弁の多い万重咲きの薔薇だ。


 何だか情報が一気に増えたな。と思いながら、ジュウベエはグーシーに尋ねた。


「あの笛の音は、符牒か?」


「……まあ、そんなところです」


 成程。と理解するジュウベエだった。……、


「いや、何でそれであいつ掃除しているんだよ!?」


 掃除も符牒(暗号)なのか? と訝しがるも、そんな符牒あるか? と脳がそれを拒否する。


「掃除は、こちらからでは見辛いですが、恐らく観客席が汚れていたのでしょう」


「派閥のボス、それも四大貴族の子息が、普通掃除なんてするか?」


 理解に苦しみ眉間にシワが寄るジュウベエ。


「そうですね。四大(・・)貴族の子息としてなら、やらないかも知れません。が、うちの派閥は、どちらかと言うと、領主貴族派閥と言うよりも、教会派なんです」


「はあ……? ああ、ボランティア精神とか言う奴か」


 ジュウベエの答えに軽く首を振るグーシー。


「ちょっと違いますね」


「違う、のか?」


「結果として周囲からはボランティアのように映りますが、その行動原理が違いますから」


「行動原理?」


 これにジュウベエは首を傾げる。


「ボランティアは、自発性、無償性、社会性と言う三原則から成り立っています。自発性はその名の通り自発的に、誰かに強要されるのではなく、己自ら行動を起こす事。無償性は金銭、報酬を目的にしない事。社会性は誰もが暮らし易い社会実現の為に行動する事。そう言う意味から、フェイルーラ様の行動は、他者からはボランティアのように映るでしょう」


 誰に言われるでもなく公共の場である闘技場を掃除しているのだから、フェイルーラの行動はボランティアにしか見えない。しかしグーシーは少し違うと言う。


「フェイルーラ様は、ご本人は特にお認めになりませんが、とても敬虔なデウサリウス教の信徒なのです」


「宗教関係者がボランティアをするのは、この国では良くあるとマドカ姉上から聞いているな」


「そうですね。敬虔な信徒程、ボランティアなどの奉仕活動をする事で、死後天国に行けると信じていますからね」


 これに苦々しく嘆息するグーシー。


「まるでフェイルーラは天国には行けない。と信じている顔だな」


「行けないでしょうね。たとえ相手が賊でも、千人以上殺した人殺しが、天国に行けるとお思いですか?」


 グーシーの言葉に、ジュウベエだけでなく、他の決闘者たちも、観客たちも息を呑む。千人殺しと言う大罪。確かにそれはボランティア程度で天国に行けるどころか、地獄に落ちる所業だ。


「もしそれが本当なら、じゃあ、なんであいつは掃除をしているんだ?」


「言ったでしょう? あの方は敬虔なデウサリウス教信徒なのですよ。自身が地獄に落ちる大罪人であっても、世界が汚れているなら率先して掃除をする方なのです」


「意味が分からん」


 首を横に振るジュウベエ。これに対して応えるグーシー。


「この世界は神が創り給うた箱庭。ですが神はその手ずからこの世界を掃除する事を滅多にしません。であるならば、己をこの世に生み、己を生かして下さる神の箱庭の掃除をするのは、敬虔なるデウサリウス教信徒であるフェイルーラ様にとって、たとえ自身が地獄に落ちる大罪人であっても、世界を少しでも良くする事に躊躇いや遅れを取る事などありません。フェイルーラ様がこの場を綺麗にするのは、ボランティア精神などではなく、ひとえに神への信仰故です」


 これに眉間を揉みながら、ジュウベエは再度首を横に振る。


「理解出来ん」


「別に、理解されなくても構いません。これはフェイルーラ様なりの神への信仰であり、誰かへのパフォーマンスではないのですから」


 グーシーの言葉に納得するジュウベエ。これまでの短い期間だが、フェイルーラがパフォーマンスで善行をするのを、ジュウベエは見た事がなかったからだ。この国の常識と擦り合わず、何度か怒られはしたが。


「分かった。それはフェイルーラの生き様だ。ここで他人の俺様がどうこう言う話じゃない。それで、先程の符牒、それに剣を変えた事、理由があるのだろう?」


「符牒の意味を対戦相手に問うのは愚問としか言えませんが、まあ、単純なものです。もう時間だそうです。これで最後にせよ。とのご命令です。即行で倒させて頂きます」


「それで剣を変えた訳か」


 グーシーの現在の武装は、左手にヤドリギの意匠が施された木製の小丸盾。これはこれまでの闘いでも使ってきた。ジュウベエから見て問題なのは右手の長剣。先程までの普通の長剣とは違い、波形の剣身をしている。


「この剣の名はロジエ・フランベルジュ。炎と薔薇で彩られた私の持つカードの一つです。では、グーシー・ドルイドウッズ。本気で、即行で、貴方を倒させて頂く!」


 言ってグーシーが剣を逆さまにして剣先をフィールドに突き刺す。


「ステイクウォール!」


 呪文と同時に、フィールドの床から杭の如き木が、グーシーとジュウベエを挟むように、二列並んで生み出される。それと同時に剣をフィールドから抜き、ジュウベエに向かって駆けていくグーシー。


「はっ! 両脇を狭めたところで、勝ち誇るなよ!」


 ジュウベエが右手の刀を上段から振り下ろす。それをグーシーは左手の小丸盾で受け止めようとする。


(高振動する刀を、木製の盾で受け止められると思って……!?)


 ジュウベエの右手の刀が小丸盾に当たるなり、その小丸盾が回転する。ギュルリと外回転して、ジュウベエの刀を外へ流す。


 そして今度はグーシーの剣がジュウベエを襲うが、それを左の刀で受けるジュウベエ。普通なら、刀の高振動で弾かれるはずだが、グーシーの波打つ剣身は弾かれない。その代わり、その柄頭から茨が生える。


(ッ!? 更に攻撃の手を増やしてきやがった! が茨は一尺程。短い茨じゃあ、邪魔なだけだ!)


 そう受け止めたジュウベエは、細い通路となったフィールドで、二刀と剣盾で錚々(そうそう)と打ち合いを続ける。しかし右の刀は回転する小丸盾で受け流され、左の刀はグーシーの剣が受け止める程にその茨を伸ばしていく。このままでは剣に加えて茨の攻撃も加わってきて、不利となるのは明確。攻撃の手を一度止めてグーシーから距離を取ると、ジュウベエは大技に入る。


「高波連舞!!」


 ジュウベエは二刀を縦に振り回す。振り回すごとに高波が発生して、逃げ場のないこの狭い通路を高波が襲う。


「そう来ると思っていましたよ」


 しかし高波連舞はグーシーを押し流す事はなかった。グーシーは杭のような木を足下に出し、それを足場に跳躍し、右の木壁に飛び乗っていた。


 木壁を足場にジュウベエに迫るグーシー。そこから跳躍し、波打つ剣でジュウベエへ襲撃する。しかしそれは重ねられたジュウベエの二刀で受け止められた。


 が、それはグーシーの目論見通りだった。受け止められた波打つ剣の鍔の薔薇がブワリと舞い散る。狭い通路中に舞い散る薔薇の花弁は、チリチリと燃えていた。


「スモーキーペタルズ」


 グーシーの呪文に呼応するように、花弁が弾け、辺りを煙が覆う。


(甘いな! 俺様の耳の良さを舐めるなよ。視覚が塞がれても、足音の位置は丸分かりだ!)


 そうジュウベエがほくそ笑んだところで、笛の音が聞こえた。口笛、しかも二重の。ジュウベエが知らない喉歌(ホーミー)。そしてそれに共鳴するように周囲の木々が反響する。


「くっ!」


 耳頼りとなったジュウベエの一瞬の隙を、グーシーが見逃す訳がなかった。


「ソーンスネイク!」


 茨が蛇のように巻き付き、ジュウベエの動きを阻害する。そして、


燃えろ(ブリュル)!」


 煙の中、燃え盛るグーシーの剣身。その剣先が天に掲げられ、その刹那に、「ふっ!」と言う声とともに一気にジュウベエを頭から真っ二つにしたのだった。


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