番外編 秘密の計画 ~襲撃王女への逆襲~
番外編
テニトラニス国に来て1年程経った頃の話。
番外編 秘密の計画 ~襲撃王女への逆襲~
「え? 何? クーとベタベタしたいのか?」
「だって、いつも真面目でそっけないんだもの~~」
マキセの腕につかまり、ぶんぶん振り回しているのは、テニトラニスの王女であるセーラ。
彼なら平気で触れるのに、相手がクーデノムだと何となく遠慮してしまう。
一応、婚約者のはずなのに。
「……なら、朝、クーを起こしに行ってみれば?」
「朝?」
「そう。クーは寝起きが悪いからな。あの真面目な近寄りがたい雰囲気も、朝はなくなっているから」
そう言うマキセの目は、笑っていた。
ここは北陸にある商業の国テニトラニス。
南北大陸の貿易の要所で、港町として栄えている。
現在王城では南陸のクスイ国からの留学生として二人の青年が身を寄せていた。
王侯貴族のいない新興国である賭博の国クスイの官吏として、クスイ王から命じられ各国の特色を学ぶためにと遊学している。
文官のクーデノム=ガディと、護衛武官のマキセ=トランタである。
剣術の国ルクウートの祭典で会い、二人を気に入ったテニトラニスの王が自国での留学を薦め、王城に身を寄せてからもう1年が過ぎていた。
国としては女子は10代後半で婚約や嫁ぎ先が決まることが多いので、早過ぎると言われる時期はもう越えようとしている。
相変わらずクーデノムの傍で穏やかに過ごすのは心地いい。
それでも少しはドキドキしたい。
マキセに言われた通り翌日の朝。
いつもより早く起きたセーラはクーデノムの寝室へと気付かれないように入り込んだ。
まだベッドで眠っている彼を確認し、勢いよく両手で掛布の上からバシバシ胸辺りを叩く。
「クーデノム様、朝ですよ~」
「ん…?」
小さく声を上げたクーデノムを見て、驚かそうと更にベッドの上へと這い上がる。
寝返りを打ったクーデノムと覗き込むように見ていたセーラの眼が合った。
「今日は起こしに来ました、クーデノム様」
楽しげな笑顔を浮かべるセーラだが……。
うわぁと驚いて慌てる姿を想像していた彼女だったが。
クーデノムは彼女の瞳を見たまま、口元に笑みを浮かべた。
「こんなに早くから、どうしたの?」
「え?」
冷静なクーデノムの言葉に、ベッドの上でよつんばの格好で固まったままのセーラ。
「俺、襲われているのかな?」
そのまま起き上がるとセーラが落っこちるので体をズラしながら身を起こしたクーデノムは…上半身の衣服は身に着けていなかった。
文官と言えども、そこそこ筋肉のついた引き締まった身体。
いつもきっちり着こなしている彼の姿しか見たことなかったセーラは、驚きの表情でクーデノムを見上げた。
「……何? 誘ってるの?」
クーデノムの視界にちょうど位置的に胸元が見えることに気付いたセーラは、慌てて姿勢を正すとベッドの上に正座をしてしまった。
「くすくすくす」
そんな彼女を見てクーデノムは口元を手で隠しながら楽しそうに笑った。
からかわれている……とベッドから降りようとしたセーラに、クーデノムがおいでと手を伸ばす。
「俺にどうして欲しい?」
伸ばされた手に腕を捕らえられ、引き寄せられた。
いつもと違うクーデノムの様子に戸惑いを隠せない。
挑戦的な真っ直ぐに瞳に見つめられて……
重ねられた唇は一呼吸程度。
「俺も、人前で手出しはできないから」
「…うん」
王女ていう立場から、いつも誰かが傍にいるのが通常。
照れてうつむきながも握られたクーデノムの手を離さず握り返す。
セーラの手をすっぽりと包んでしまえる程大きな、自分とは違う力強い男性の掌。
「…でも、二人きりになるにも、場所を考えようね」
「?」
見上げた先のクーデノムは苦笑顔。
「こんなトコじゃ、さっきのだけでは満足できないから、男として」
握った手はそのままで、もう片方の手はうなじへと回され、再び唇を重ねられた。
先ほどよりも激しく、執拗に。
「…ん…」
呼吸が苦しくなった頃に、ようやく解放された。
全身力が抜けたように、彼の胸と腕の中で乱れた吐息を整える。
「今回はこれで見逃してあげる」
そう言って頭を撫でられたセーラは、無言のままクーデノムから身体を離し、ベッドから降りてひとり立ち、彼を睨みつけた。
「セーラ?」
「…つ、次は絶対、負けないんだからー!!」
廊下をばたばたと前から走ってくるセーラを見つけてマキセは気軽に声をかける。
「お姫さん、おはよう。どうだった?」
「…つ…」
言いよどむセーラにマキセは笑いを堪えながら話す。
「クーデノムの寝起き、悪かっただろ?」
「た、タチが悪すぎるわっ!」
捨て台詞のように言って、駆け抜けていくセーラを笑いながら見送り、そのままクーデノムの部屋へと入る。
「よ、おはよーさん」
ベッドの上で座っているクーデノムにマキセは笑みを浮かべながら声をかける。
「姫さん驚いていたぞ」
「お前がけしかけたんだろ」
やってしまった…と反省の色が見える表情を浮かべてるのを見ると、目はしっかり覚めたようだ。
寝起きが悪い……目覚めが悪いのではなく、いつも真面目で誠実な彼の理性がまだ働いていない状態。
クーデノムを取り巻いている穏やかな雰囲気が消えた感じなのだが、妙な色気も醸し出して、本人の意志とは関係なく見る者を魅了している。
何度も酒を酌み交わしてクーデノムの部屋に泊まったことのあるマキセだからこそ知っている。
本人も自覚しているが、すっきり目覚める方法を見つけ出す以外、解決しない問題だったりする。
「『次は負けない』と捨て台詞言われたよ」
「何をしてくるのか、楽しみだな」
「襲われたら、正当防衛の反撃は有りですよね」
「…過剰じゃなければな」
くすくすくすと笑い声をあげ、クーデノムも調子を取り戻す。
「……マキセ」
「なんでしょう」
「クスイに戻ろうか」
「はい…って、え?!」
「ここにも長く居過ぎるようだし」
「姫のことは?」
表情を改めて問うマキセに、クーデノムは意思を持った瞳を向けて答える。
「準備が出来たら、迎えに来る」
「それって……」
微笑したクーデノムの表情で全てを悟る。
意思を固めたということだ。
一年間、テニトラニスの王城で過ごした。
クーデノムはコセラーナ王の傍で王や国の役割について学び、マキセもシキアと行動を共にするなどして、クスイとは体制が違う国政を伺い見た。
そんな中、セーラ姫も9歳も年の離れたクーデノムに追い付こうと、また文官の妻になるべく家事を習ったりと花嫁修業と称して元気に走り回っていた。
「ついに、落とされましたか?」
「いつの間にかね」
だんだんと少女から女性へと成長していく彼女を傍で見ていた。
身体と共に精神の差が埋まってきているのを感じ、多少の焦りが芽生えてきたのも事実。
二人きりで彼女に触れるのをためらうようになったのはいつからだろう。
つまりこれは、そういうことだ。
「反対はされないだろうが、いろいろ準備は必要だな」
「そうですね」
フッと笑みを見せた表情は、お互い何か企んでいるような含み笑い。
クスイ国王の片腕として期待されている若き文官のクーデノム。
そんな彼の護衛武官として支えるマキセ。
それが、世間での彼らの認識。
しかし、遊学を終えてクスイ国に戻るという事はまだ秘密裏に動いている、王位移譲の準備に取り掛かるという事。
「派手にいきますか」
そう言って、笑った。
【END】
クーとセーラのラブラブ度が全然なかったので。
花嫁とか言いながら、結局ままだ花嫁にはなっていないしね(笑)




