オカ研より愛をこめて。・第二幕・パラドックスの罠
学校に着いて慌てて四人は自分達のアジト・・、部室に駆け込んで素早く儀式の準備に取り掛かった。
「それじゃ、今いる世界は現実の世界じゃないって事ね」
沙織はキャンドル立てを机一杯に置いていった。
「実感が無いけど変な感覚ね」
由香は銀の食器を並べている。
「早く戻らないと、この世界と同化して麻痺してしまうわ」
綾乃が分厚い大きな辞典を開いた。
「もう一度、広場に行ったらどうかしら」
翠は“魔女の衣装”と言っている黒のマントを羽織った。
「催し物は昨日までだわ。それに此処からの脱出に大事なのは場所じゃなくて、大切な時間や時期なのよ」
今日の綾乃はハキハキしている。
「それはやっぱり私達が主役の文化祭でしょ」
沙織は何本もの蠟燭に火を灯している。
「それに出し物を準備している期間ね」
由香は等身大の鏡を机の端に二つずつ並べ、“合わせ鏡”を二カ所に作った。
「それではみんな文化祭前に意識を集中して、その時の状況に帰るのよ」
綾乃は手鏡を翳した。
「ところで・・、この儀式の形はあっているかしら?」
翠が順序良く整えられた机の上の配置された品物達を見て少し違和感を感じたが、横から直ぐに綾乃が唱える呪文が響いてきた。四人は手を繋ぎ輪になって文化祭前の時空の空間へ入って行った。
「文化祭前って感じね。部屋が散らかし放題よ」
沙織の足元には足の踏み場も無いくらい怪しげな物が放り出されている。
「ところで沙織!何て格好しているの!」
翠が驚いた声で言ってきた。
「皆そうよ!同じ格好をしているわ!」
綾乃が言う様に四人とも学校の制服ではなくて、体の線にフィットした特殊な戦闘服を装着して頑丈なヘルメットまで被っていた。
「まるで何だかアクション映画の様ね」
翠が言っている最中、由香は慣れない手付きでゴーグルを掛けた。
「うわぁ!変な数字と矢印が一杯出ている!皆ゴーグルを掛けてみて!」
由香が言う様に不慣れな手付きで皆がゴーグルを掛けると、そこには見える物すべてに何らかの矢印が向けられ、またそれを数値に変えて温感センサーまで付いた、それはそれは優れものだった。
「右上で光っているレベルゲージは何かしら?」
綾乃が周りの見る物だけに定まらず上側も着目した。
「何処かで見た事があるわ・・?もしかしてまさかの私の体力測定?」
沙織が自分の運動音痴を気にした。
「それを言うならテレビゲームの命のバロメータね」
翠がハートマークが点滅している事に気が付いた。
「それじゃ来る場所を間違えちゃって、テレビゲームの中の世界に来ちゃったの!」
沙織が驚いた途端、部室の扉が開く音がして皆が一斉に振り向いた。
“引き籠りの光明寺先生と幽霊部員の黒木先輩が現れた”
四人の被ったゴーグルに映された二人に矢印が向けられ、さらに説明文が表示されている。
「ご丁寧ね。言い難い事をこのゴーグルはズバズバと表示してくれるわ・・」
沙織が心の中で思った。多分、皆も同じ事を思ったであろう。
「またこんなところでさぼって!あなた達、試験の勉強はしているの!」
いつもの引っ込み思案な性格の光明寺先生とは違い、入って来るなり言いたい事をズバズバと言った。
「またあなた達の成績が下がったら、他の先生から嫌味を言われるのは私なんですからね!」
“光明寺先生は涙を流して嘆いた”。
その様な文面がゴーグルに表示された。
「あくまでもこのゲームの世界の光明寺先生よ」
翠が小声で皆に伝えた。
「待って!見て見て!右上のレベルゲージの数値が下がっていくわ」
綾乃が突然、大きな声を上げた。
「だってぇ~。先生のあの切実な嘆きには精神的ダメージは大きいわよ・・」
由香が自分のレベルゲージを見ながら気だるく言った。
「あなた達の所為で追い出されて私の居場所が無いのよ。私が此処に来れない気持ちがあなた達に分からないでしょうね!」
“次は幽霊部員の黒木先輩の追い打ちがきた”
ゴーグルに次の文面が表示された。
「そんな身の覚えの無い事よ!」
沙織が涙目になった。
「ゲームの世界の黒木先輩だから何が起こったのか分からないよ・・」
翠が慰めた。
「またっー!見る見る内にレベルゲージが下がっていくわ!」
また綾乃が大きな声を上げた。その落ちるスピードは速く、あっという間に0%になった。すると四人の体の力が抜けその場に倒れ込んでしまった。
気が付けば同じ場所に同じ姿のまま立っていた。
「やっぱり私の思った通りだわ。テレビゲームで思い出したの。始めにアイテムを見つけてセーブしておいたのよ」
綾乃の手には何処で見つけてきたのか、魔法使いの杖を持っていた。
「それがあればゲームオーバーになっても何時でも復活出来るのね」
翠のゴーグルに映った杖には“保険機能付き”と書かれてあった。
「他にも必要なアイテムがある場合、このゴーグルが反応してくれるわ」
綾乃は慣れた使い方で把握していった。
「あれっ!沙織がいないわ!」
由香が声を上げるまで皆が気が付かなかった。
「手間の焼ける子ね何処行ったのかしら。探しに行きましょ」
綾乃の声を先頭に部室を出て行った。
「今日の綾乃は何だか違うわ・・」
後に続く二人は同じ様に思った。
その頃沙織は園芸部のビニールハウスの中にいた。
「私・・此処で何しているのかしら?」
長細く広いテントの中でポツンと沙織が立っていると妙子が現れた。
“沙織の幼馴染みで、唯一ひとりの友達の和中妙子が登場した”
沙織の着けたゴーグルにその様な文面が表示された。
「ひとこと大きなお世話よ!」
沙織はその内容に不服を感じた。
「この前、沙織から貰った不思議な形の大きな種があったでしょ。それが与えた食事の栄養がいいのかドンドン成長しちゃって!こんなに大きく育ったわ」
すると妙子の後ろから背丈を超える歯の生えた口を持つモンスターフラワーが、地面から勢いよく突き出して来た。
「ありがとう・・。それは良かったわね・・」
沙織は冷や汗を流しながら青ざめた顔になった。
「そこで相談なんだけど沙織もこの子の食事になってくれない?」
妙子は、せがむ様な目で訴えかけてきた。
「それって相談じゃなくて強制でしょ!」
沙織が後ろにたじろいだ。
「大きな桜の木の地面の下には死体が埋まっているって言うでしょ。それと同じよ。沙織もこの子の栄養分になってくれると嬉しいわぁ~」
妙子は狂気の眼差しになり、モンスターフラワーを引き連れ迫って来た。
「私そんなに栄養無いから!もし食べたら直ぐに枯れちゃうかもしれないよ!」
沙織はこんな時によく使われる台詞を言いながら、一歩一歩確実に後づ去っている。
「そんな事はぜったい無いわよ。だって沙織は私の友達だもの」
妙子のそんな言葉に沙織は弱い。一歩踏み止まった事によってモンスターフラワーが飛び掛かりその大きな口に飲み込まれてしまった。
綾乃を先頭に三人は沙織を探しに廊下を急いでいた。そこにデジタル写真部の小佐井先輩が部室の窓を開け顔を出してきた。
「あっ、丁度良かった。君達の写真が出来たとこだよ」
そう言って部室の中に呼び寄せた。そのとき既に由香はハートマークでメロメロである。
「このゲームの世界の小佐井先輩だから気を付けて・・」
翠が由香の耳元で囁き掛けたが、動ぜず揺るがすである。
「この前の集合写真なんだけど何処を見渡しても君達の姿が無いんだ」
そう言って小佐井先輩は何枚もの集合写真を渡してきた。
「ホントだわ!確かに一緒に写ってた筈なのに・・。これなんか四人で揃って写して貰ったのに壁しか写っていないわ・・」
翠が写真をバラバラと徐々に早く捲っていった。
「小佐井先輩と一緒に写った写真が無い・・」
由香が悲しく愕然となった。
「だめーっ!これ以上写真を見たらダメージの勢いでレベルゲージが急激に下がっていくわ!」
綾乃が察して持っている写真を投げ捨てたが、時既に遅しである。レベルゲージが赤く点滅して0%になってしまった。




