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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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オカ研より愛をこめて。・第一幕・暴かれていく過去

いよいよ最終話!

山の峰と、空の間との境界線が真っ赤に染まる秋の夕方。急ぎ足で山を越える一行の姿があった。

「もう直ぐ日が暮れるわ」

鷹塚翠は先頭を歩いている。

「暗くなる前に到着したいわね」

早乙女沙織は大きなリュックを背負っている。

「少し冷えてきたわね」

飾磨由香は薄着の服装だ。

「早く行きましょう」

栗須川綾乃が一番後ろから大きく声を掛けてきた。

四人が目指しているのは山深い麓にある幻の心霊スポットである。当然のごとく車も入れ来れそうもない、また長年、人も足を踏み込めていない山道や険しい獣道を長い時間を掛け乗り越えている。

「少し休みましょう。足が棒よ」

由香が立ち止まり膝を抑えた。

「私も疲れたわ」

沙織もその言葉に同調した。

四人は大きな木の根っこに腰を掛け休息を取った。大きく溜息を吐き出し、これと言った言葉もなく無言のまま、よっぽど喉が渇いていたのか四人ともペットボトルのお茶をがぶ飲みした。

「さぁ。こんな処でゆっくりしていると、あっという間に日が暮れて真っ暗になるわよ」

綾乃が一番最初に立ち上がり皆に号令をかけた。

「急ぎましょう」

翠も荷物を抱え立ち上がり、沙織と由香も後に続いた。


・・・ほんの少し前、ちょうど一番心地よい秋の日和。町の商店街ではウィンターバーゲンと相打ってイベントも開催されていた。

「ねぇねぇ、知っている!こんど町の広場にサーカス団が来るんだって!」

季節で言うとやっぱり熱い夏が好きな沙織が派手な広告を手に持ってきた。

「そうそう、チラシ見たわよ」

季節では寒い冬が意外と好きな翠もその広告を持っている。

「その他にも色んな催し物があるそうよ」

読書の秋の今の季節が大好きな綾乃もうきうきしている。

「楽しみだわぁ。どんなのかしら」

始まりの春の季節が好きな由香を始め、四人ともサーカスなど見るのは初めてだ。

「空中ブランコなんてどんなのかしら。きっと迫力があるわよねぇ」

翠はチラシを握りしめ空想に耽った。

「ライオンさんや虎さんも来るみたいよ」

由香の動物好きは猛獣も入っている。

「サーカスも面白そうだけど、私が気になっているのはこれよ」

綾乃はそう言って翠の持つ広告の一か所を指さした。

「“思い出の瞬間とき”って何これ?」

沙織が覗き込み自分の持ってる広告と見比べた。

「ざっと大まかにしか書いてないから分かり難いけど、要するに記憶を遡って良き思い出を覚えださせてくれるみたいよ」

綾乃は、ほんの少しのコメントの概要欄を読んで推測した。

「思い出を覚え出さすといっても大概は覚えているわよ」

翠が自身ありげに言った。

「このまえ私が貸したお金・・。まだ返してもらってないんだけど覚えてる?」

由香が気だるい声で横から顔を突き出した。

「・・・?借りてないわよ!・・んで、そんなの思い出じゃないしっ!」

翠は困惑状態だ。

「・・じゃなくて。楽しかった事とか面白かった事とか、その一瞬一瞬が最高潮でしょ。だけど私達は若いからいいけど、お歳のいった人なんか段々と色褪せてくるでしょ。忘れかけていた記憶の引き出しから出してくれるって、そう言った意味じゃないかしら」

綾乃が推測した。

「どうやって記憶を掘り起こすんだろ?」

沙織は不思議で仕方がない。

「なんかの機械か催眠術か何かじゃない?」

翠も分からず仕舞いだ。

「だけど何だか胡散臭いわねぇ~」

由香は不審に思っている。

「けど・・、ちょっと気になるから行ってみましょう」

綾乃は前向きに答えた。


その週末。四人は待ち合わせをして人盛りの出来た賑わう商店街へと、駆り出して行った。そこは人混みだらけで出店も溢れ出し、どの催し物会場も長蛇の行列で並んでいた。

「いつ来ても此処は華燭の街ねぇ」

沙織は周りを眺めながら感心している。

「ほんと凄い人並みねぇ」

綾乃の目が大きく真ん丸になっている。

「何処からこんなに人が溢れて出るんだろ」

翠は呆気に取られている。

「私達もその一人よ」

由香が気だるく冷静に言った。

「たい焼き見っけ!」

沙織は食べ物には目が無い。

「それで目的の会場は何処なのかしら?」

綾乃はチラシを見ながらキョロキョロしている。

しかしいくら探せど、お目当ての“思い出の瞬間とき”という店は見当たらず四人はたい焼きを頬張りながら途方に暮れた。

「先にサーカスを見に行きましょうか」

あんこだらけの口で沙織が言った。

「ダメ!こっちが先なの!」

尻尾を銜えた綾乃が睨んだ。

広告の商店街の地図を広げ探しながら歩いていると、次第に人影が少なくなり人気の無い路地に突き当たった。それに入ると小さなテントが張られた店が忽然と出てきた。

「あったわよ!“思い出の瞬間とき”!」

綾乃が皆の肩をパンパン叩き指を差した。

それは他の店と比べ長い列を組んだ行列も無く、ひっそりと佇んでいた。今までとは違うその状況に四人は異変を感じたのか、恐る恐るテントの暖簾をくぐり入っていった。そこには火の灯った太い一本の蝋燭が薄暗い明かりに照らされたなか、独り魔女の様な老女がひっそりと椅子に腰かけていた。

「まっっ、まっ!魔女!」

四人は一斉に抱き着きビビり捲った。

「いらっしゃい。待ちかねていたよ」

老女は顔に似合わず愛らしい笑顔を浮かべ手招きした。四人はしがみ付きながら摺り足で近寄って行った。老女の前にはお香が焚かれ何とも気持ちの良いリラックスムードの雰囲気になってくる。対称的に並べられている木で出来た小さな安楽椅子に四人は座り、老婆と向かい合った。

「さてと、あなた達の思い出はなんだい?」

老女は優しく聞いてきた。

「思い出とは言っても沢山あるわねぇ。雪男探索もあるし古代遺跡発掘もあるし・・どれにしようかしら」

翠は自分たちのやってきた活動内容を言い出した。

「そういうのもあったけど、どれも中途半端に終わっているわね」

由香は体が解れてきたのか、手を組み腕を前に出し思いっきり筋を伸ばした。

「そうよねぇ、一つ一つ挙げていったら限がないわ」

綾乃は両腕を天井に挙げ、気持ちよさそうに大きなあくびをした。

「だったら今までの活動をまとめて、私達の記憶を思い出されて貰いましょ」

沙織がひらめいた様に明るい、いぃ~顔で言った。

「そうなったら四人全員が、全員同じ内容の思い出が甦っちゃうじゃない」

翠はそんなの面白くなさそうな顔だ。

「だけど大体四人いつも一緒だし、同じ内容でも個性の違う思い出だから面白いんじゃない」

由香の目が虚ろになり眠そうだ。

「皆で思い出のアルバム写真を開くような感じよ」

綾乃は何度も大きなあくびをしている。

「それもそうね。あとで語り合ってワイワイ騒ぎましょ。沙織それでいいわね!」

翠も納得して沙織に振った。

「・・・・」

沙織は体ごと項垂れ爆睡中だった。

「なに?この子は寝ているの・・」

翠は隣通しに座っている由香も綾乃も気持ち良さそうに寝ている事に気づき、安心したのか自分も同じように深い眠りに着いていった。

「四人とも皆いい寝顔だわ。この子等は思い出を掘り起こす事に夢中で、消してしまいたい思い出に気が向いていないようね。いいわ・・、何れそれも思い出した瞬間ときに分かってくれるでしょう・・」

老女は顔に似合わず若い声に変わった。足を伸ばし体の力が抜けて座ったまま寝ている四人に老女は子守歌を唄う様に何やら呪文を唱え始めた。


次の日・・。通学途中の四人はいつもの様におしゃべりに花が咲いていた。

「食欲の秋ねぇ。もうお腹ペコペコだわ」

沙織の腹が鳴っている。

「朝ごはんも食べているんでしょ。なのに消化が早すぎるわよ」

由香がウソでしょ!って顔になっている。

「さつま芋持ってきたから、落ち葉集めて焼いて食べましょ」

綾乃の持っている手提げ袋に、ぎっしりとさつま芋が詰まっている。

「さぁ、また今週から文化祭に向けて、またバリバリと活動を始めていくわよ!」

翠は張り切り気合を入れた。

「ちょっと待って!文化祭ってとっくの昔に終わってない?」

綾乃が不思議な顔をした。

「何言ってんの!これからじゃない!その為に色々準備してんのよ!」

翠の方こそ不思議な顔になった。

「そうよ。裏山の採掘中に出てきたオーパーツの展示でしょ!」

沙織が間から顔を出した。

「なに言ってんの!それは去年の話でしょ。今年は猿の手を始め怪奇ミイラ祭りよ!」

翠は自分の考えたタイトルも自慢げに言った。

「それも発表した気がするわ。それより今度は降霊術でパフォーマンスした方が、注目を集められるって言っていたじゃない!」

由香が気だるい声で後ろから近づいて来た。

「えっ!それじゃ予定の呪いの物産展や髪が伸びる人形の雛段飾りは、どうなったの?」

沙織はあらゆる所から怪しげな品物を集めている最中だった。

「何だか色んな思い出が一杯で頭から浮き上がってくるわね・・」

翠は何が何だか分からなくなってきた。

「みんな!ちょっと待って。よく考えて・・私達は何回、文化祭をしてるの?」

三人の会話を黙って後ろで聞いていた綾乃が立ち止まり、俯き加減で言い出した。

「出店の企画を考えて準備するのは初めてよ。だから楽しみにしているんじゃないぃぃ・・?」

沙織は自分の言った後から何か言い知れぬ矛盾を感じた。

「今まで喋っていた事と何か変な感じがするでしょ!」

綾乃がニンマリ笑いながら的を突いてきた。

「じゃ、昨日は私達なにしてた?」

綾乃の口調が変わり、続いて聞いてきた。

「えっと昨日は・・?なんてこと!まったく出てこないわ!それより頭の中が昔の思い出だらけで一杯よ!」

翠の頭の中はパニック状態だ。沙織と由香も頭を搔きむしり同じようだ。

「昨日なんかの最近の出来事は、まだ思い出とは言い切れないからよ。昨日、私達は商店街の広場にサーカスを観に行ったのよ。実は私もあんまり覚えていないけど・・」

綾乃がそう言って手帳を出してきた。その予定表には確かに“サーカスに行く”と書かれてあった。

「どうしようぉ・・。昨日の事なのに全く覚えていない・・」

沙織が頭を両手で搔きまくった。

「あともうひとつ。“思い出の瞬間とき”って書いているのよ。何かしらこれっ?」

また綾乃の手帳には、ほんとに小さく走り書きされていた。

「予定として書いただけで、実際には私達行ってないんじゃないのぉ~」

由香は疑いの目だ。

「じゃ、私を含めてみんな昨日の記憶が無いのはどうゆう事かしら!」

今日の綾乃はどこかが違う。

「これは、もしかしてタイムパラドックスよ!私たち時空の隙間に入り込んじゃったのよ!」

沙織は大変な事に気付いた様な顔で驚いた。

「こうなったらとことん真相解明よ!この空間の歪みから抜け出すのよ!」

やけに今日の綾乃は張り切っている。

「私の言う出番がないわ・・」

翠の存在が小さくなった。

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