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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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時空を超えた遺言状・第四幕・終幕の大団円

翌朝、校内では西園寺の顔を見る者はなかった。

「西園寺も消えたって!」

部室に向かう途中の翠と由香の会話に沙織が驚いた。

「まぁ、セリフ棒読みだったらしいから無理もないわね」

後ろから飛び込んできた綾乃の言葉に全員ため息を付いた。

「当面あの顔を見ずに済むわ」

沙織はほっとした顔だ。

「生徒会長がいないとなると、風紀委員が幅を利かせてくるわよ」

由香が気だるい口調でいやらしい顔だ。

「必要になれば四次元の世界から首にロープを巻き付けて引っ張って来るわよ」

翠は仕方なしの顔だ。

四人が部室に入ると壁一杯に真っ赤な文字が走り書きされていた。


“あやつはおなごじゃ”


「何かしらこれ?この言い回しはお狐様ね」

綾乃はその大きな字をひとつずつ体で追って見て行っている。

「もしかして!これはお狐様が残したダイニングメッセージよ!」

沙織の名推理だ。

「ダイニングメッセージ・・って!はなっから生きてないでしょ、彼女は!」

由香はその推理を瞬く間に打ち崩した。

「はてさて、どういう意味かしら・・」


その日から舞台稽古も大詰めを迎え、生徒全員による通し稽古の合同練習が始まった。

時は中世のとある国。同盟を結んでいた隣国通しが政府の悪政ぶりと王室の衰退を発端に国民の内戦とクーデターが勃発。そこに両国の王子と王女との結婚を機に平和を築き歩んでゆくという言わば“ロミオとジュリエット”張りの壮大な物語を素人同然の中学生を使っての舞台である。

殆どの生徒達は芝居の練習の成果を出そうと自分の演じる役の演技に期待して、胸一杯に募らせていた。しかし四人は、・・というと、ぺイソンの正体を暴こうと躍起で胸一杯である。お芝居の進行は順調で舞台で演技する生徒の風景を、次の順番待ちの生徒が客席に座り観ている。四人はぺイソンに不審な行動が無いか見ている。舞台装置は大掛かりな物で照明のスポットライトが役者を照らし出し、シーン毎の効果音なども放送部が担当して、それはもう学校の設備の域を超えた大それた演出に仕上がっていた。しかし、これといった出来事も何も無いまま一幕が終わるごとにぺイソンは穏やかに足を組み、お芝居は詰まる事無く流れていった。


「そろそろ私達の出番よ。練習の成果を見せてあげましょう」

翠が皆に合図した。

町娘を演じるエキストラの四人は、他のエキストラの生徒達と一緒に舞台一杯に埋め尽くして並び、舞台中央で演じる生徒を見守り引き立てるという設定だ。その場面は銃弾に撃たれた戦友と永遠に悲しい別れを告げるといった胸打たれるシーンである。舞台中央の生徒の一通りの演技が終わり、エキストラ役の生徒が駆け寄る場面に四人が先頭に立ち、掛け声と共にスピーカーからはヒットパレード的な軽快なリズムの音楽が、翠が先に声を掛けていた放送部より流された。四人は軽やかに踊り出し、それに釣られた舞台上の全員の生徒達がミュージカルの様に振舞った。

「何をしているんだ!勝手に芝居を変えて!」

ぺイソンは座っていた椅子がひっくり返るほど勢いよく立ち上がり大声を上げた。

「やめろっ!やめろーっ!何をしているんだっ!」

ぺイソンは堪り兼ねて舞台に駆け上がって来た。まだリズミカルな音楽は鳴り響きそれに踊り舞う生徒達をぺイソンは抑え振り払っていった。

「あぁぁ~、もうキリがないっ!」

急に女性の声に変わったぺイソンは頭を掻きむしった。

「あなた達は私の舞台の完成を邪魔する気なの!」

ぺイソンの声はいきなり甲高い声色に変わり顔も険しい女性の表情になった。

「否が応でもこの舞台を完成させてみせるわぁ!」

ぺイソンの甲高い声は照らし出された照明を消し、鳴り響いていた曲を打ち消し、そして生徒達を圧倒させ、その場に全員を倒れ込まさせた。

「お狐様の残したダイニングメッセージの意味はこの事だったのね!」

沙織も衝撃で倒れ込んでいる。

「悪霊に取憑かれた体としたら長年生きてきたつじつまが合うわ」

綾乃も翠と由香を巻き添いに同時に倒れ込んだ。

「さぁ、私の彼に対する復讐を生徒全員で手伝ってもらうわよ!」

ぺイソンの顔は完全に女になり見るも恐ろしい表情になっていた。

「復習・・?」

沙織の脳裏を過った。

「字間違えているわよ・・。復讐のほうよ!」

翠が声を掛け訂正した。

「そうは問屋が卸さぬわ」

切れた一つのスポットライトが復活して、その中からお狐様の姿が現れた。

「よくも童を侮辱しおって!」

お狐様の怒りの感情のエネルギーが女になったぺイソンを舞台から突き飛ばした。舞台下で倒れ込んだぺイソンの前に一人の男が現れ歩み寄った。

「パトレシア・・。俺が悪かった・・、許してくれ。もう、関係ない生徒達への当てつけは、もういいじゃないか・・」

その男はもう一人のロゼット・ぺイソンだった。倒れたぺイソンの腕を掴み、起こして立ち上がらせた。

「こうなったのも・・、みんなあなたのわがままで、最悪な自己中心的な性格の所為じゃない・・。懲りずに何回も同じ事を繰り返しては、同じ失敗を変わりなく何回もして!もう同情の価値が無いわ・・!」

女になったぺイソンは穏やかな表情になり、涙を流しながら男のぺイソンの胸に顔を寄り伏せた。

「君の気持は充分自分なりには分かっているつもりだ。何回も何十回も何百回も時間を跨ぎ潜り、君との生活をやり直そうとした。今とは違う未来を見ようと望み、色んな事を試みた。だが・・、全て失敗に終わってしまった。だから・・もう俺との出会いもすべて忘れて、何も無かった事にしておくれ。そして別の男性と幸せに暮らすんだ」

女になったぺイソンの頭を撫でながら男のぺイソンも涙を流した。すると、撫でていた頭から女のぺイソンは砂埃となり、流れ落ち崩れゆく体全体から砂煙が舞い上がり、その中から恨みに満ちた醜い形相の塊が甲高い悲鳴を上げ転げ落ち、叩きつけられ粉砕していった。ロゼット・ぺイソンはその状況を最後まで見守り、光に包まれ消えていった。舞台上に倒れた生徒達・・。客席に座っている面々・・。そして全員意識を失い倒れ込んでいった。


翌朝・・。四人は何気ない会話で花を咲かせ学校に向かっていると、由香がこんな事を聞いてきた。

「なにか昨日まで大事な事をしていた様な気がするんだけど・・」

「なに言ってんの!?大講堂ってなにっ!この学校にそんな所ないわよっ!」

翠は目を丸くして驚いて魅せた。

「夢か移つか幻か!・・を、見たんじゃない?」

綾乃は由香のおでこに手を当てて魅せた。

「そうよぉ~夢の世界のぉ~舞台でぇ~踊ってぇ~歌ってぇ~」

沙織なんかはリズムを踏んで立ち振る舞って魅せて、そして四人は笑って別の話題に切り替わった。


突然の飛行機の揺れはまだ続いている。挙句の果てには救命器具まで天井から落ちてくる有様だ。

「当機は乱気流に巻き込まれましたが、直ぐに回避致しますのでご安心ください」

慌てた様子でアナウンスが流れたが嘘に決まっている。もう時期この飛行機の全エンジンは止まり墜落する。その事をぺイソンは知っていた。

「突然の嵐に見舞われ、整備不良のエンジンが止まり、実際この旅客機は墜落してしまう。何も知らず乗り合わせたこんな多くの人達を犠牲にはしたくはない。あの戦争と同じ無駄な血を流したくはない。これを救うにはこうするしかないんだ!」


また戦火が広がる惨たらしい光景が頭の中から溢れ出し、目の前にその状況が現れた。俺はあの時と同じ場面にいた。

「此処から逃げよう・・逃げよう・・、いや逃げちゃいけないんだ・・」

俺が向かった先は妻のパトレシアが待つ自分の城だった。

「ようやく会いに来たよ。俺は生まれ変わったんだ!今までとは違う、自分で決断できる強い性格になったんだ!」

俺は部屋の真ん中で棒立ちになっているパトレシアを抱きしめた。

「私のお腹の中にはあなたの子がいるというのに、たった一人の愛する人も守れないような根性じゃ、何時になっても、何回も繰り返しても、同じ結末よ・・」

パトレシアは無機質で感情の無い顔で素っ気なく言った。そして、強く抱きしめたパトレシアの体は、砂時計が下に落ちる様に細かく崩れていった。


何回も同じ失敗を繰り返しながら俺は何時も思う。あの時、シナモンの伝える愛情を受け止め、逃避行に出ていれば、求めていた理想の人生になったかもしれない。そうでなくとも今よりかは・・、ましだ。だが専属の家庭教師とはいえ、当時の時代背景と世論情勢と戦争のなか、位の違う身分である二人にとって人生を添い遂げることは不可能と言えるだろう。


「今君の元へ行くよ・・」


こうして墜落事故を免れた飛行機は四次元の世界へと消えていった。そして・・、ロゼット・ぺイソンという世界的知名度の高い演出家は今はもういない。・・と、言うよりか、そもそも存在していなかったのかもしれない。彼には地位や名誉や財産、世界の注目を集める人気など微塵もいらなかった。ただ一人の本当に愛した女性と一緒に傍に寄り添って平凡な人生を送って老いて逝きたかっただけ・・、だったのだ。


「大変よ旅客機が海の上で消息不明らしいわよ」

学校に着いて教室に入るなり、何処で聴き込んできたのか沙織が言い出した。

「まさか!あの魔の海域!飛行機に乗ってたお客さんは大丈夫かしら・・」

綾乃が心配し始めた。

「それか飛行機ごと、四次元の世界に行っちゃたのかしら?」

由香が腕を組み気だるい声で聞いてきた。

「また私達の新たな“四次元の世界”という研究目標が出来たじゃない」

翠が元気溌剌になった。

「さぁ!その行方不明の飛行機を探しに四次元の世界へレッツゴー!」

四人は腕を振り上げ歓声を上げて飛び上がった。



※今回のウィキペディアで検索してみよう!※


●タイムトラベラー

●ドッペルゲンガー

●四次元世界

●ダイニングメッセージ

●第十壱話・時空を超えた遺言状(全四幕)



●出演者


オカルト研究会メンバー

早乙女沙織、鷹塚翠、飾磨由香、栗須川綾乃


●ゲスト出演者


生徒会会長・西園寺公佳

新入部員・お狐様

園芸部部長・和中妙子

その他の学生たち


ロゼット・ぺイソン

シナモン・フレッド

パトレシア・レーモン



※この物語はオカルト研究会の四人組のドタバタコメディのフィクションであり実在の個人名、団体名、建物名、本のタイトルなど一切関係はございません。

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