赤い糸の伝説・第一幕・廃墟での出会い
大地から小さな新芽が力強く起き上がり、冬眠していた動物達も暖かい気候に誘われ気持ち良く目覚め、所々薄い雲が浮かぶ何とも透き通った青空が広がり、桜の蕾も少しずつ開こうと頑張っている様子が伺える今日この頃。小鳥が囀りながら求愛を繰り返し飛ぶ姿も春の息吹きを感じる瞬間である。
そんななか四人は春休みを利用して“秘密基地”にしている小高い山の森の奥深くにある、廃墟のお寺に朝早くから林道を登り向かっていた。
「やっぱり春は気持ち良くていいわねぇ」
やっぱり濃い緑色が好きな鷹塚翠が大きく舞い上がった。
「何とも心地よい暖かさね」
なかでは黄色が好きな栗須川綾乃が背中の大きなリュックを背負いなおして言った。
「この気持ち良さはなんだか歩いていながらでも眠たくなってくるわ」
純白の白色が好きな飾磨由香が大きなあくびをしながら気だるく言った。
「平和だわぁ~」
よく使う情熱の赤色が好きな早乙女沙織が両手を広げ大きく深呼吸していた。今日の四人はそれぞれ好きな色に合わせたハイキング姿である。
「基地に行くのも、ほんとっ!久々じゃない?」
水筒のお茶を飲みながら沙織が聞いてきた。
「そうよねぇ、あれは確か夏休みの終わり頃じゃない?」
日差し除けの大きな帽子を被った綾乃が答えてきた。
「もうそんなに経っているの!それじゃ雨ざらしで砂埃だらけじゃない」
何を詰め込んでいるやらリュックが一番大きい翠が驚いた。
「当然、冬場に行ったら隙間風だらけで居ても経っても居れないでしょ」
運動靴の靴紐を硬く結び直しながら由香が言ってきた。
「それはさて置き、さぁ~て、今日は長丁場よ。各自食べ物は沢山たくさん、用意してきたぁ~」
翠が皆に確認を取った。
「あったりまえじゃないぃ~!万全よ!だけど百物語って秋の夜長にするものじゃなかったけ?」
沙織が背負ったリュックを後ろ手で叩いた。
「仕方ないじゃない。秋はなんやかんやで立て込んで来れなかったんだから」
綾乃は大きなサングラスまで掛けだした。
「今日の私は新ネタがあるからちょっと違うわよ!」
由香がしっかりと靴紐を結んで後ろから走って来て皆を押しのけ先頭まで突っ込んだ。
「今回の大会ではいつもの様に誰よりも多く話をした人が勝ち!だけど・・前にも聞いた事がある話は少々なら許すけど、余り多くある場合は減点として持ってきているお菓子を没収するわよ。そして優勝した話は勿論のこと、興味関心を持った話は次の調査活動の対象とします」
部長の翠が後ろ向きで歩きながら皆に向かってミーティングを始めている。
「ハイハイ。今日の優勝は私で決まりね。皆のお菓子全部頂くわ。絶対自信があるんだから!」
沙織はよっぽど自信ありげな隠し種があるのだろう。
「そんな大口叩いて!全部没収されて泣きっ面見せるのはそっちの方よ。今日は私が優勝よ!」
綾乃がネタ帳を捲りながら沙織に向かって言った。
「ところで前の優勝は誰だったけ?」
由香が二人の間に割り込んだ。
そんな話題を繰り返しながら四人はどんどん山の奥へ奥へと入って行った。段々と日の光は生い茂った樹木に遮られ冷たく湿り、朝だというのに周りの景色は薄暗くなり、春だというのに肌寒くなってきた。
「春なのに冷やっ!としてきたわね」
由香が身を縮めて、ぶるっと震えた。
「ほんと寒くなって来たわね。先っきまでとは大違いよ。ところで私達だいぶ歩いているけどこんなに遠かったかしら」
沙織も歯をカクカクするほど寒そうだ。
「誰にも知られずに人目を避けなければ私達の秘密基地にならないじゃない。さぁ見えてきたわよ」
先頭を歩く翠の前方。遠くの方に今にも潰れそうな廃墟と化した古寺が、木立ちの中から現れた。それは屋根や壁や玄関は朽ち果て、辛うじて骨組みの外観だけが残っている哀れな代物だった。
「ようやく着いたわね。しかしこんなに寒くちゃ!カイロを持ってくればよかったわ」
綾乃の言葉に全員頷いた。震える身体で古寺の前まで来ると躊躇なく四人は土足で上がっていった。
「私達がいない間、お留守番ご苦労様」
翠がお堂の中の朽ちた仏像に手を合わせ挨拶をして、さっそく四人は掃除を始めた。
「こりゃ!凄い埃だわ」
「畳からキノコも生えているしぃ~」
「床もミシミシ言って危ないわよ」
「何処に座ればいいのよぉ~」
などと言った言葉が飛び交いながら皆ほうきを片手に、見かけはすすくれたお堂が段々と奇麗になっていった。
「これで少しは奇麗になったわね。それじゃ準備しましょ!」
翠がそう言うと皆は散らばって備え置いている道具を取りに行った。そこにすぐさま綾乃の大きな悲鳴が聞こえてきた。
「みんなこっちに来て!」
綾乃の呼ぶ声に皆が集まるとそこには学生服を着た二人の少女が横たわっていた。
「蝋燭を取ろうと襖を開けるとそこにいるのよ!びっくりしたわ!それより皆なんで毛布を被っているのよ!」
綾乃以外毛布を被って寄り添っている。
「だって寒いじゃん。ねぇ、ところで綾乃のあんな大声でも目が覚めないっ!てっ事は、もしかしてそのお二人さん死んでいるの?」
頭から毛布を被った沙織が恐る恐る聞いてきた。
「分からないわよ。私達の学校の制服でも無いし何処から来たんでしょ?」
綾乃も翠の被る毛布に入り込んできた。
「ちょっと揺すってみなさいよ!」
翠が入り込んできた綾乃に言った。
「第一発見者は私なんだから次は誰かやってよ!」
綾乃はもう懲り懲りだ。そのとき横にいた由香が沙織の背中を押し出した。
「何で私なのよ!」
沙織の踏ん張る足が皆に押され滑り出していく。そんな折り、横たわっていた二人の少女が寝息と共に寝返りを打った。
「なんだー生きてるじゃないぃ~」
沙織の緊張の糸が一気に解れ、大きな溜息と一緒に本音が出た。その声で目を覚ました二人の少女は四人を見るなり悲鳴を上げ、飛び起きて押し入れの隅までのけぞっていった。
「ビックリするわね!誰なのよあなた達!」
一人の少女が四人に向かって甲高い声を浴びせた。
「それはこっちのセリフよ!あなた達の方こそ誰なのよ!」
先頭に押し出された沙織も負けじと言い返した。
「私達は峠の沢の辻向こうにある街から、こっちの中学校に交流でやってきたのよ!」
狭い奥の暗がりから恐々出てきた二人は、最初は分かりずらかったが学生服を着ているものの髪の毛を染め化粧の濃い顔をしていた。
「“街”って言っているけど!そこってちょっとだけ都会寄りの私達と同じ田舎町じゃない!」
翠と一緒の毛布を被っている綾乃がぼそぼそと翠に言ってきた。
「あなた達二人とも本当に中学生?」
由香が疑いの質問をぶつけてきた。
「そうよ!見たら分るでしょ!これでも中学三年生よ!中学生活最後に田舎の学校を体験しに来たのよ!」
化粧の濃い一人が言った。
「よく言うーわ、同じ田舎町の癖して!」
また綾乃がぼそぼそと翠に言った。
「そう言えば何か書いていた回覧板がアジトに回ってきていた様な気がするわ・・」
翠が何かを思い出した。
「あんた!何か大事な事をようやく、“いま思い出したっ!”て顔してたでしょ!」
由香が毛布を被ったまま翠の近くに寄り耳元で小声で言った。翠は視線を泳がし知らん振りをして惚けた。
「そんなあなた達は此処で何してんのよ!」
もう一人の化粧の濃い少女が言った。
「ここは私達、オカルト研究会の秘密基地。言わば別荘よ!そこで今日は恒例の百物語をしようっていうわけ!」
沙織が腕を組み自慢げに言った。
「オカルト・・?秘密基地・・?百物語・・?」
化粧の濃い二人の少女は首を傾げチンプンカンプンだ。
「百物語っていうのは皆が持ち寄った怖い話をして、ひとつ話す度に蠟燭の火を消し、それが百になると素敵なサプライズが起こるのよ!」
綾乃が嬉しそうに二人に説明した。
「何っそれ?訳分からないわ。そんな事より女同士女子会をして“恋話”しましょうよ」
化粧の濃い少女が嬉しそうに持ち掛けてきた。
「女子会・・?恋話・・?」
四人は首を傾げた。
「説明はいらないでしょ!言葉通りよ!」
もう一人の化粧の濃い少女が言ってきた。
「私の好きな男の子のタイプは・・、清楚でぇ、おしとやかでぇ、つつましやかでぇ、青白の肌でぇ、魔術が好きで深夜になると丑の刻参りをする、黒髪の醤油顔かなぁ~」
沙織がさっそく妄想に耽った。
「ダメ!絶対!百物語をやります!」
翠が沙織の独り言をほったらかしに頑固に言った。よっぽど皆のお菓子を頂きたいのだろう。
「そんなくだらない怖い話をするよりか、有り得ない恋愛話で盛り上がった方が楽しいわ」
もう一人の化粧の濃い少女が投げ捨てる様に言い放った。
「古典の怪談話はそれこそ悲しく報われない恋愛話よ!」
綾乃はその言い方に腹を立てツンケンしながら言った。
「まぁまぁ、ここは公平にじゃんけん勝負という事にしませんか・・」
沙織が間を取り持ち、気をわずらわせながら言ってきた。
「やっぱり最初から私達の言うとおりにしていた方が良かったじゃない~」
四人は連敗して敗北感を味わった。
「なんだか私達の出す手を、既にお見通しって感じだったわ」
翠が無念の表情でぼそぼそ言った。
「さぁ~て、今からお姉さん達があなた達に新しい春に向けての強く逞しい女の生き方を教育してあげるわぁ!」
少しだけ都会に近い田舎町からやって来た化粧の濃い二人の名前は香町美沙織と南本亜夜。ちょっと都会かぶれしていて、それでいて生意気なおませさんである。




