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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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時空を超えた遺言状・第二幕・舞台稽古初日

冬の厳しい寒さがまだ残る時期。皆様ご存じしょう桃烏中等学校では、ここ一か月間午後からの授業を舞台準備と演技指導にして割り当てていた。今日もまた大講堂では職員達が舞台作りに専念し、各グループごとに分かれた生徒達が演技の練習に勤しんでいた。

「今日が私達のお芝居練習の日よ」

そう言ってニンマリと笑った飾磨由香は静かに闘志を燃やすタイプ。舞台では町娘Aの役を貰っている。

「昨日は一夜漬けで台本覚えてきたわよ」

ヤル気になっている早乙女沙織はお調子者タイプ。舞台では町娘Bの役を貰っている。

「私は集中して独り芝居までしたのよ。楽しみだわぁ」

エレガンスな女優気分でいる栗須川綾乃は妥協を許さないしっかり者タイプ。舞台では町娘Cの役を貰っている。

「あなた達お芝居の配役に現を抜かすのもいいけど、私達の活動も忘れないでね!しかし一か月もの間活動出来ないなんて最悪だわ」

活動休止にキレ気味の鷹塚翠は皆を引っ張て行くお姉さんタイプ。舞台では町娘Dの役を貰っている。

「いよいよ私達の出番の時間よ!ワックワクしちゃうわ」

社交用のドレスの衣装を着た沙織がはしゃいでいる。

「私なんか緊張で掌の汗が止まらないわ」

ウエディングドレスの衣装を着た由香はハンカチで手を拭いている。

「自信を持って自己表現すればいいのよ」

お姫様の衣装を着た綾乃は等身大の鏡の前で身なりを気にしている。

「ところで私達の演技指導してくれる先生って有名な人なんでしょ」

お妃様の衣装を着た翠は照明の点いた鏡台に座り化粧をしている。

「えっ!翠!知らないの!?ロゼット・ぺイソンって世界中の人が皆知っているよ!」

綾乃はワンピースの大きなスカートを広げて鏡の前で舞った。

「私も知らなかったわ。あまりお芝居って見に行かないから」

由香は手を拭くハンカチからタオルに替えた。

「そんな高名な人がこんな田舎の学校に来てくれるわけぇ~?」

沙織は机に置いてある煎餅を頬張った。

「何故かは知らないけど早い話ぃ~、この学校が世界中で有名になる為よ。テレビ中継されてマスコミの人も沢山来るみたいよ」

綾乃も一緒に机のおかきを口にした。

「知っている芸能人とかアイドルも来るかしら」

由香はお饅頭を一口食べた。

「世界中のテレビに出るんだったら私達の活動もアピールしましょうよ!」

翠は既にあられを二口目だ。

「そうよぉねぇ~。最近の通信ネットワーク部も躍起になっているし、私達もブロードウェイミュージカルにハリウッドデビューよ!」

沙織の一声を皮切りに全員喜び飛び跳ねた。

「お前ら騒ぐんじゃねぇ~!」

そこに割り込んで入って来たのは生徒会長、西園寺公佳。情緒不安定なヒステリックタイプである。舞台では意地悪なお手伝いさんの役を貰っている。

「まだまだ衣装なんて着るなんて早すぎるわよ!」

西園寺は制服姿のままだ。

「それじゃ何時着るのよ。練習する私達の番の今日しかないじゃない!」

翠はスカートを持ち上げ、つま先立ちで立ちはだかった。

「今日も明日もこれからもずっと!本番までは着ないのよ!」

西園寺も前のめりになった。

「それにあなた達の役とは程遠い全く違う衣装を着ているじゃない!」

西園寺は一歩幅寄せした。

「いいじゃない別に。せめて着るくらい」

綾乃もポーズを付けて見せた。

「良くないわよ!みんな貸衣装よ!今やってる摘み食いで染みでも付けたらどうするの!」

西園寺は沙織の口に銜えている煎餅を引っぱった。

「着る機会がない衣装なんだから、こっちも気を遣って着ているわよ」

沙織は口の中に残った煎餅を頬張りながら言った。

「あなた達の役は、セリフなんてひとっつ!も無い大勢のエキストラの中の一部にしかすぎないのよ!それにこの舞台に幾らのお金が掛かっていると思っているの!あなた達の活動経費なんて比じゃないわ。早く脱いで元通りに戻しておきなさい!」

そう言うと西園寺は血相を変えて出て行った。

「何あの態度!頭に来ちゃう」

翠はレイスの手袋を脱ぎ投げた。

「あの性格だったら、今回のいじわる役にぴったりだわ」

沙織はまだ口の中に煎餅が残っている。


四人は学生服に着替え大講堂へと向かった。途中、廊下で園芸部部長の和中妙子と出くわした。彼女は自分に厳しく人に優しい厳格なタイプである。

「妙子は今日が練習日なの」

幼馴染みの沙織が問いかけた。

「そうよ。園芸部という事で私は花屋さんの店主役なの。あまり関係ないけどねぇ。でも、緊張しちゃうわ。・・で、少しはセリフもあるのよ」

妙子は台本を読み返しながら歩いている。

「王子がその花屋の娘に一目惚れするシーンね」

台本の全ての台詞を読み切っている綾乃が割り込んだ。

「その大事なシーンの花屋の娘役の子がね人見知りするタイプなのよ。ちょっと心配で・・」

妙子は困ったちゃんになった。

「大丈夫よ。そんな事言っていたら皆、お芝居なんか疎い素人なんだもの」

セリフの無い翠にとっては自信満々だ。

そんな会話を交わしているうちに大講堂に着き、その重いドアを開け、並べられた沢山の椅子の一番後ろの席に座った。四人と同じエキストラの面々は同じ様に椅子に座り待機して舞台風景を見ている。舞台では先に集められた生徒達が演技をしている。舞台の一番前の先頭の席に一人の男が座り、かなり大きな声で演技指導をしている。

「そんな演技じゃ駄目だ!もっと感情を入れて!」

体がビクッと反応して一瞬動きが止まる程のどぎつい怒鳴り声だ。いま舞台に立ち演技指導をしてもらっている男子生徒の表情が強張った。

「あの人が有名なロゼット・ぺイソンさん?」

翠が遠く指を差した。

「私はね!信念の入っていない役者は許せないんだ!!」

まるで本物の役者に向かって言う程の迫力だ。舞台上の男子生徒は怖気づきセリフが出てこない。

「かなり厳しいわね」

由香は顔をしかめぼそぼそ言った。

「もう一回!台本を読み返してやり直してこいっ!」

怒涛の様な罵倒が響き渡った。舞台上の男子生徒はその場で崩れ落ち泣き出した。

「それにしてはひどっい!わねっ、あの言い方!」

沙織は眉間にしわを寄せた。

「もうー、いいっ!好き勝手にすればいいじゃないか!!お前がやっている役の代わりになる学生は他に沢山いるんだ!交代だ!!」

男は台本を投げ捨て大股で出て行った。舞台上の生徒達は青ざめ怯えていた。

「わたし何だか怖くなってきちゃた・・」

綾乃は眼球を大きく開き驚いている。

「いくら偉い先生だからってっ!あんな感じで言われたら堪ったもんじゃないわ。どうせ私達にはセリフも無いんだからもう行きましょ!」

翠は不貞腐れた顔になり頬を膨らませた。

「この次が私達のグループの稽古だから私は残るわ・・」

妙子は席を断つ四人に小さく言った。・・あと。

「お偉い先生のご機嫌を取る様な演技で頑張るわ」

妙子の囁く言葉に四人は無言でエールのガッツポーズを送った。

四人は身を潜めそそくさと大講堂を出ていき、本日初回の演技をすっぽかした。

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