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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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時空を超えた遺言状・第一幕・ロゼット・ぺイソンという名の男

今回は唯一の異色ストーリー。

男は上空三万フィートの高さにいた。旅客機の飛行機の中。一面に広がる雲を眼下に眺めながら自分の人生を振り返っていた。その男の名はロゼット・ぺイソン。名だたる舞台を手掛けた世界的有名な演出家だ。地位や財力、人気度もさることながら人から見れば裕福で何不自由なく幸せそうな生き方をしている様に見える。しかし想像している世間の気持ちとは裏腹に、本人にとっては後悔と未練が残る惨めな人生だった。

「シナモン・・・」

男はポケットからペンダントを取り出し蓋を開けた。そこには古めかしい一人の愛らしい女性がモノクロ写真に写っていた。男はその写真の女性を見ながら思い出に耽った。


「今日もお勉強さぼったでしょ。だめよしっかり覚えなきゃ」

専属家庭教師のシナモン・フレッドは出来の悪い俺の尻を叩いてくる。当時の二人はまだまだ若かった。

「また明日がんばるよ」

若い学生の俺は反抗期だった。

「明日、明日でもう一週間にもなるのよ。今やっておかないとダメでしょ。大人になってやろうと思っても時間が無かったり、やる気が出なかったりで後回しになっちゃうのよ。だから今しか出来ないものもあるのよ」

シナモンは正論をズバズバ言ってくる。

「今もやる気が出なかったらどうするんですかぁ」

その時の俺は素朴な疑問のつもりだった。

「寝ているやる気を私が叩き起こしてやるわ!」

シナモンは俺に向かってほたえてきた。

「わぁー、やめてくれよぉ」

恋などに興味のない俺は彼女の学問に対する好意と共に、俺に別の違った好意の感情があるという事に気付く事は出来なかった。


別の想いがフラッシュバックの様に脳裏に浮かぶ。

「私のこと本当に好き?」

これといった用事もない散歩中のデートの最中に、パトレシア・レーモンが聞いてきた。

「一緒にいて気は遣わないし別に嫌いではないよ。」

今から考えると彼女には悪い言い方をしていた。

「私達これからお付き合いするのよね?」

パトレシアは不思議そうな顔だ。

「仕方ないんじゃない。親がそう言うんだから」

その時の俺は自分の意志など無く言われるがままの精神状態だった。

「それで私達うまくいける?」

パトレシアは顔を近づけもう一度聞いて来る。

「知らないよ。うまくやっていけるようにすればいいんじゃない」

俺は彼女には気は遣っていないが、親には気を遣って顔色を窺っている。


“あなたの優柔不断な性格と決断力の無さが大勢の人を死なせたのよ!”


突然別の想いが頭に飛び込ぶ。パトレシアの激しく怒った顔が脳裏に広がった。炎に飲まれていく街並みと逃げ惑う人達。悲惨な光景が頭の中に広がっていく。

「この無残な状況が俺の所為なのか。パトレシア・・もう許してくれ」

私はリーダーでも英雄でもない。そんなものになりたくもない。ただ平凡な人生を送りたかっただけだ。時の運命のいたずらが俺をがんじがらめにしていった。あの時、パトレシアが言う様に自分の意思をしっかりと持っていたらこんな酷い目に合わなかったのかもしれない。しかし悔いのあるこの人生を逆で考えれば悲惨で過酷な運命を歩んで今の俺がいる。それが自分の望んでいない結果だとしても・・。

「シナモン、もうすぐ僕の求めていた人生が完成するよ」

男はそのペンダントの女性の写真を見つめ瞳から一筋の涙を流した。男のこれから向かう先は、しょう桃烏中等学校。そう、あの仲良し四人組が通う中学校だ。地域の文化交流と世界に発信させ注目を集めるという名目で、学校主催の学生全員がそれぞれの役を持ち舞台を完成させるという、言わば実験的試みである。

「これが最期だ。この哀れな人生を美化した舞台で終わりにしよう・・。待っていてくれ」

男はペンダントを両手で握りしめ顔を覆い止まらない涙で項垂れていった。


「よく此処まで頑張ったわ。よかったじゃない。いい奥さん貰って。これからも気を引き締めて頑張りなさいよ!」


シナモンは無理に笑顔を作り俺を送り出した。それが最期に見た姿だった。そのあと戦渦に巻き込まれ命を落としたという話を耳にした。しかしその時の俺は、親しき友人を亡くしたという、ぐっと悲しみを堪えるだけの感情だけしかなく今となっては彼女に対する思いが入り乱れ心の痛みが襲ってくる。


「隊長戦況は悪化しています」

「罪のない国民も巻き添いにしています」

「情勢は入り乱れて泥沼化です」


火の海と化した街並みの無残な光景がまた脳裏に出てきた。何人もの兵士達が俺に助けを求めて来る。俺はあの場でどう答えたら正解だったんだろう。


「もう放っておこう。逃げよう・・逃げよう」


その時の俺は臆病者だった・・。意気地なしだった・・。小心者だった・・。そうじゃない卑怯者だったんだ。

「もう準備は終わっている。シナモン・・もうすぐ君の処へ向かうよ・・」

男は意味深い言葉を呟き座席にもたれ目を瞑った。


「許せない・・。いつもあなたは勝手なのよ・・」


急に聞き覚えのあるパトレシアの憎悪に満ちた声が耳に飛び込んできた。男は驚き飛び上がったが辺りの乗客には何も変わった様子もない。

「当機はもうすぐ目的地上空です。着陸態勢に入りますのでシートベルトをお締め下さい」

そんな機内のアナウンスが流れるとき突然、照明が点滅して激しい揺れが襲って来た。

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