また一年が始まる・・ 第五章・今年も一年良い年でありますように
机を挟んで翠と由香と西園寺の三人と、綾乃と黒木先輩と市松人形の三人の組に分かれて向かい通しで座った。沙織はまだ一人で盆踊りを流暢に踊って周りをぐるぐる動き回っている。
「いつもの自分達の部屋だというのにこんなに整理整頓されて奇麗になったら、なんだか落ち着かないわね。ところで・・。お狐様の映写機が燃えないゴミに出したのは誰なのよ!」
綾乃がお狐様の棲み処の映写機を机の上にドンと置いた。
「幽霊も妖怪も本当はいないのよ!」
「UFOなんていうのも嘘っぱちよ!」
「超常現象なんてこの世にないわ!」
綾乃を無視して翠たちの口からオカルト研究会を根底から覆す発言が一杯出ている。
「だけど未確認生物は私はいると思うわ」
今度は西園寺の口からあり得ない発言が出た。綾乃は呆れてものも言えない。
「こうなったらお主ら自分の意見を出し合って討論すればよい!」
映写機が急に動き出しお狐様が現れた。
「童がお主らの言い分の成果を判定してやるぞ」
お狐様は審判役に回った。
「そうよねぇ~。自分のやりたい事の物事が、想像しただけで直ぐに次にはお膳立てされていて、それだけやっていればいいんだから楽よねぇ~」
自分中心で自己主張の強い翠が先頭切って言い出した。
「便利な時代よねぇ~、もっと言えば便利すぎる時代よねぇ~」
由香も気だるい声で被せて言ってきた。
「なに言ってんのよ!それは幻覚!ホログラムよ!実際の外は猛吹雪よ!」
綾乃が喚いた。
「綾乃~。あなただって、あのくだらないボードゲームにのめり込んでいたじゃない!」
翠が反発した。
「あの時は魂を何処かに持って行かれそうになってたけど・・。あれは・・、はまったら結構面白いのよ。頭脳戦の計算ゲームよぉ」
綾乃はゲームの内容を事細かく説明した。
「魂を持って行かれそうになったんじゃなくて持って行かれたんじゃないの!ゲームのそれって!そんなの一生貯蓄できる訳ないじゃん!100%の買い物をして1%しかポイントが貯まらないんだよ。それはいくらなんでも、やっても増えない仕組みだよ!」
ゲームの内容を理解した翠は目を丸くして驚いた。
「ゲームなら未だしも本当にそんな世界になったら、今の常識が非常識に覆って私はげんなりだわ・・」
西園寺が頭を抱えた。
「今の方こそ非常識よ!」
綾乃が膨れた。
「テーブルに用意された食事だけを食べていても、どうやって作っていいのか分からなければ自分で料理出来ないじゃない!それと同じよ!」
綾乃が自棄になって言ってきた。
「・・・・」
翠たちは理解できずポカーンとしている。
「私の例え分かりずらいですかぁ~。黒木先輩も何か言って下さいよぉ~」
綾乃は助けを求めてきた。
「話の討論が立ち往生しているみたいね。しょうがないわねぇ。そうね自分の好きな事や楽しい事に身を委ねるのもいいけど、最終的には私達には生まれてきた以上、何か目的がある筈なの。それを見失わずやりたい事を達成すべきよ」
黒木先輩は静かにきっぱりと年上らしい発言をした。
「そうよ!人間には興味と関心と探究心そして行動が必要よ!」
綾乃が拍車を掛けて言った。
「あと努力と向上心と未来への希望よ!」
黒木先輩が輪を掛けて言って来た。
「そしてもう一つロボットの頭じゃいくら考えても分からない言葉があったわ!それは“なぜ?”よ」
文学少女の綾乃が哲学的な事を言い出した。
「なぜ?・・・」
由香が気だるく面倒くさそうに言った。
「そう何故、人間は存在しているのか?何故、世界があるのか?何故、地球は浮かんでいるのか?何故、宇宙は広く続いているのか?ロボットのあなた達に解読できる?」
綾乃が小難しい事を言い出した。
「そういうあなたには答えがもう既にあるのでしょうね!」
西園寺が食って掛かった。
「決まっているでしょ!だけど教えてあげなぁ~い」
綾乃が舌を出した。
「おまえさん、本当に知っているのかい?」
市松人形が不安になって小声で綾乃の耳元に語り掛けた。
「そんなもの分からないわよ!」
綾乃も小声で市松人形の小さな耳元で言った。
「それが答えじゃ」
市松人形が驚いた様に言った。
「そんなの簡単じゃない!コンピューターに聞いてみて割り出して貰えばいいのよ。すぐに答えが見つかるわ」
翠がスカートのポケットから手帳サイズの通信機を取り出した。
「そこよ!便利だからといって何故、考えようとしないの!」
綾乃は立ち上がり大声を張り上げた。
「人間は元々アナログなんだから、数字で割り出そうなんてそう簡単にはいかないぞよ!」
人ではない市松人形が胸を張って堂々と言った・・。そのとき外で大きな爆発音が鳴り響いてアジト・・、お姫様の様な部屋になった部室の中まで届いた。
「何かしら大きな音がしたけど・・」
黒木先輩が落ち着き払って言った。
「うっううう」
翠たちがいきなり項垂れて机の上に倒れ込んだ。
「どうやらこんな白熱した討論はロボットの頭じゃ難しいようじゃのう」
市松人形が翠たちの頭を叩いている。
「勝敗は決まった様じゃな」
お狐様が判決を下した。
「あれ?私なにしてんの?」
ひとり踊っていた沙織が我に返った。
「浴衣姿じゃなくていつもの学生服になっている!」
拍子抜けした沙織の声に綾乃が振り向いて驚いた。
「幻覚が解かれた様ね」
黒木先輩が一言呟いた。
「あなた偽物でしょ!本物の沙織は何処なのよ!」
綾乃が沙織ロボットを問い詰めた。
「急に綾乃は何言ってんのよ!」
これはいつもの沙織である。
「じゃ、ロボットに入れ替わった訳じゃないの?」
綾乃の頭の中が混乱して市松人形の顔を見た。
「そういった間違いもありまんがな・・」
横から市松人形が照れくさそうに言った。
「あっ!そうそう!そう言えば年末に行った裏山の雪男から便りが届いていたわ。晴れて雪女と夫婦になれたそうよ。良かったわね!」
沙織が元気な笑顔で綾乃に向かってはしゃいで言った。
「西園寺さんもお気付きの様よ」
黒木先輩が先に目を覚ました西園寺を見た。
「あれぇ~・・、なんで私があなた達と一緒にいるのよ!あら、お部屋が見違えるほど奇麗になっているじゃない・・」
西園寺がアジト・・、お姫様の様な部屋を見渡し驚いた。これは幻覚ではなく本当に整理整頓して片付けられた証であろう。やれば出来る子たちである。
「此処は何処?」
「奇麗な部屋ね・・」
翠と由香もようやく目が覚めた。
「まぁ、これにて一件落着じゃ。それじゃぁ、みなさん今年も一年よろしくお願いしまそうぞ!」
お狐様がまとめに入った。
「こちらこそよろしくお願いしまーす!」
西園寺も混ざりその場の全員が大声援を上げて、年の初めからオカ研は和やかなムードに包まれた。
そのころ・・、爆発音のした建物から黒い煙が立ち上がっている。出火元は通信ネットワーク部の部室であるプレハブ小屋であった。
「今回の実験は成功したと言えるのでしょうか?」
まだ煙を噴き上げている黒く焼け焦げた物を見ている男子学生が言ってきた。
「あの蝉の鳴き声を真似た超音波の信号が作用して遺伝子に働き掛け、人をコントロールする今回の実験の事ですよね。フィリック教授・・」
横にいたもう一人の男子学生も聞いてきた。
「これはスーパーコンピュータの誤算が生み出した行き過ぎた暴走という事にしておきましょう・・」
そう言うとその教師は立ち去って行った。
その目の前には火花を上げながら黒煙を出している大きなスーパーコンピュータの残骸があった。
便利すぎる現代社会。スマートフォンに誘惑されたロボットの様な人間達・・。ポイントを貯めるというのが当たり前になった日常生活・・。今までの常識が非常識に覆った時代・・。現在、私達はそんな社会で暮らしている。そして次に私達を支配するのはコンピューターの電脳世界かもしれない。
※今回のウィキペディアで検索してみよう!※
●黒魔術
●ネッシー
●市松人形
●藁人形
●隠れ里
●マンドラゴラの花
●ホログラム
●雪男
●雪女
●第十話・また一年が始まる・・(全五幕)
●出演者
オカルト研究会メンバー
早乙女沙織、鷹塚翠、飾磨由香、栗須川綾乃
●ゲスト出演者
生徒会会長・西園寺公佳
新入部員・お狐様
黒木美紗先輩
市松人形
魔法使いのおばあさん
謎の男子学生
謎の男性教師
※この物語はオカルト研究会の四人組のドタバタコメディのフィクションであり実在の個人名、団体名、建物名、本のタイトルなど一切関係はございません。




