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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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また一年が始まる・・ 第二章・おかしな世界

外は時折の突風が吹くほど風も強くなり寒気団の所為か凍えるほどの寒さになってきた。そんななか綾乃は廊下を小走りで通って始業式が行われている筈の講堂へやってきた。しかしそこには誰もおらず薄暗い空間にガランとした冷たい空気だけが漂っていた。

「こんな時に限って光明寺先生もいないし・・なんで誰もいないのよ・・」 

綾乃は心細くため息を付いた。それでも諦める事なく廊下を走り次に教室に向かった。教室では何人かのクラスメイト達がいる事はいたのだが、死んだ魚のような眼をして何やらボードゲームに明け暮れている。

「先生は何処に行ちゃったのかしら?まるでお葬式だわ・・」

綾乃がそのただならぬ雰囲気で、それでいて空虚なムードに漂った光景を見た素直な思いだ。

「それで、皆なにやってんのぉ~」

綾乃は何気にゲームの様子を覗き込んだ。理解するのに時間が掛かったがそのボードゲームのルールは、自分の収入で日常生活に置いて買い物をしていき支出とポイントを貯め、またポイントを利用してどれだけ貯蓄が残るかといった結構リアルなお買い物ゲームだった。

「なんだかおもしろそうねぇ。私も参加していいかしら」

綾乃は憑り憑かれたかの様にそのゲームにのめり込み、皆と同じように死んだ魚の眼になっていった。


そのころ黒木先輩は市松人形と一緒に、綾乃と違い上品で気品な足取りで校庭を歩いていた。眺めれば片隅に大きな桜の木が満開で咲き誇り、その下ではご座を引き大勢の教師達と生徒達が酒を酌み交わし花見をしているではないか。

「桜の季節にしてはまだ早すぎるわね?ところでこんな所に桜の木なんてあったかしら?」

黒木先輩は今が何月か分からなくなっている。

「お酒は二十歳を過ぎてからですよぉ!」

市松人形は大声で怒っている。

「生徒だけじゃなく先生方にも何か起こったみたいね」

黒木先輩は人形に話しかけた。

「教師の大人達でさえ、いつもなら自分の事を棚に上げて若者の感性を理解しようとはしないくせに、今となったら同じ穴の狢となっておるではないか」

市松人形は自分も若者と思っている。

「しかし・・。私も花見というものを味わってみますか!」

市松人形は嬉しそうに語った。


そのころ翠たちは綾乃たちと入れ違いに、想定外なゲストを自分達のアジト・・部室に招き入れお喋りに花を咲かせていた。

「西園寺さん明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」

翠が言った事も無い“さん”付けに笑いながら如何にも嬉しそうに、生徒会会長の西園寺公佳に新年の挨拶をしている。ちなみに西園寺の今年の抱負はもちろん“オカ研打倒!”である。・・が、

「こちらこそ皆さん新年おめでとうございます」

何故か西園寺も微笑ましく挨拶を交わした。

「お呼び立てしたのに何時もの様に新年早々散らかっていてごめんなさいね」

由香が呪術道具で散らばった机を片付けながら気だるく言った。

「大丈夫よぉ。使い勝手慣れた部屋だもの。散らばっていて当然よ」

いつもの嫌味ったらしい西園寺ではない。

「潔癖症って聞いたんですけど本当に大丈夫ですか?」

沙織が気を遣って聞いてきた。

「いつもなら埃だらけのこんな部屋は、虫唾が走って居ても経ってもいられないけど・・。今日は大丈夫よぉ」

実際に潔癖症の西園寺が、たるんだ笑顔で言ってきた。まるで何が何だか分からない。

「それじゃ皆でかたずけましょう!年末は過ぎちゃったけど今から大掃除よ!」

翠が立ち上がって掃除道具を持ち出した。

「私もお手伝いするわ。やっぱりきちんと整理整頓しなくちゃね!」

いつもの西園寺らしかねる発言だ。

「だけど、いつも生徒会には迷惑ばかりかけて申し訳なく思っているわ・・」

翠がはたきで鬼のミイラの埃を払いながら、蕁麻疹が出るようなことを西園寺に話しかけた。

「そんな事ないわよ。あなた達の自由な活動の為だもの。どんどん経費を使ってちょうだい。生徒会はそんな活動方針に器が広いのよ!」

また、いつもの財布の紐を握る西園寺とは思えない発言だ。

「それじゃ今度、私達と一緒に行動しましょうよ!」

沙織がほうきでちびた山ほどの蝋燭を履きながら言ってきた。

「いいわね!本物の幽霊屋敷なんかに行くんでしょ!楽しそうだわ!」

西園寺の思考回路は、もはや麻痺している。

「では、新年一発目は外国の幽霊屋敷の探訪でいきますか!」

由香が雑巾で呪いの絵画を拭きながら気だるく答えた。

「いいわよぉ~。出張経費は生徒会に任せて!ところでこれはどうする?」

思考回路が壊れてしまった西園寺の手に古そびれた映写機があった。

「それっ!・・って何だたっけぇ~?まぁ要らないものだと思うから今から私が捨てに行って来る」

沙織の記憶も無くなっているようで、お狐様の棲み処である映写機を持って校舎裏手にあるゴミ捨て場に運んだ。

「わぁ~、寒いと思ったら雪が降り出して来たわぁ」

沙織が外に出ると凍てついた寒気が雨雲を呼び、凍えた雪を止め処となく降らしていた。また強まった風がその寒さをより一層募らせていた。

「あんな処に大勢で何してんのかしら?あれぇ~あれれれぇ~。珍しく黒木先輩もいるぅ~」

沙織の目に滑稽に映ったものは、何もない校庭の真ん中で教師生徒が入り乱れて宴会をしている様子だった。特に黒木先輩が持つ市松人形なんかは、顔を赤く火照らせて一番騒いでいる。

「こんな雪が吹雪いているなか訳分かんないけど・・。だけど皆楽しそうね。寒くないのかしら?」

沙織は映写機を持ったまま、その異様な光景を北風が吹き荒ぶなか凍えながら微笑ましく見ていた。

「みんなぁー!雪見でもしているのぉー!長くいると風邪ひくわよぉー!」

沙織は皆に届く限り有りたっけの大声で叫び掛けた。しかし、誰もが宴会で盛り上がり気が付かないのか何の返事も返っては来なかった。

「えっ!?なにっ?蝉の鳴き声!!」

突然、沙織の耳に季節外れの蝉の鳴き声が飛び込んできた。それは最初は小さく大人しいものだったが、次第に大きくそれが大合唱になり、真夏を思わす程うるさく鳴き響いた。

「なんてうるさいの!雪も降ってこんなに寒いのに、気分は開放的な夏だわぁ~」

体は寒いが気持ち的には夏休みになって浮かれている絶妙な状態で両手で耳をふさいでいた沙織だが、その喧しい鳴き声は脳内に浸透していった。そして、ゆっくりと沙織の意識は薄れていった。

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