若輩者の腕まくり!・第三幕・あの世の大運動会
此処は草木の生えない石ばかりの賽の河原。薄い靄が絶え間なく広がりその周辺では多くの子供達が無邪気に石を積み上げている。しかし、いけずな鬼達がせっかく積み上げた石の塔を思いっきり蹴散らかしていく。だけど子供達も負けずに元気にそして無我夢中で石を積み上げていく。そんな同じ繰り返しが無限に続いている。
「それで何で私達が石を積み上げているのよぉー!」
我慢の緒が切れた沙織が大声を上げた。
「それよりなぜ私達が此処にいるのよ!」
平たい石を積み上げながら翠がムスッとしている。
「こんな所だとは初めて見たわ」
由香も石を積み上げながら案外興味津々だ。
「沙織の石の塔が鬼に蹴り飛ばされているよー」
綾乃の石はバベルの塔の様に積み上がっている。
「そんな事より私達なにやってんのよ!」
鬼に蹴飛ばされた石を見て沙織が喚いた。
「僕の作った“幸福の薬”を飲んだからだよ」
気が付くと悪魔が大きな岩に腰かけている。
「あら悪魔様ぁ~ん」
翠の力尽きた目がハートマークにチェンジした。
「あんな所にいた!私達に何したのよー!」
沙織が崩れた石を拾いながら怒鳴った。
「ただ僕は君達の幸せを叶えてあげただけだよ」
悪魔が髪の毛を掻き分けポーズを決めた。
「いま私達のこの状況が幸せそうに見えるー?」
沙織は意固地になって石を積み上げている。
「私は意外と嬉しいけど・・」
由香が石を蹴り飛ばしに来た鬼の足を引っ張り扱かした。
「まさかもしかして間違えちゃった!?」
悪魔が焦った顔になった。
「もう遅いわよ!」
綾乃はエッフェル塔まで作り出している。
「まぁ僕に限らず悪魔って基本嘘つきだから騙されたら駄目よ。ところで君達の魂は此方で預かっているから安心して下さい」
悪魔はご丁重な口調で言った。
「そんなのまったく安心できないわよ!」
綾乃のどよめきに積み上げたエッフェル塔が振動で崩れた。
「そこでちょうど今日、地獄も運動会なんだ。優勝は君達の魂だから頑張ってみる?」
悪魔は審判の服装に着替えた。
「強制的ね!私達が勝たないと魂が取り返せないって事でしょ!他の亡者達に取られてたまるもんですか!」
沙織は、はけ口を言いながらも慣れた手付きでバランスよく石を積み上げていく。
「地獄行のパスポートは四人分用意してあるから余興だと思って参加したらどうだい」
悪魔は四人分のパスポートを見せた。
「はぁ~い、参加しまぁ~す」
何も考えずハートマークの翠が手を上げた。
「それじゃ決まりだね」
悪魔は翠にパスポートを手渡した。
「私達は何も言ってないわよ!仕方ないわね!競技は何なの」
綾乃が立ち上がった拍子にバベルの塔も崩壊した。
「それでは第一種目は水泳。この三途の川を向こう岸まで泳ぎきってもらいます」
悪魔は立ち上がり腕を上げ“三途の川”を指差した。四人はゆっくりとその方向に振り向いた。
「思ったより川幅が案外広いわね・・」
沙織の目が点になっている。
「見ただけで疲れてくるわ」
由香が溜息を出した。
「ピラニアも沢山生息しているから気を付けてね」
悪魔は恐ろしい注意事項を流すように言った。
「何でそんな事をさらっと言うのよ!」
綾乃は悪魔に石を放り投げた。岸辺ではもう既に翠がスクール水着で飛び込む構えで準備を整えている。
「何で翠だけはヤル気満々なのよ!」
翠の敏速な行動に沙織が頭を抱えた。
「それではよーいドンッ!」
悪魔は腕を伸ばしピストルを天に向け火薬を鳴らした。乾いた音が一面に響いたとき、何処からともなく魑魅魍魎達が走って来て川に飛び込んでゆく。
「もたもたしていたらあいつらに先を越されるわ!」
沙織は慌てて走り出した。気が付けば沙織だけでなく由香も綾乃も水着姿になっている。三人は前でもたもたしている亡者達を押し倒し川べりまで辿り着いた。
「冷てっー!」
最初に勢いよく飛び込んだ沙織が腹の底から叫んだ。
「三途の川って案外冷たいのよね。初めて知ったわ」
由香はゆっくりじわじわと入っている。
「トライアスロン並みの寒中水泳だわ。準備体操してからでなちゃ駄目よ」
綾乃は入る前に体の筋を伸ばしている。
「翠は早いわね。もう先頭よ」
差をつけて颯爽と泳ぐ翠の姿を由香が眺めた。
「感心してないで私達も泳ぐのよ」
沙織が歯をカタカタさせながら泳ぎ出した。
「それで三人ともなんで犬搔きなのよ」
沙織が平行に遅いスピードで泳ぐ二人を見て言った。
「泳ぎ方なんて知らないもん!」
綾乃は浮き輪まで付けている。
「足をピラニアが突いて来るんですけど」
由香が気だるくこそばそうな顔で言ってきた。
「足湯に浸かって小魚に突かれている様に思っとけばいいのよ」
沙織は必死に犬掻きをしている。
「きゃー!足が着かないわぁー!」
綾乃の浮き輪がピラニアに噛まれ空気が抜けて騒いでいる。
「見て見て!鮭が川を上っていくわ」
由香が生命の息吹きに感動している。
「そんな事よりどんどん亡者達に抜かれてゆくわー!」
飛沫を上げ犬搔きをする沙織の横を優雅に泳いで亡者達が抜いてゆく。
「ねっ!ねー!何だか流れが早くなってきていない!」
由香が流されている自分の体に気が付いた。川の流れは次第に早くなっていき終いには濁流となって物凄い強い力で押し流してきた。
「このさき滝があるから注意してね」
悪魔が大切な事を今ごろ言ってきた。
「大自然の驚異だわぁー!」
沙織たちはぐるぐると体を濁流に吞み込まれながら深く沈んでいった。




