若輩者の腕まくり!・第二幕・悪魔様と幸福の薬
外では恐ろしい程の嵐になり今にも体育館の建物ごと捥ぎ取られるかという様な最悪な事態も思わせる緊迫した状況のなか、アジトでは呑気な話に明け暮れていた。
「美顔の悪魔さん・・タイプだわぁ。だけど何だかずっと前に出会った気がするんだけど・・」
翠が頭の中の古い引き出しを開けようとしていた。
「デジャヴか、気の所為じゃないの・・」
綾乃が興味無さそうに言った。
「それは“CloverQueens”をチェックすれば何か分かるかもしれないわ」
沙織は目に見えない誰かに向かって言った。
「あと私達の“夏休み自由課題”っていうのもあるわね」
翠も割り込み一点を集中して言った。
「二人とも誰に向かってアピールしているのよ」
由香が冷めた態度で気だるく言った。
「君達かい?僕を呼んだのは」
合わせ鏡から出てきた悪魔は流暢に告知をしている四人に気遣いながら気障な口調で言ってきた。
「私達じゃありませーん!先生でーすっ!」
四人が一斉に机に張り付いたまま声を上げた。しかし何処を見渡しても光明寺先生の姿はなかった。
「また極度の人見知り病が発病したわね」
由香が開きっぱなしになっている扉を見て姿を眩ませたと察した。
「それじゃ、悪魔さんなら今のこの世界の終りの状況を魔力で何とかして下さい」
綾乃がせっかく魔界から来ていただいたお客様を気遣った。
「それは無理な話だね。分野が違うよ。いくら僕が優秀な悪魔だからといっても過信したら駄目だよ」
気取った悪魔は鼻に掛けた口調で言ってきた。
「役に立たない奴ぅ~」
沙織が顔をしかめた。
「だけど翠の目からはハートマークが飛び交っているわよ」
由香がうぬぼれた翠の顔の前で手を小刻みに振っている。既に翠の心は悪魔に奪われてしまった。
「ところで僕に何のご用だい?」
悪魔は前髪を掻き分け気障なポーズを決めている。
「えっーと・・なんだっけ!?」
綾乃は展開が早すぎて頭の中が混乱している。
「あれよ、私達の事を気遣って先生が言っていた・・あの人を呼んで“幸福の薬”を作るんでしょ」
由香は早い展開に慣れている。
「人じゃないでしょ!悪魔よ!それじゃ悪魔さん魔法でも使ってちゃちゃっとやちゃってください」
沙織が手っ取り早く悪魔に指図した。その間、翠はハートマークに溢れていた。
「あのねぇ先っきも言ったけど僕はスーパーマンじゃないよ」
悪魔は頭を抱え困った顔になった。
「えー魔法も魔力も使えないんですかぁー」
沙織が見下した言い方で言った。
「イメージきつ過ぎだね。それじゃ、むかし忍者が時代劇に出てくるみたいに派手な忍法使えると思う?高い塀を飛び越えられる?悪魔だって凄い魔力が使えると思っているけどみんな映画や勝手な想像力の影響で思い込んでるだけだよ」
悪魔は偏見で作られたイメージが嫌になっている。
「だけどよく言うじゃない。心の中に悪魔がいるとか。あと悪魔に取憑かれるとか。“悪魔大辞典”に載ってましたよ」
綾乃が文学知識で攻めてきた。
「心の中に悪魔がいるっていうのは比喩表現だよ。悪魔に取憑かれるのは悪霊の所為だよ。そんなまがい物な本を鵜呑みにしちゃ駄目よ」
悪魔は一つずつ質問を崩していった。
「悪魔と悪霊は違うんですかー」
沙織が当てつけに言ってきた。
「悪霊はこの世の者ではないでしょ。僕は生きてますよ」
悪魔は胸を張って言った。
「そういうあなたもこの世の者じゃないでしょ」
由香が気だるくぼそぼそと言った。
「ただ僕は君達と一緒、この世の生き物としてただ人間に生まれるか、悪魔に生まれるか、神!・・に生まれるかに過ぎないだけさ。だから僕も君達と同じ能力しかないのさ」
悪魔は人間が考えている様な超能力など持っていないと細々と伝えた。
「だからあなたはこの世の者じゃないでしょ」
由香がまた気だるくぼそぼそと言った。
「それじゃ“幸福の薬”は作れないんですかぁー」
沙織は悪魔をあくまで小馬鹿にしている。その間、翠はハートマークにのぼせていた。
「まぁ、それくらいだったら作れない事は無いよ。お茶の子さいさいさ!」
悪魔は先程の古いギャグといい今度は死語を持ち出した。
「お茶の子・・?」
綾乃は辞書を引いている。
さっそく悪魔はコックの服装に化けて目に入った床に散らかっている漢方薬を手に取りなにやら調合し始めると、ふつふつと湯だった鍋に入れ、そしてだんだんと美味しそうな香りが漂ってきた。
「お腹が鳴ってきたわね」
由香は沙織のお腹に耳をやった。
「ところで君達はどんな事に幸福を感じるんだい?」
悪魔は光明寺先生に代わり料理をしながら話しかけている。
「私は甘ぁ~いスィーツをたらふく食べたいわぁ」
綾乃は頭の中でイメージを膨らませた。
「一度おフランス料理を食べてみたいのよね」
由香は首にエプロンを巻いた。
「何でもいいからお腹一杯食べたいわ」
沙織の口からよだれが垂れている。
「私は悪魔様が食べたい」
翠の思考回路がショートした。
「みんな食べる事ばかりだね・・。そんな小さな事で幸福を感じるなんて幸せだねぇ~」
悪魔は下ごしらえの出来た食材をオーブンに入れた。
「これで待つこと10分間。それでこちらが既に出来上がった“幸福の薬”です」
悪魔はポケットから小さな茶色い小瓶を取り出した。
「なにかの料理番組ですか・・」
由香がぼそっと言った。
「すでに持っているじゃん!料理の意味ある!」
沙織が椅子の倒れる勢いで立ち上がった。
「ちょっとやってみたかっただけだよ」
悪魔は気障っぽく鼻で笑って言った。
「沙織。先に試しに飲んで見せなさいよ」
由香が先に立ち上がった沙織の背中を押した。
「何で私が毒見役なのよ!」
沙織は足裏に力を入れブレーキを掛けた。
「別に変な物は入ってないから安心しなさい」
悪魔は小瓶を沙織に投げて渡した。
「ヤモリの尻尾にカエルの干物に・・えーと、他には・・どっちにせよ変なもんばかりじゃないの!」
そう言いながら沙織は小瓶の蓋を開けた。
「あ、甘ぁ~い香りがするぅ~」
四人は充満する甘い匂いに満喫して翻弄された。
「どうだい香りからして魅惑的だろ」
悪魔は四人を見てほんのり笑みを浮かべている。
「それじゃ私から飲んでみるわ!」
「私が先よ!」
「最初から私だって決めていたもの!」
「毒見役で先に飲めって言っていたじゃん!」
四人は強欲丸出しである。
「もっと!もっと、いがみ合ってぇ~。争い合ってぇ~」
悪魔は四人のほたえ合いに喜んでオペラ調に快楽に浸っている。
「みんな一旦落ち着いて!それじゃ・・、仲良く一緒に飲みましょ」
部長の翠が空気を換えてみんなの掌に一粒ずつ渡していった。
「ちぇっ!くだらない」
悪魔は翠の平穏な提案に不貞腐れ足を組んだ。
「せーの!」
四人は同時に口の中に放り込んだ。




