若輩者の腕まくり!・第一幕・光明寺先生の手作り料理
お昼休み。アジト・・部室にて。早弁を既に食べ終えている四人は通常のお昼ご飯をも食べ終えて机に根が生えた様に張り付き項垂れていた。四人の憂鬱な気分を駆り立てているのは午後から始まる運動会の練習だった。
「今日も始まるわね雌鳥の蒸し焼きの時間が・・」
徒競走が苦手な飾磨由香がより一層気だるく言った。
「雌鳥って!・・なにっ!」
組体操が嫌いな鷹塚翠が回っていない頭で答えた。
「毎日、毎日、筋肉痛が続くわ!」
騎馬戦で体中が悲鳴を上げている早乙女沙織が悲鳴を上げた。
「パン食い競争の練習はいつ来るのかしら?」
やっぱり最後には食い気の栗須川綾乃が楽しみに待ち望んでいる。
「ここずうぅっーと!運動会の練習って嫌な時期だわ。これじゃ疲れた体で動くに動けないわ!」
翠の体は完全に机と張り付いている。
「運動神経ゼロの私達には過酷な毎日よね」
沙織も翠と同じく机と同化している。
「ところで西園寺はいいわねぇー。職権を利用して審査側に回ってテントの中で観覧しているのよ」
綾乃は背伸びして筋を伸ばしている。
“赤組、白組の勝敗を決めるのは生徒会長の私が審査委員長になって決めるのが当たり前でしょ!”
「そんなの絶対越権行為よ!」
翠の頭の中には西園寺の憎たらしい顔が思い浮かぶが体は動かず声だけが張り上げてしまう状態だ。
「それより不思議よねぇ。こんなに体が怠かったら研究題材の発想も思い付かないわね」
由香は体を動かすのもおっくうである。
「今のところ研究ネタも行き詰っているしねぇ」
綾乃は体中に湿布を貼っている。四人とも同時に溜息を出し気に病んだ顔をしている。
「どうしたの!みんな!!うだつの上がらない顔をして!」
気が付けばジャージ姿を人前に見せるのが嫌な顧問の光明寺春江先生が立っていた。
「光明寺先生~。お久しぶりですぅ~」
四人は青ざめた顔で挨拶した。
「みんな元気ないわねぇ。部屋中に負のオーラが充満しているわよ」
光明寺先生は手で蚊や蠅を払う様な仕草をした。
「だってぇー、あともうちょっとしたらまた運動会の練習なんですよぉ」
沙織がだらけた仕草で言った。
「運動会なんて年に一度の事なんだから体を筋から伸ばして筋肉付けなくちゃ!」
光明寺先生は何気に棚にある物を物色しながら話した。
「今までいつも体張って活動してますよぉ」
翠は机と完全に一体化してへばり付いている。
「まぁ仕方ないじゃない。頑張って体動かしましょう!」
光明寺先生はそう言って元気付けながら片手間に何やら小さな箱を触っている。
「あっ!先生!それ開けちゃダメッー-!」
光明寺先生のしている行為が四人の目に飛び込み叫んだが咄嗟に止めようとする体が全く動かない。
「えっ?」
光明寺先生は不意に箱の蓋を開けてしまった。
すると今まで雲一つなく青く晴れ上がっていた空が急に真っ暗になり風が吹き荒れ豪雨となり稲妻が走り捲り轟くような雷鳴が盛大に響き地響きが続いた。それは今いるアジト・・部室のある体育館倉庫も揺れ動き外の異常な状態を感じさせる。
「うわぁ外の物音が物凄いわー!」
沙織がガタガタと動く部屋を目だけ動かしながら言った。
「先生!それパンドラの匣よ!開けちゃダメでしょ!」
翠は言葉だけ勢いがいい。
「その棚は接触厳禁の触っちゃいけない物ばかりなの!」
綾乃は湿布だらけでミイラの様になっている。
「世界の終りの始まりよね」
由香は動かず気だるく言った。
「みんなごめんなさぁいぃー。まぁ・・だけどこれで午後からの運動会の練習は中止ね」
光明寺先生はポジティブ思考だ。
「しかしよくもまぁ、あんな複雑怪奇なパズルの様な蓋を意図も簡単に開けたわね」
翠が感心した。
「先生は此処にあまり来ないから物の配置が何処に在るのかわかってないのよねぇ」
沙織の座っている椅子が部屋の揺れでガタガタ動いている。
「自分の部室であって勝手が分からないわ」
光明寺先生は笑って舌を出しお茶目な顔をした。
「ところで久しぶりに何しに来たんですかー」
綾乃はさらっと失礼な事を聞いた。
「そうよ思い出したわ。運動会の練習ばかりであなた達がおっくうになっていると思って栄養抜群の手料理を作りに来たのよ!」
光明寺先生が妙にはしゃいだ。
「手料理?お料理出来ましたっけ?」
翠も無礼な問い掛けに疑惑の視線である。
「こう見えてもオカルト研究会顧問の端くれよ。海は生命の母と言う様に私があなた達のお母さん代わりよ!みんなに元気になってもらって幸せになってもらわなくちゃ!」
光明寺先生が余計に妙にはしゃいだ。
「例えがわかりづらいで~す。それでなに作ってくれるんですかぁ~」
由香は期待せずに気だるく答えた。
「栄養満点の“幸福の薬”よ!」
光明寺先生は自信満々に言い切った。
「幸福の薬!?」
四人は息を合わせた様に一斉に声を上げた。
「そうよ心の底から幸せな気分にしてあげるから」
光明寺先生は確信に迫った勢いで言った。
「レシピはもう既に頭のなかにあるのよぉ。だけど隠し味が見つからないのよね」
光明寺先生の頭のどこからそんな途方もない事が湧いて出るのだろう。
「わたし甘ぁ~いスィーツ味がいいわぁ」
沙織が机によだれを垂らしながら言った。
「なに言ってんの薬よ。水で流し込んだら味なんてないわよ」
綾乃が味気ない返答をした。
「危ない薬じゃないわよね」
翠はまだ疑惑が湧いている。
「口に入れた瞬間から幸福を感じさせるわぁ」
光明寺先生は何を持ってそんなに自信が持てるのだろうか。
「それで材料は何なんですかぁ」
由香がそれらしき紙袋を見て言った。
「吟味して漢方薬局で色々買って来たのよ」
光明寺先生がそれらしき紙袋から何かと取り出していった。
「ヤモリの尻尾でしょ。カエルの干物でしょ。ヘビの抜け殻でしょ・・」
光明寺先生が取り出すそれらは何とも異様なもの達ばかりだった。
「先生・・、ストレスで自棄買いしてませんか・・」
翠は心配になった。
「他にもサンショウウオの舌にカブトガニの粉末まであるのよ」
光明寺先生は満面の笑みで言った。
「あれは完全に精神的に参っているわ」
由香が冷静に診断した。
「だけどねぇ・・先に言った様にこれといった隠し味が見つからなかったのよねぇ・・」
よく見ると光明寺先生の目の下に大きな隈が広がっている。
「じゃ、楽しみにしてた先生の料理が作れないんですね」
綾乃は言葉とは裏腹にほっとした。
「そこで!今日はゲストとしてこんな料理の先生に来てもらいました」
そう言うと光明寺先生はどこからか等身大の鏡を二枚持ってきた。
「それをどのようになさるのですか・・」
沙織は既に予想は付いている。
「みなさんお分かりの様に“合わせ鏡”よ!」
またそう言うと光明寺先生はすぐさま勢いよく二つの鏡を交互に向けた。
「あっ!先生!それしちゃダメッー-!」
光明寺先生のしている行為が四人の目に飛び込み叫んだが止める気はさらさら無い。合わさった鏡は怪しげな白い煙を大量に吐き出しながらそこから一人の人物を呼び出した。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!みなさんごきげんよう」
古めかしいギャグを言いながら現れたのは角を生やした気取ったイケメンの悪魔だった。




