妖精を見た!・第三幕・一難去ってまた一難。
「どうやら迷い込んでどっちに行っていいのか分かんなくなっちゃったわ」
沙織は怪しげな霧に追われ皆とチリチリばらばらになって独り深い森の中を彷徨い歩いていた。
「むやみやたらに歩いても方向が分からないようじゃ体力と時間の無駄だわ・・」
沙織は方位磁石を手に取り見たが、今の状況からして磁石の針はぐるぐる回り効かなくなっていた。気力も疲れ大きな切り株を見つけ座り込み丸い形の水筒のお茶を飲み手足を伸ばした。
「蛍・・?」
沙織が休んでいると無数の青白い発行体が周りに集まって来た。ふわふわと浮遊するその光たちはまるでタンポポが風に乗ってゆっくりと空中を舞っている様な感じだった。その不思議な光景をぼんやりと眺めていた沙織だが突然、素早く獲物を捕らえるカメレオンの舌の様に瞬発的に一瞬の隙も無く手を伸ばしてその一つを掴み取り大きな虫かごに入れた。
「お土産にしましょう」
沙織の俊敏な動きは正しく獲物を狙った狩りの様である。その動きに反応したのか青白い光の群れは沙織の体に群がって来た。
「もしかして怒っている?」
そんな事を思っているとその光たちは沙織の体から離れ何やら誘っている様にも見える。どうやら道案内をしてくれる様だ。
「あたしを皆の所に連れてってくれるのね」
沙織はゆっくりと進むその光たちの後に付いて行った。
一方、特殊部隊の升池とマーティンの二人は一寸先も見えない濃い霧のなか特殊ゴーグルを使い途方に暮れながらまだ見えぬ抜け道を当ても無く探していた。
「今回の任務は俺達にとって本当に有意義な仕事なのか?」
マーティンが銃を構え周りを警戒しながら聞いてきた。
「私達にとってどれも無意味な仕事なんてないわ。今回は今まで以上に大変だけど何時もの様にやり遂げるだけよ」
升池も銃を構え周囲を伺っている。
「しかしこの部隊はほとんど見切り発車で、当てずっぽうで集められた様なメンバーじゃないか。ちゃんとした作戦も立てず、あんたもリーダーに仕立て上げられてこんな危ない現場に送り込まれ何とも思わないのか!」
マーティンは今の状況の不満を升池にぶつけた。
「あなたの性格からは無理かもしれないけれど、そんな直ぐに怒りの感情を出したら冷静な判断は出来ないわよ。私達は単に任務を遂行すればいいのよ」
升池は冷めた態度で返答した。
「俺はこんな所であんたと犬死するのは嫌だぜ」
マーティンは不機嫌に言った。
「もうこの部隊は私を合わせもう四人しかいないのよ。言い争いをする前に仲良くしていきましょ」
升池も皮肉っぽく言った。
「それは難しい問題だな」
マーティンも升池に向かって皮肉っぽく言った。その時・・。マーティンの胴体を力強く握る様な感触が彼を襲った。マーティンは声を出す間もなく物凄い勢いで引っ張られ引き摺られていきあっという間に姿を消した。
「マーティーン!!」
升池は慌ててマーティンが今までいたところまで駆け寄った。瞬間・・。升池もマーティンと同じように力強く掴まれ引っ張られて何処へともなく一瞬で消えていった。
真っ黒などちらが上か下かも分からない闇のなか聞き慣れたお喋りが続いていた。
「身動きも出来ないし私達これからどうなっちゃうのよ!」
由香の体中を何かに縛られたようにジタバタも出来ない。
「見ての通り私も動けないのよ!」
翠も体がびくとも動けない。
「そんなの真っ暗で見えないわよ。ところで何か聞こえてこない?」
綾乃の声だけが遠くの方から聞こえてきた。
「何も聞こえないわよ!ところで何で私達こんな所にいるのよ!」
ヒヤッとした空気が流れる湿気じみた真っ暗な空間の中から翠の声が響いた。
「あの怪しい濃い霧の中で何かに掴まれてぇ・・空を飛んでぇ・・そして気が付けば此処だったのよ」
由香が記憶を辿りながら気だるく言った。
「それは“霧の魔人”よ。何かの本に載ってあったわ。何処かの民話の登場人物で神隠しの主人公よ・・。ところでまだカサカサ聞こえるんですけど・・」
図書室命の綾乃は読んだ本の記憶を辿った。
「それじゃぁ私達いま神隠しにあっているの!それにしても何で動けないのよ!」
翠は気が動転してきた。
「そう言えば沙織の声が聞こえないわね。」
由香がお喋りに寄ってこない沙織の存在に気が付いた。
「沙織ー!いないのー!いたら返事して頂戴!」
翠が喚いた大きな声が暗闇の世界に反響した。それから少し待ったが沙織からの返答はなかった。
「返事が無いって事はいないか、まだ気絶中じゃないの?」
綾乃は気味の悪い音を警戒しながら言った。
「その声は君達か・・!大丈夫か・・」
真っ暗の暗がりから特殊部隊のフィリックの声が遠く聞こえてきた。
「あれぇー!特殊部隊さんも神隠し!」
翠が驚いて声を張り上げた。
「気を失っていて今気が付いたんだ。そしたら君達のお喋りが続いていて・・、話の隙間に入るきっかけがなかったんだ。だけど体が全然動かないんだ・・」
フィリックも同じような事を言っている。
「特殊部隊さんも“霧の魔人”に捕まっちゃったんですかぁー」
綾乃が呼びかける様に言ってきた。
「霧の魔人・・?何が何だか分からないが気が付けば此処にいたんだ・・」
フィリックも呼びかける様に答えた。
「しっー!綾乃の言っていた気味の悪い音が近くで聞こえ始めましたよー!」
由香の気だるい声も真っ暗な世界に響いた。
「私にはそんな音聞こえないわよ。それより私たち以外他にも誰かいるのかしら?」
翠の声が反響した。
「いるわよ!」
「いるよ!」
升池とマーティンの声が同時に暗闇に反響した。
「特殊部隊さんが勢揃いなんて頼もしいわ!体が動けばって話だけど・・」
翠が升池とマーティンの声のする方に向かって返事した。
「ご名答!全く体が何かに絡まった様に動かないわ」
升池がクイズの正解の様に答えた。
「君達のお喋り最中に先っき一緒に連れてこられたんだ」
マーティンの声も暗闇の中から聞こえてきた。
「お二人さんも“霧の魔人”に連れて来られたのね。ところでなにか嫌な音が聞こえませんか?」
綾乃が二人に聞いてみた。その時・・。
「うわぁー!」
フィリックの叫び声が暗闇中に響き渡り貫いた。
「何があったの!フィリック!」
升池がその悲鳴を打ち消すように叫んだ。
「いやっー!あの気色の悪い音が沢山聞こえるー!」
綾乃も黄色い声を上げた。
「なっ!なに!何が起こっているの!」
翠を含め皆が騒めいた。その瞬間眩いほどの光が暗闇の世界を打ち消した。暗闇が光に崩され隠れていた全ての答えの正体が姿を現した。
「みんな大丈夫!助けに来たわよ!」
光の中から特殊部隊のミミーの姿が現れた。
そこは大きな洞穴で四方八方、縦横無尽にこれまた大きな蜘蛛の巣が張り巡らされており、その巣に皆が捕まり粘着質の独特な蜘蛛の糸に体がくっ付き身動き出来ない状態にあった。
「きゃー!大きな蜘蛛!」
「嫌な音の正体はこいつらの歩く音だったのね!」
「フィリックさんが骨だけになっちゃっているー!」
翠たちの悲鳴が被さる様に飛び交っている。それとはお構いなしにミミーの構えたガンマ放熱銃が火を噴いた。巣に捕まった餌に襲い掛かろうとしていた寸前の巨大な蜘蛛たちは一網打尽となりその場から一目散に逃げていった。
「ありがとうミミー。たすかったわ」
身動きが取れる様になった升池が礼を言った。
「フィリックが残念です。私がもう少し早く来ていれば助かったかもしれないのに!」
変わり果てた姿になったフィリックにミミーが涙ぐんだ。
「それはあなたの所為じゃない・・。これが私達の選んだ仕事だから・・。他の隊員達もこのモンスターの餌食になったのでしょう・・」
升池はミミーを抱きしめ慰めた。
「ところでどうして私達の居所が分かったの?」
升池がふと疑問に思い聞いてみた。
「私達の体の中に埋め込まれてある発信機の電波を追って此処に辿り着いたんです」
ミミーは居場所を標している探知機を見せた。
「おかしいわね?この電波障害が起こるあの霧の中の状況で受信出来たかしら?」
升池はまだ疑っている。
「切り立った谷の隙間があり霧が引いていった時を見計らい、電波を探しながらようやく此処を見つけました。しかしもう少し早く着いていれば・・」
ミミーはまた涙ぐんだ。
「フィリックの事はもういいの・・。そうなの分かったわ・・」
升池はもう一度抱きしめた。
「そんなことより早くこんな蜘蛛の巣だらけの処からおさらばしようぜ!」
マーティンが後ろからうんざりした顔でやって来た。
「翠だけ蜘蛛の糸にがんじがらめにされて蓑虫の様にぶら下がっていたのね」
綾乃がそう言って由香と頭上を見上げた。
「それで蜘蛛の近寄って来る足音が聞こえなかったんだ」
由香も上を見上げ気だるく言った。
「そんな事より早く下ろしてー!」
翠はまだぶら下がったまま藻掻いていた。
その頃学校では大きな殺虫剤のボンベを背中に背負い、気味の悪い巨大昆虫と悪戦苦闘している風紀委員の“特殊部隊”の姿が此処でもあった。
「南棟は大丈夫でござるか!」
藪下がトランシーバーで時代劇口調で連絡を取った。
「南棟クリア!」
トランシーバーから鎮圧完了の連絡が返ってきた。
「こちら東棟も完了。隊長の方は大丈夫ですか?」
次にトランシーバーから連絡が入った。
「おとなしくお縄を頂戴しやがれ!」
藪下の戦いはまだ終わっていない。
「こちら北棟。隊長大変です。遠くから砂煙を立てて此方に物凄い勢いで向かって来る“何か”があります」
慌ただしい声が雑音と共にトランシーバーから流れてきた。
「召し取ったり!」
藪下は最後の一匹を倒した。
「蜘蛛です!巨大な蜘蛛が大群で向かってきています!」
「こちら南棟。同じく蜘蛛が凄い勢いで走ってきています!」
「東棟も同じ状況です!」
トランシーバーから引っ切り無しに慌ただしく連絡が入ってくる。
「此方も同じじゃ・・」
静かに藪下が言った。片手にトランシーバーを持った藪下の目にも砂煙のなか猛スピードで此方に向かう蜘蛛の大群の姿が映った。
「風紀委員全部隊に次ぐ!戦闘態勢!戦闘態勢に入れ!これは訓練ではない!もう一度繰り返す、これは訓練ではない!」
藪下はトランシーバーに向かい冷静に現代口調で通達した。




