吸血鬼を追え!・第五幕・吸血鬼と異世界の一夜
秋の近づいた風の無いまだ蒸し暑さが残る静かな夜。夜空には大きな満月がその明るい月明りを地面に照らし出している。しかしそんな風流な季節の変わり目も今の沙織には味わっている状況ではなかった。沙織はどっちに行っていいのか分からない暗がりの廊下を無我夢中で焦りながら足音を立てず、村人には気付かれず、絶対に見つからない様に小走りで進んだ。しばらくすると奥の離れ小屋から音程の外れた翠の鼻歌が聞こえてきた。
「早く上がって此処から直ぐに逃げるのよ!」
沙織が風呂場の扉を勢いよく思いっきり開けた。
「キャー!いきなり急に何よ!ビックリするわね!私はお肌の美容で長風呂なのよ!」
小さな樽風呂に浸かっていた翠は目を見開き驚いた。
「今日は烏の行水でいいから早く上がりなさい!このまま居たら私たち干乾びてミイラになっちゃうわ!美容もへったくれもなくなちゃうわよ!」
沙織は必死な顔になって翠の腕を持ち引っ張り出した。
「優しくしてくれたと思ったらそんな裏があったのね」
沙織からおおよその事情を聞いた翠はバスタオル一枚で沙織に引っ張られ、あてづっぽに音を出さず走り出した。
「早くしないと明日の朝どころか永久に此処から帰れないよー」
沙織が薄暗い廊下を記憶を辿って由香と綾乃のいる部屋に足早に向かっていると大きな悲鳴が近づいて来て大騒動になっていた。その聞き覚えのある悲鳴が間近まで来ると正面から出くわし際で由香と綾乃が勢いよく飛び出して来た。
「キャー!これって何なの!どうなっているのよ!」
「みんな吸血鬼よ!追い掛けて来るわ!」
翠と沙織にぶつかった由香と綾乃は頭の中が混乱して二人に喋るスピードが言葉と追い付いてこない。
「私もそれを知った時はチビッタわよ!」
沙織は盗み聞きをした時の状況を思い浮かべた。
「汚っいわね!これで分かったわ!この村は吸血鬼の住処よ。貧血になったクラスの皆は此処に迷い込んだのね」
翠はバスタオルを体に巻いたまま、髪も濡れたままである。
「迷ったんじゃなくて私達の様に誘い込まれたのかもしれないわ」
綾乃は“どうしようぉ~”って顔になっている。四人がその場で立ち往生していると村の者達がぞろぞろと家から出てきた。その中には四人を出迎えてくれた優しそうな顔をした村長が血に飢えた鬼の様な形相になり牙を剥き迫ってきた。
「うわぁー!出てきたわ!早くニンニクに、十字架!」
沙織はポケットを探った。四人はその村人達の異常な振る舞いに身の毛を逆立てた。
「みんな目が赤く光っている」
由香が震えながら言う様に村人全員が目を光らせ迫って来る。
「早く逃げましょう!」
翠が大きく掛け声を掛けたが四人とも体が動かない。腰が抜けたのか、先に食べた鍋に入っていた痺れ薬が効いてきたのか、金縛り状態である。村人が段々と四人に迫って来るなか晴れ上った夜空が急に雲が勢いよく立ち込め月明りに照らされて明るかった辺り一面は真っ黒になった。
「うわぁー!何も見えないわー!」
沙織は甲高い悲鳴を上げた。赤く光った村人の目だけが暗闇に浮かびそれが徐々に四人に迫って来た。四人の目がようやく暗闇に慣れてきたとき赤い目は間近に迫っていた。
「うわぁー噛まれるー」
由香は近づいて来る村人に叫んだ。
「私の血は美味しくないわよぉー」
翠はバスタオル姿で湯冷めしかけだ。
「ニンニクよ!離れなさい!」
綾乃がポケットに入っていた食材のニンニクを村人に向けたが効果は無かった。
「まったく効き目無いじゃん!誰が最初に吸血鬼はニンニクに弱いって言いだしたのよ!」
沙織は綾乃にしがみ付きながら言った。
村人達は牙を剝き四人に襲い掛かろうとしたその時・・。急に周りが物凄い光で明るく照らされた。それに驚いた四人と吸血鬼の村人達は空を見上げた。爆音と共に強烈なサーチライトを向けている大きなヘリコプターが上空でホバリングして留まっていた。その突然の光景に頭が付いていかず呆然としているとヘリコプターから勢いよくロープが投げ出され大勢の武装した者達が素早く降下して来た。
「確保ー!」
誰が大きく叫んだかは分からない号令が聞こえると何十人もの武装部隊があっという間に牙を剝く村人達を素早く一網打尽に取り押さえていった。周りはサーチライトの光でこうこうと眩しく照らされヘリコプターの爆音は止む事無く鳴り響き四人は訳の分からないまま立ちっぱなしでいる。次々と村人達が武装部隊に制圧されていくと武装したその中の一人の男が四人に向かってゆっくりと歩いて来た。
「怪しげなアマチュア無線の電波をキャッチして来てみればこうだ!あれ?君達どこかで会った事ないかい?」
そのリーダーらしき武装した男は四人の前で独りでに喋り出した。四人は魂が抜けた様に唖然と立っていたが、湯冷めで完全に体の冷え切った翠がようやく口を開いた。
「どちら様でしょうか?」
全員その一言が精一杯だった。
「人が出来ない揉め事を鎮圧する、言うところの一種の特殊部隊かな」
男は装備したゴーグルとマスクを外しながら言った。
「あっ!いつぞやの先生!」
翠の朧げな記憶が脳裏を過ぎった。
「結局この村の人達は何なんですか?」
由香はまだ放心状態だ。
「この連中は以前此処に辿り着いた時に住み着いた言わば宇宙の吸血鬼さ」
男は耳を疑う事をすらすらと言った。
「吸血鬼という事は私達は食料になるんですか?」
翠のポカンと開いた口からよだれが垂れた。
「君達もそうだがお肉など皆が命を食べているだろう。つまり同じ事さ」
男が言う様に食物連鎖である。
「あとそれじゃあの地面から出てきた怪物も宇宙人ですか?」
沙織が虚ろな目で聞きなおした。
「それは初耳だなぁ、こっちも忙しくてデータが集まっていないんだ。もしかして宇宙人のペット?かな」
男はまた理解できない事をすらすらと言った。
「分からない事もあるんですね。では宇宙人のペットの捕獲を私達の次の活動とします」
翠は体の力が入らないまま遠くを見つめている。
「もし成功したなら直ぐに我々に知らせてくれ!」
男は四人に力強いガッツポーズを作ってみせた。
「此処は異世界なのにどうして来れたんですか?」
綾乃は焦点の合わない目で言った。
「質問攻めだなぁ。それはトップシークレット」
男は人差し指を口に当てて内緒のポーズを送った。
「さぁ君達は今まで悪い夢を見ていたと思ってもう一度眠りなさい。明日には清々しい朝を迎えられるよ」
そんな男の言葉が遠くで聞こえたような気がした。四人は薄れゆく意識の中でゆっくりと気を失っていった。眠りの浅い由香がゆっくりと目を覚ました。夜はまだ明けておらずそこは長い時間を掛けて四人一緒で組み立てた二階建てテントの中だった。
「私どうして此処にいるのかしら?」
由香は目を擦りながら周りを見渡した。そこにはすやすや眠る綾乃とぐっすり眠る 翠にいびきをかきながら寝言を言っている沙織の姿が川の字で横になっていた。そのとき目覚まし時計のベルがけたたましく鳴り時間を見ると朝の五時半を指していた。
「何をしに皆で此処に来たのかしら?」
由香が頭を悩ませていると目覚ましのベルで飛び起きた翠が寝ぼけ眼のまま、まだ寝ている二人を叩き起こした。
「早く起きるのよ!世紀の瞬間が来たわ!」
翠がまだ爆睡中の二人を振り起す最中ようやく由香は此処に来た目的を思い出した。
「そうだ埋蔵金だわ」
由香の頭の中は何か引っかかていた物が取れた様にすっきりした。
「さぁ行くわよ!東の彼方から日が登る時が勝負よ!」
翠は颯爽とパジャマのまま先陣を切ってテントから出た瞬間、そこは昨日の立ち込めた雲が分厚い雨雲となり大粒の雨が激しく地面を叩きつけていた。それは四人にとって、決して特殊部隊の男が言ったような清々しい朝にはならなかった。
「最悪ね」
沙織が寝ぐせを付けたまま、ぼそっと言った。四人は降り止まぬ激しい雨を前に立ち尽くしていた。
「やっぱり歴代の先輩たちも苦戦した問題だもの、私達には到底無理な話だったのよ」
由香が力の抜けた気だるい口調で言った。
「私は諦めないわよ!全部の暗号を解いて今一度、此処に挑んでやるわ!」
翠は降り止まぬ雨を見上げ大声で言った。
「何はともあれまた楽しみが増えたじゃない。」
綾乃がポジティブに皆を励ました。
「何れオカルト研究会が学校一のお金持ちになって西園寺をギャフンと言わせてやるわ」
翠は固い握り拳を作った。
「それにしてもやっぱり“バイオス”ってどういう意味だったんでしょう?」
綾乃はずっとそれが頭の中で引っ掛かっていた。
「これは何か次回に続きそうな予感ね・・」
沙織が誰に言う訳でも無く一点を集中して意味深に呟いた。
※今回のウィキペディアで検索してみよう!※
●吸血鬼
●チュパカブラ
●埋蔵金
●大判小判
●ケサランパサラン
●異世界
●第五話・吸血鬼を追え!(全五幕)
●出演者
オカルト研究会メンバー
早乙女沙織、鷹塚翠、飾磨由香、栗須川綾乃
●ゲスト出演者
吸血鬼の村人たち
武装部隊
執事の琴原
生徒会会長・西園寺公佳
※この物語はオカルト研究会の四人組のドタバタコメディのフィクションであり実在の個人名、団体名、建物名、本のタイトルなど一切関係はございません。




