吸血鬼を追え!・第四幕・見知らぬ村の住人たち
夜空には大きな満月が浮かび地面は揺らぐ事無く、周りは先程とは打って変わって物音一つもない静寂という言葉がよく似合う静かな場所になっていた。いつの間にか一緒に逃げてきた蛍達も何処かに消え四人はその村を目指し麓に向かって岩肌を慎重に降りて行った。
「もしかしてあの村が突然消えた村?」
綾乃が村を見下ろした。
「まさか!?だとしたら私達異世界に来たって事になるわよ」
由香は足元を見ながら慎重に降りている。
「たぶんそうよ逃げてきた洞窟が鍾乳洞じゃなかったもん。温泉もあったのにぃ~。お風呂入ってさっぱりしたいわ」
翠は汗と泥に塗れている。
「そんな事より先にお腹が空いたわー!」
沙織のお腹が鳴った。四人はそもそも突然の大騒動で夕食を食べ損ねてお腹がペコペコだ。ようやく緩やかな斜面になり降り立つと村の入り口付近までへとへとで辿り着いた。そこには夕食時なのかおいしそうな匂いが全体に立ち込めていた。その匂いに四人のお腹が一斉に大きく唸りを上げた。
「異世界でも何でもいいわぁ~!もう我慢できない。たすけてぇ~」
沙織を先頭に前を歩いていた一人の村人に四人は駆け寄り野垂れ倒れて行った。
「それで山道を迷いなさってこの村に辿り着いたという事ですか・・」
四人は前に座るその初老の男性の話も六すっぽ聞かずに囲炉裏で炊かれている鍋を既に夢中でガッツいている。
「あなた方の様に他にも道に迷ってこの村に助けを求めて来る旅人も多くおられる。さぁ遠慮なされず沢山お食べなされ・・」
四人は鍋を突く手が今だ止まらなく、その初老の男性の配慮にも関わらず最初から遠慮などしてはいない。
「お客人・・もし良ければ御かわりもあるがいいかな・・」
四人が食べ荒らした鍋は殆ど底を尽きてきた。初老の男性の方が気を遣っている。
「ご馳走様でした。一時はどうなるかと思いましたが生き返りました。どうやら何時の間にか異世界に迷い込んだみたいで・・」
落ち着きを取り戻し箸を置いた沙織が熱いお茶を飲みながらようやく言った。
「しっ!」
翠が沙織の腕を引っ張り寄せ耳元で小声で言った。
「私達にとっては異世界かも知れないけどこの人達には本当の世界なんだから余計な事言って混乱させないの!」
さすがオカルト研究会部長の意見である。
「異世界・・?ところ体中泥塗れでどうなされたのか知らぬが風呂が沸いておるのでのぉ、入りなされ。樽風呂で一人ずつしか入れんが」
その初老の男性は四人の哀れな姿を見て風呂に浸かり疲れを癒すように勧めた。
「嬉しーっ!ありがとうございます!早速いただきます」
一番どろ泥だらけの翠が歓喜に沸いた。
「お腹の方はもうご満足かな」
その初老の男性は奇麗に空っぽになった鍋を見て四人に話しかけた。
「ありがとうございます!お腹一杯になりました!」
四人は一斉に元気に返事した。
「外も真っ暗でもう遅い時間じゃ今日は此処に泊まって行かれい。寝床も風呂の準備も済ませておる。朝になってから出発するがよい」
その初老の男性はこの村の村長らしく今いる屋敷の奥座敷に四人を案内して招き入れた。座敷牢に入るや否や四人は畳の上に引かれた布団に倒れ込み思いっきり背伸びをした。
「もうお腹一杯よー」
沙織は膨れたお腹をパンパン叩いた。
「体がクタクタよー」
由香は筋肉痛の腕や脚を揉んでいる。
「でもほんとに此処に辿り着いてよかったわ」
綾乃は大きくあくびをした。
「私は先にお風呂に入って来るわ」
大の字になっていた翠は立ち上がりタオルを手にした。
「先に一人だけズルい!」
沙織は膨らんだお腹の腹筋で起き上がった。
「いいでしょ!それに一人用なんだから仕方ないじゃない」
翠はそそくさと出て行った。
「今晩はいいとして明日の朝には元の世界に戻れるのかしら」
綾乃は天井を見上げたまま聞いてきた。
「来た道を帰れば何とかなるでしょ」
沙織は能天気に背伸びをしている。
「まだあの怪物が居たらどうしよう」
由香はまだ体中を揉んでいる。
「テントを張っていたあの場所はどうなっているでしょう?明日迎えに来てくれる琴原も心配だわぁ」
綾乃は寝返りを打った。
「ほんと埋蔵金どころの話じゃなくなっているわね」
沙織は腕を伸ばし軽く運動をしている。
「どちらにしても朝になってからの話よ。異世界だろうが、せっかく村の人が私達の為に部屋を用意してくれたんだから今夜はゆっくり休みましょう」
由香は大きくあくびをした。それにつられ綾乃も眠気が差してきた。
「二人共もう寝ちゃうの。そうよね明日になれば明日の風が吹くって言うし。それじゃ私も寝る前にお手洗い行ってくるわ」
沙織は二人の寝顔を見て立ち上がった。障子の戸を引き薄暗く長い廊下を躓かないように慎重にゆっくりと音を立てず何処に在るか分からない手洗い場に向かって歩いていった。少し行くと障子越しにほんのりと小さな明かりの点いた部屋からこんな話声が聞こえてきた。
「今夜はご馳走だな」
「いろんな味の血が楽しめる」
「まだ若い体だから血も新鮮だろうな」
「もうすぐ料理に入れた痺れ薬が効いてくる筈だ」
「たのしみだ腹一杯に血が吸えるぞ」
部屋の中で何人かで談を取って喋っている怪しげな会話は、どう考えてもまともな内容ではなかった。それを何気に盗み聞きをした沙織は血の気が引いた。体中に走る震えをぐっと堪えて今さっき以上に音を立てず息を潜めその場から慎重に離れた。




