吸血鬼を追え!・第三幕・晩御飯時の座談会
夕暮れ時になり烏も鳴きながら山に帰る頃、四人は二階建てのテントの前でバーベキューセットの道具を取り出し夕食の準備を進めていた。
「あの暗号の出だしは日の出を差して入ると思うの。そしてその日差しの指す場所にお宝が眠っていると思うの。だけど多分此処までは大方先代の私達の大先輩方々が推測して解明していると思うの」
綾乃は食器を運びながら何とも断言できない。
「“思うの”ばっかりね。何れにせよ明日の日の出を待つしかないみたいね」
翠は由香と一緒に机を組み立てながら東の方向を確かめた。
「埋蔵金の場所が分かったらそれからどうするの?」
沙織は椅子を組み立てている。
「当然掘るのよ。大きなスコップ全員分用意しているから」
翠は用意周到だ。
「人力作業!?それで翠の大きな荷物が二つもあったのね」
由香は机の脚を広げたのと同じくらい目も大きく広がった。
「そして大判小判の財宝が出てきたら大半は私達の物だけど、いつもお世話になっている理科研究部にも少し分けてあげましょう。また私達の活動に役に立つ道具を開発してくれますように!」
翠も同じく机の脚を広げた。
「それじゃ妙子の園芸部にも寄付して欲しいわ!」
沙織は四人分の椅子を組み終わった。
「小佐井先輩のデジタル写真部にも絶対よ!」
由香も必至である。
「皆ちょっと待ってよ、まだ見つかってもいないんだから。あと図書室も忘れないで欲しいわ!」
コンロを組み立てている綾乃が大きな声で言ってきた。
「だけど今から考えればこれを翠が見つけた場所が棚の一番上の、しかも奥にある隠し戸の中に放り込まれてたんでしょ。今までの先輩方々も暗号解読を諦めて、代々年を追うたび後輩達にも投げ出されて、最終そこに仕舞い込まれて忘れ去られたんじゃない・・」
由香が気だるい声で確信を付いてきた。
「もしかしてそれもちょっとあり得るけど、どちらにせよ最後の希望として埋蔵金発掘の望みは私達に繋がれ託されたのよ。やってやるじゃない!」
翠の目に炎が燃えた。
「もう由香の撮った壁画の写真はハム無線で送ってくれた?せーの、よいしょ!」
翠は由香と声を合わせ机を立てた。
「今や便利な時代よねぇ。その場で転送出来ちゃうんだから。後は帰ってスーパーコンピューターの分析を見るだけね!せーの、よいしょ!」
由香は翠と一緒にテーブルクロスを広げた。
「あと暗号の詩が唄になっている所よね。何かの儀式なのかしら」
綾乃は机にお皿を並べた。
「それじゃそれも試してみましょ。いつものマントも用意しているわ」
翠は万全の備えだ。
「それで吸血鬼は出てこないの?」
沙織は椅子を運びながら綾乃に聞いた。
「そう言えば・・この土地の郷土文化の歴史では山に住む妖怪の仕業にされていたの。大昔の人は妖怪や神は人と共に目に見えない隣人という感じで一緒に暮らしていると考えられていたの。おばぁちゃんがトイレの神様とか言うじゃない、それと一緒。同じ世界に居て互いに合い塗れず共存関係が保たれていた良き時代の話よ」
綾乃の話に三人の手が止まった。
「やっぱし居たんだ。そういえば河童とか鬼の手のミイラとか出てきてるよね」
由香は四人分の布巾を並べ出した。綾乃は話を続けた。
「だけどそのミイラのほとんどは大昔に人によって作られた工芸品だけどね・・。それで話を戻すと記述には“この山道には人に危害を与える恐れあり”と書いてある所から見てその昔吸血鬼の妖怪が居てもおかしくないわ。・・だけど今になってみれば妖怪の所為にされていた何かしらの迷信も大半登山病が関係していると思うんだけど・・、そんな標高も高くない山でひとクラス全員が貧血になるというのも無理がある話よね・・」
綾乃は頭を悩ませながら飲み物を机の真ん中に置いた。
「忽然と消えた村はどうだった?」
翠はコンロに木炭を入れた。
「それも原因不明なんだけど、此処の畑や田んぼの土壌は栄養が良く健康的で作物も豊富に穫れていたの。裕福で何不自由も無い暮らしだったに違いないけど・・。とにかく何にせよ古い話で・・。あと、また別に面白い古い新聞記事を見つけたの。“大きく光る物体山の中腹に落ちる”という見出しで場所もこの付近になってて、もしかしたらUFOじゃないかって後世の噂話になっているわ」
綾乃は食器を配べながらコピーした古い新聞記事を広げた。
「聞いた事あるわ。その墜落したUFOを特殊部隊が回収したと言う都市伝説ね」
沙織は翠と一緒にコンロの炭に火を入れている。
「映画に出て来る様な話ね」
鵜呑みに出来ない由香は食材の入ったクーラーボックスを担いで来た。
「それじゃ食事の前に提案の儀式とやらを始めますかぁ」
翠が炭に息を吹きかけ火を起こした。
山の日が暮れるのは早く今まで明るかったと思えば見る見るうちに日が落ちて行き瞬く間に薄暗くなっていった。
「キャンプファイヤーよっ!」
沙織が焚火を起こした。四人は儀式用の黒いマントを羽織り焚火の炎の周りを囲んだ。
♪暗明の間の日出でたる~宝物の在処に~悪魔の抵抗は眩しく~赤に染まる朝焼け~♪
四人は合わせ難い詩に音程を付けバラバラにリズムを刻み焚火を囲み円を描き踊り出した。数十分後・・。
「やっぱり、さっぱり何も起こらないわね」
翠がじんわり汗を搔いている。
「そんな事ないわ、見て蛍よ!」
綾乃が指差した方向には多くの蛍が飛び交っていた。
「なんて奇麗なのかしら」
四人が蛍に見惚れて居ると、するとどうでしょう空からはゆっくりと白い結晶が降って来たではあ~りませんか。それに四人は大はしゃぎになった。
「待ってこれってもしかして雪!嘘!いま夏でしょ!」
由香の気だるい声が大きくなった。
「ケサランパサラン?ほんとに雪!?季節がずれてるぅ~。だけど寒くも何ともないわ」
翠が言う様に体に纏わり付く湿気と生暖かい風だけが吹いていた。
「そうよねぇ舞い散る雪の結晶が解けていく。こりゃ本物の雪だわ」
沙織は着ている黒いマントに積もり消えてゆく綿帽子の様な大粒の雪を見ている。その雪は止む事無く量を増しながら降り続いてきた。
♪雪やコンコン、霰やコンコン~♪
四人は唄を変え季節感の無い突然の雪というサプライズで、投げ合ったり、掛けやったり、雪だるまを作ったりで、はしゃぐ犬の様に蛍が飛びかっている野原を駆け巡っている。しかし地面に多く雪が積もって夢中になり気付いてはいないのか四人のその足元からは何か大きく蠢く物があった。
「ちょっと待って!何だか私達の足元グラ付いてない?」
綾乃がようやくその異変に気付いた。そのとき大きな振動を上げて地面が大きく揺らぎ始め至る所が盛り上がり始めた。
「何これっー!」
四人全員が声を挙げた。その大きく盛り上がった大地の裂け目から突如、無数の巨大な触手の様な生き物が勢いよく飛び出して来て空を目掛け立ち昇った。
「私達の晩御飯がー!」
沙織がせっかく用意したバーベキューが巨大な触手によって散乱する音と共に勢いよく放り出された光景を目の当たりに絶望した。
「私達の今夜の寝床がー!」
翠は時間を掛け苦労して作った二階建てのテントをけたたましくゆっくりと崩されていく様子を見て放心状態になった。
「逃げるのよ!早く此処から離れるのよ!」
冷静になった綾乃と由香は無数の触手をかわして二人の手を引っ張り、地割れを起こし大きく揺れる地面をふら付きながら鍾乳洞の洞窟を目指し一目散に走った。その後を蛍の大群も追いかけて来て一緒に付いて来る。
「こんな事になれば蛍もビックリして逃げるわよ!」
一番後方にいた沙織が振り向き様に言った。四人は激しく動く大地に足を取られながらようやく洞窟を見つけ中に駆け込んだ。しかしそこは外見は先に来た鍾乳洞だったが入ると抜け穴の様になっており直ぐに反対側の外に出た。そこは切り立った岩肌となっており下を眺めると麓がありそこには小さな村が広がっていた。
「楽しみにしていた温泉は何処に行ったのよ!」
沙織が喚いた。




