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オカ研の旗の下(もと)  作者: 淡太郎
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地図にない駅・第三幕・ある夏の日の恋物語

乾いた潮風が翠の目を覚ましてくれた。目が覚めると猛烈に潮の匂いがする海岸でどうやら波に打ち付けられながら眠っていた様だ。頬に付いた乾いた砂のさらさらとした感触がする。そこは静かで雲一つない青空で波の音しか聞こえない。夏の日差しも和らいだ何とも気持ちの良い気候でもう少し寝そべってこのままでいたい気分になっていた。

「私ここで何してんのかしら?そんな事よりなんて気持ちがいいのぉ~」

翠はもう一度目を瞑りそのまま横になったままその心地よさを体で実感していた。

「翠ーっ!何やってんのよーっ!もう行く時間でしょーっ!」

翠の耳に遠くの方から沙織の大声が聞こえてくる。

「何よ!うるさいわねぇ」

翠は目を瞑ったまま寝言の様に言った。

「私達はいま、お二人さんの駆け落ちのお手伝いしてんのよー!」

沙織の言葉に翠はハッと思い出し大きく目を開けた。すると目の前には大きなイカがその横に翠と一緒に添い寝をしていた。

「く・・くぅ・・クラーケン・・!」

翠の目はより一層大きくなり開いた口が閉じなくなっている。

「そんなイカほっといて早く行くわよぉー!私なんか凄いわよ!シーサーペント捕獲したんだから」

沙織がしつこく大声で言ってきた。

翠はその大きなイカと目を逸らさず体を震わせながらゆっくり起き上がり、そして沙織に向かって思いっきりダッシュした。その時、イカの長い足が伸び翠の足を掴もうとしたが、それ以上に翠は世界記録を出すほどの全速力で振り切った。海岸沿いでは沙織と青年、彼女が立っていた。見渡すとそこは見覚えのある海岸。岸壁には漁に出る舟が何艘か並び海岸伝いに小さな漁村が広がっていた。

「さぁ皆であの白い駅に向かうわよ!」

沙織が先頭に立ち歩き出した。四人は潮風を全身で受け止めながら真夏には珍しく心地よく暖かい日差しに満喫しながら歩いていた。

「えーっと・・どっちだったけ?」

少し歩いていると沙織が居ても立っても居られず口に出した。あとに続く他の三人は気持ちの良い潮風が吹くなか、その気候に満足している今を充分味わっていたいがため、無言で沙織の行く後に付いて行くだけだった。

「考えてみりゃ私、土地勘がぜんぜん無いんですけど・・」

沙織がいま当たり前の事に気が付いた。すると突然、野球帽を被った半袖、半ズボン姿の少年が横付けしている舟から飛び出して来て四人の前に現れた。

「坊やこの辺に真っ白な駅を知らないかい?」

青年が少年の頭を撫でながら聞いた。少年は黙ったまま一点の方向を指差した。四人は少年の指差す方向に目をやると遠くに蜃気楼の様に浮かんだ踏切が見えた。

「ありがとう坊や」

青年はもう一度少年に振り返り礼を言おうとしたが、そこにはもう少年の姿は無かった。

「逃げ足の速い子供ね!」

沙織を含め全員で辺りを見たが見つける事が出来なかった。

「あの子・・随分むかしに何処かで見たような顔だったな・・」

青年の頭にはそんな事が過った。


そのころ由香と綾乃は預かった家宝を手に村長の家にいた。広い仏間に神棚がありその横に水の張った小さな金魚鉢が備え置いていた。

「この中に入れるのね」

綾乃がポケットから家宝の淡いピンク色の小さな法螺貝を取り出しチャポンと沈めた。

「これでよしっ!・・で解決するの?」

由香が不思議に思い聞いて来た。

「そんなの私にも解らないわよ。家の中には誰も居ないようだから今のうちに少し至る所を探ってみましょう」

そう言って綾乃が和室造りの障子を開けていき至る部屋を二人で見て行った。

「なに!この荒れ様」

綾乃がその内一つの部屋を見て目を丸くした。そこは大きな部屋で大勢の人が集まって何らかの宴会が行われていたのか部屋中に食べ物や飲み物が散乱していた。

「見事に食べ散らかしているわね」

由香がお見事!と思うほど感心していた。

「何かの祝い事があったのかしら。人魚がお膳に出ているわ」

綾乃が食卓を観察した。

「人魚!!普通お祝いの時は鯛じゃない!?人魚って食べられるの!・・って言うかそもそも居たの!」

由香が綾乃からすらすらと出た言葉に息を吞んだ。

「書物によると世界中に人魚伝説は沢山あるわ。そんだけあったらお祝い事には常識の魚でしょ!」

図書係で文学少女の綾乃の学問の知識は負けず劣らずである。

「人魚って魚なの!!」

由香の驚きは半端無い。

「やっぱり魚の一種でしょ。多分私の推測だとあの駆け落ちしようとしている二人の仲互いの親を村人達が挙って説得して納得したのでしょうね。それで内祝いに人魚を酒の宛てに宴会に突入した様ね」

名探偵綾乃が推理した。

「それで何で村人全員ゾンビになっちゃったのよ?」

由香はその推理に理解できない。

「これも“世界の人魚伝説”って本に書いてあったんだけど人魚の肉にはフグの様に毒性があるのよ。だから何らかの物質が体に影響を与え食べた人をゾンビの様にしちゃったんじゃない」

名探偵綾乃が結論を出した。

「そしたら村人のゾンビは本物じゃないのね!」

由香は安心した顔になった。

「これも私の勘なんだけど一過性のものと思うわ。いま体中に毒が回っているからそれが体内から出て行けば元の姿に戻ると思うの」

次回の名探偵綾乃に乞うご期待。

「それじゃ皆揃って早くトイレに駆け込めって事ね!」

由香が楽しそうに言った。

「発想が汚いわね!それより早くあの二人を止めなきゃ!駆け落ちする意味が無くなったんだもの」

綾乃が慌てて言った。

「そうよね!私達も早く駅に向かいましょ!」

由香も一緒になって家を飛び出した。


翠と沙織、青年と彼女の四人は白い駅に向かうため長く続く細い砂利道を歩いていた。その横手には先程の海岸が果てしなく続いている。カモメが鳴く声が甲高く聞こえて見ると波打ち際まで降り立とうとしている。それを見ていた四人に向かって潮風が強く吹いてきた。四人は目を瞑りその潮風を胸一杯に吸い込んだ。

「なんて気持ちいいのぉ~」

沙織は堪らず声に出し両腕を天高く伸ばした。

「見てもう少しで踏切よ」

翠が遠くを指差して言った。指の先には今歩いている道を挟んだ小さな踏切があり一本の線路が続いていた。四人は急ぐ気持ちと同様に足早に踏切に向かい脇にある路肩を線路沿いに歩いて行った。

「そう・・、わたし大事な事を忘れている気がするわ・・」

翠が沙織の腕を引っ張り耳元で言った。

「何よ大事な事って・・」

沙織も翠に合わせ小声で聞いた。

「確かあの駅。改札口が無かったのよ」

翠が疑問に思う事を言い始めたころ四人が足早に歩く景色は海辺から山道へと姿を変え、身の丈くらいの草が生い茂りもう片側には山の斜面が広がってきた。

「そうそう私もあなたを追ってこの道を歩いて来たわ」

翠の記憶が甦ってくる。

「何時の話しているのよ?」

沙織には何の話やら分かっていない。そうこうしている間にもう時間は昼なのだろうか太陽が真上に来ている。今まで暖かく潮風も吹き心地よかった気温がジリジリと真夏の本性をあらわにしてきた。気が付けば四人とも額から汗が吹き出し流れ落ちている。その汗を各々ハンカチや腕で拭い前方に目をやるとようやく白い駅の一部が見えて来た。

「あったぁーっ!」

四人は歓声を上げた。四人の足も軽くなった。駅の先端までやって来ると一番に青年がホームに飛び乗った。

「やっぱりこういう入り方しかないのね」

翠は思わず納得した。青年は彼女もホームに入れようと振り返り手を差し伸べようとした。しかしそこには彼女の姿は無かった。

「あれーっ!いなくなっている!何処行ったのかしら!?」

すぐ彼女の傍にいた沙織さえも驚いている。その時強い潮風と一緒に紅いリボンの付いた麦藁帽子が飛んできて青年の顔に当たった。青年はその麦藁帽子を持って飛んで来た方向を向いた。そこには青いブラウス姿で白いスカートを履いた彼女が海岸に立っていた。ホームの上から見る光景は目の前に広がる草むらの向こうに先程の海岸が広がる絶妙な景色を映し出している。

「何が見えてるのぉー!」

沙織が背伸びをしている。翠は何回もジャンプしている。

「ごめんなさい・・。やっぱりあなたとは旅立てないわ・・」

彼女はきっぱりと謝った。駅から海岸まで結構な距離があるが青年には確実にそう聞こえた。

「なぜ僕と行けないんだ・・。僕の事が嫌いになったのかい?」

青年は彼女の言った事に不安を覚えた。

「そうじゃないの。あなたがこれから掴もうとしている夢に私は足手纏いよ。私はあなたの夢が叶って此処に帰って来るのをずっと待っているわ」

彼女は泣きそうな声で青年に訴えた。

「それに私は元々この海から離れられない海の守り神の一人なの。迷子で独りぼっちになった頃に優しい村長に拾われて助けられたのよ。そしてこの漁村で育ってあなたと巡り合って愛というものを初めて知ったの」

彼女は遂に涙を流しながら泣き声で伝えている。

「えぇ話やのぉぉ」

いつの間にかホームに上がった翠と沙織もその話に感動して泣いている。

「分かったよ!近いうちに立派になって君の傍に必ず帰って来るよ!それまで待ってておくれ」

青年も涙を流し大声で彼女に伝えた。それを聞いて安心したのか彼女は海へと消えて行った。

「都会があなたの肌に合うかどうかも分からないわ。都会の毒に染まらない様に気を付けるのよ!」

翠は青年に発破を掛けた。

「都会は怪物よ!吞み込まれたらお終いよ!」

沙織も同じく追い打ちを掛けた。

「先っき出会った野球帽を被った子供。この駅に着く道中、考えていたんだけど俺の幼い頃の顔にそっくりなんだ。あの子供の頃に描いていた本当の夢を掴んで戻って来るよ!そして彼女を幸せにしてみせるよ!」

そんな青年は笑いながらガッツポーズを取りゆっくり消えていった。

「おーい!」

由香と綾乃が遠くの方から走って来る。

「どうしたのぉー。二人とも必死こいて」

翠が大きく呼びかけた。

「もう二人とも行っちゃった?間に合わなかったわね」

綾乃が汗だくで激しく息を整えながら聞いて来た。

「男は夢を胸に旅立ち、女はその帰りを待っているのよ!」

沙織が人情芝居の様に言った。

「なんなのそれ・・?」

由香は汗でびちょびちょになった服のまま気だるく冷めて言った。

「まぁしょうがないじゃない私達にはもうどうする事も出来ないわ。夢を追うっていうのも素敵な事だわ。彼にとってこの駅が人生の出発点だったのよ。そしてその愛する男を待つ女の直向きな姿。やっぱり女性は偉くてかっこいいわねぇ」

翠は女に生まれてきて誇りに思った。

「さぁお腹が減ったわ。海に戻ってクラーケンのイカゲソとシーサーペントの蒲焼をしてバーベキューをしましょ!」

沙織がそう言って四人の肩を組んだ。


「みんなぁー!大丈夫!四人とも目を覚ましてっー」

オカルト研究会顧問の光明寺春江こうみょうじはるえ先生がベッドを並べ酸素マスクをして眠る翠、沙織、由香、綾乃の四人に大きな声で呼び掛けていた。しかしその呼び掛けも虚しくピィーという無機質な音が高く響き渡った。

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