地図にない駅・第二幕・二人の行方
四人は海から近い漁村にいた。もう少し詳しく言うと漁村だった廃村になった集落だ。海風に乗って波の音がすぐ横で聞こえ潮の匂いが強烈に流れてくる。
「今日は廃墟探訪よ。何故此処に村人がいなくなったのか調べるのよ」
ライトの付いたヘルメットを被り軍手をした翠があとの三人に説明した。
「まだ生活感が残っているわね」
同じ様にヘルメットを被った沙織が今さっきまで人が暮らして居た雰囲気を残している家の中を覗き込んだ。
「家は沢山あるけど何だか寂しい場所ね」
綾乃はヘルメットを被りながら周辺を見渡している。
「それじゃ二手に分かれますかぁ」
由香もヘルメットを被り歩き出した。日差しがきついお昼前の時間帯。体中から噴き出す汗を抑えながら四人は二組に分かれ散らばり廃墟調査に向かった。
「これが終わったら海水浴よ!」
沙織が元気にスキップを踏んで言った。
「その前にバーベキューで腹ごしらえよ」
ペアを組んでいる翠のお腹がなった。
「人は居ないけど廃墟って感じがしないのよね」
沙織は玄関が開けっ放しの家にお邪魔した。
「此処廃村じゃないわ!」
外から翠の声が聞こえて来た。沙織が表に出ると棒立になっている翠が前方を見ていた。見ている方向に目を向けるとゾンビの大群が押し寄せてくる。それを見た二人は腰が抜けその場から動けなくなっていた。
「どうしよう、どんどん近づいて来るのに逃げる事が出来ないんだけど・・」
沙織は翠にしがみ付いて足が諤々震えている。
「気持ちはあるんだけどねぇ・・動かないのよねぇ・・」
翠も同様しがみ付いて一緒に震えている。
「二人とも早く逃げるんだ!」
後ろから一人の青年が肩を掴み二人の硬直状態を解いた。翠と沙織はその青年について行き走り出した。三人は無我夢中で山の斜面を登り岩の亀裂の様な洞穴に逃げ込み身を隠した。その中は奥に大きく広がり洞窟の様に続いていた。
「助けてくれてありがとう。だけどあなたは誰?」
翠の顔はヘルメットを被った額から流れる汗でギトギトだ。
「僕はこの村の人間だ。いや人間だったになるかもしれない・・」
青年も額に汗を流し息を整えている。
「あのゾンビの群れの中で独り生き残ったの?それともゾンビになりかけているの?」
沙織がヘルメットを脱ぐと頭から湯気が上がっている。
「人間だったと言うのは比喩の言い方だよ。そして独りじゃない。村人の皆があんな姿になったのは僕達の所為なんだ」
青年は腕で汗を拭いながら経緯を説明してくれた。
「僕と彼女は駆け落ちをして都会で暮らそうとしていたんだ」
青年が出だしの話を始めようとした時うしろの物陰からその彼女らしき女性がゆっくり現れ近づいて来た。
「びっくりした!幽霊かと思ったわ!」
「失礼でしょ!レディにそんな事言っちゃ!」
咄嗟に言った沙織の本音に翠が訂正した。
「僕達の仲の悪い親通しの問題で普通に結婚させてはくれない。それならば一緒に村を出て行こうと思い家を出たんだが、彼女の方が思い出にと家の家宝を持って来てしまったんだ。それが村の人達を怪物に変えてしまったんだ」
青年は話すのが辛そうな顔になり隣に座っている彼女のほうは泣き出してしまった。
「まぁ・・、お気持ちは分かりますけど・・」
翠が二人を宥めた。
「あんたほんとに二人のお気持ちが分かってんの!それで二人は村人達が気になって元の姿に戻すまで駆け落ち出来ないって訳ね」
沙織が直ぐに解釈した。
「それで持ち出した家宝ってどんなものなの?」
翠が彼女に聞いた。
「それは・・これなの・・」
その彼女が懐から取り出したものは淡いピンク色に光る小さな法螺貝だった。
「これが・・か・ほ・うぉ・・」
翠と沙織は言葉を失いその家宝をじっと見つめた。
「これは代々我が家に伝わる代物で私も何故これが家宝なのかも分からずもしもの時の保険にと持って来たんだけど村の人達があんな事になるなんて思いもよらなかったわ・・」
彼女はまた泣き出した。
「保険というのはいざとなったらお金に換えるって意味だよ」
青年が補足した。
「仕方ないわねぇ。翠、ようやく私達の出番よ!二人の愛の門出の為に一肌脱ぎましょう!」
沙織が翠の肩を組んだ。
「キャーー!こっち来ないでー-!」
山肌の下の道から聞き慣れた叫び声が洞窟の中まで聞こえて来た。沙織が外に出て声のする方を伺うと由香と綾乃が悲鳴を上げてゾンビとなった村人から逃げている最中だった。その様子を沙織はニンマリ笑いながら元居た洞窟に振り向き顔を出している三人にこう言った。
「あの二人にも協力して貰いましょう」
「かくかくしかじか、こういう事情なのよ」
沙織と翠が交互に由香と綾乃に村人二人の状況を説明した。ともあれ由香と綾乃は切り立った岩肌の頭上から沙織に呼び止められ洞窟の中へと避難出来た。
「それはお困りねぇ。それはそれで私達にどうしろと・・?」
由香は一通りの話を聞き終え誰もが思う単純明快な返答をした。
「だからぁ~、どうすればいい・・」
翠も返事に困っている。
「要するにつまりその家宝とやらを元に戻して村の人達も元に戻せばいいのね」
綾乃は単刀直入に言った。
「そうよそれよ!これで二人は丸く駆け落ちが出来るわ」
沙織はピタッとパズルが完成したような顔で二人に指を差した。
「丸く駆け落ちが出来るぅ~?」
由香は首を傾げた。
「すまない。いきなり突然僕たちの為にこんな寂れた漁村に遊びに来た学生さんにこんなに迷惑かけるなんて申し訳ないと思っている」
青年が四人に謝って来た。
「私達此処に何しに来たんだっけ?」
沙織はすっかり忘れている。
「だけどそう言ってもそんなに簡単な事じゃないわ。ゾンビになった村の人達はウジャウジャいるし家宝を返した処で原因が解決するかどうか分からないわ」
綾乃は正論を言っている。
「だけどやってみなきゃ分からないじゃない。じゃお二人さん頼んだわよ」
翠は由香、綾乃コンビに家宝を返しに行く事を託した。
「それでそちらのお二人さんはどうするのよ」
由香が気だるそうに言ってきた。
「私達は勿論お二人を駅まで安全にお送りするのよ」
沙織はたくましく言った。
「この洞窟の中を通って村人に見つからず行けます。少し行けば左右二手に分かれますので村に向かうには左の道を通って下さい」
彼女が先頭に歩いて行った。
「さぁ私達も行くわよぉ!」
翠の号令と共に四人はヘルメットを被りライトを点けた。
由香と綾乃は同じ様に酸素マスクを付け隣通しのベッドの上で静かに寝ている。
「ねぇ、由香と綾乃は大丈夫なの。目を覚ましてくれるの・・」
心配そうに沙織は翠に言った。
「信じていればいいのよ・・。必ず元気に起きてくれるわ」
翠も気が気ではない。
その時静寂を崩す高いピィーという無機質な音が狭い部屋中に響き渡った。




