標的にされた学校・第一幕・危険な転校生
梅雨が明けるかどうかといった瀬戸際の季節。今日もどんよりとした曇り空に今にも雨が降ってきそうで来ない雰囲気を醸し出している。この時期の毎日の通学には傘を持ち歩くのが定番の日常になっている。いつもの様に雑談をしながら学校へ向かう仲良し四人の姿があった。
「こんなに湿気でじめじめしていたら地面の底からミミズ男が大勢出てくるわよ」
みずがめ座の早乙女沙織がうっとうしい顔をして言ってきた。
「うわぉー、想像しただけでも気持ち悪いわ」
しし座の飾磨由香が露骨に嫌な顔をした。
「どうにせよ長いわねぇ。この中途半端な曇り空」
ふたご座の鷹塚翠が空を見上げている。
「ところで珍しいわね。その番傘」
いて座の栗須川綾乃が沙織の持っている傘に目をやった。
「さすが綾乃殿お目が早い。実はこれ!古来より伝わる“からかさおばけ”なの」
沙織がそう言うとその番傘を開いた。
「何も出て来ないじゃない。何処でそんなもの見つけてきたの」
翠が期待外れの顔になった。
「朝、目が覚めたら枕元にあったのよ」
沙織は開いた番傘をくるくる回して楽しく歩いている。
「季節外れのクリスマスプレゼントじゃあるまいし・・」
由香が呆れた顔でいた。
「まぁこんなに雨が降るんだからこの番傘の出番が来たんじゃない。夜になったら正体を現すから期待して待って、そうなったら観察しましょ」
綾乃は冷静な顔である。
「雨の時期はずっと愛用して持ち歩こうっと!」
沙織は嬉しそうにスキップを踏んだ。
“なんか今日都会から転校生がやって来るらしいわよ!?”
同じ通学中の通り掛かりの女生徒の会話が耳に飛び込んできた。
「転校生?都会の子がこんな田舎にやって来るなんて変わっているわね」
由香が不思議な顔になった。
「都会っ子ってどんな感じの子がやって来るのかしら」
綾乃は頭の中でイメージした。
「いま好きなタイプの顔を想像しているんじゃない?」
翠が誰とは無く皆に問いただした。
「当ったり前じゃない!それが自然の摂理よ」
沙織は番傘をくるくる回しスキップを踏み続けている。
そんな四人が赤レンガ造りの聖桃烏中等学校に着くころ空からは小粒の雨がぽつらぽつらと降り始めた。
「何とか傘を使わず済んだわね」
「あなたはずっと此処まで楽しそうに差して来てたじゃない」
沙織の言葉に翠が突っ込んだ。
雨は見る見るうちに小粒から大粒に変わり激しく降り出した。その叩き付ける雨の強さは校庭の泥土を跳ね上げさす勢いだ。そんななか滑走と長細いリムジン車がエンジン音を立て校庭に走り込んできた。その様子を四人は教室の窓から覗き込んで見下ろしていた。すると傘を差した運転手が飛び出して来て真ん中の大きなドアを開けた。傘で覆いかぶさり四人が眺める窓からは顔まで見えないがそれこそ噂の転校生だろう。
「ねぇねえ、どんな感じの子?」
沙織は背伸びをして覗き込んだが校舎に入って行く転校生の姿は窓から見下ろす事により、開いた傘ですっぽりと身を隠していた。
「分からないわねぇ。だけどあんな大きな車で来るのよ。やっぱりちょっと違うわよ」
翠が感心している。
「琴原もあんな車もちょちょいのちょいで運転できるわよ」
綾乃は自慢しがちである。
“転校生の紹介をしますので皆さん講堂へお集まり下さい”
教室のスピーカーから放送部より案内が流れた。
「さっそくきたわようぉ~。では転校生のお顔を拝みに行きましょ」
沙織が先に駆け出した。
「ちょっと待って!見て見てあれ!あれ!!」
窓から校庭を眺める由香が皆を呼び止めた。三人が集まりもう一度窓から校庭を見下ろすと豪雨で霧が掛かり、分かり難いが何やら雨に叩き付けられる地面の所々から無数の何かが蠢き這い上がって来ようとしているのが微かに目に映った。
「あれが沙織が言っていたミミズ男?」
由香が気持ち悪そうに気だるく言った。
「何だか分からないけどわんさか地面から出てきているわ」
翠が硝子窓を覗き込んだ。
「雨の靄で分かりずらいわね」
綾乃も目を細め硝子窓を覗き込んでいる。
「これはやっぱり確かめに行くしかないでしょ!」
沙織が率先的に動いた。あとの三人もオカルト心に火が付いてその後に続いた。
「皆さんこんにちは。今日からこの学校でお世話になる瀧川康介といいます。慣れない面もまだまだあると思いますがよろしくお願いします」
全校生徒が集まった講堂で、その壇上に上がっている転校生のさそり座、瀧川康介がマイクを使い初めての挨拶をしている。
「皆さんとはまだ面識が無いのですがお近づきの印に僕を見つめて下さい。先生方もお願いします。少しの間で構いませんので意識の集中をお願いします」
瀧川康介は単なる挨拶だけでは止まらず何やら怪しげな事を言い出した。
「もう大丈夫です。ありがとうございました。さぁ皆さんは今から僕の下部です!これから仲良くしていきましょう。そして僕の支配する学校生活を楽しんでいきましょう!」
瀧川康介は嬉しそうに笑った。その背後には黒い靄の様な物が黙々と立ち上げていた。
「うっわっぁー!すっごい太っといミミズよっー-!」
豪雨の雨のなかフード付きの分厚いカッパを着た沙織がはしゃいでいる。
「よくもまぁここまで育ったわね」
同じく分厚いカッパを着た由香が感心している。
「きゃー!助けてーっ!」
遠くの方から甲高い聞いた声が悲鳴を上げて近づいて来る。壊れた傘を振りかざし全身ずぶ濡れになって血相を変えて逃げ込んで来たのは、やぎ座の生徒会会長・西園寺公佳だった。
「どうしたの一緒になってはしゃいで。いつもの高級外車での送迎はどうしたの?」
翠が分厚いカッパのフード越しから俯いて西園寺に向かって言った。
「どうもこうも無いわよ!車はエンストするわ、土砂降りになるわ、傘は潰れるわ、変な怪物がいるわで踏んだり蹴ったりよ!」
西園寺はもう見る影が無い程びちょびちょだった。
「仕方ないわねぇ何か着替え渡してやるわ・・はぁはぁ・・」
翠は俯いたままフードの中から笑い声と一緒に声を出している。
「あなた達に借りは作らないわ!どうせ防御服とか分けの分からないお札の着いた法被でしょ!そんなの着るくらいならこっちで準備するわ!」
言い争いをしている間も西園寺の着ている学生服は雨水をたっぷり含み体にへばり付いている。
「それじゃ勝手にしなさい!はぁはは・・」
翠はフードの中で堪えた笑いが止まらない。
「きゃー-!そっちに行ったわよぉー!」
「案外逃げ足が速いわぁー!」
「私達が泥に足を取られているのよー」
沙織、由香、綾乃の三人がミミズ男をかまけて追い掛け回している。
「何やってんのよー!こっちに来ないでー!」
西園寺は全速力で逃げて来たミミズ男にぶつかって下敷きになった。
「ご愁傷様です」
四人は倒れて気絶している西園寺に向かって手を合わせた。
その様子を廊下の窓から眺めている転校生の瀧川康介の姿があった。
「時機に君達も僕の下部だよ・・」
瀧川康介は無表情のまま土砂降りの雨に打たれながら楽しく笑う四人を眺めていた。




