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七つの滞在 〜オタク男子の平穏な日常を破壊する、最強の美少女悪魔たち〜  作者: ほさ
悪魔の転生生活

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8/30

『悪魔たちの湯治は、気持ちよすぎて溶けていく』前編

「最高だったわね、拓巳!」

「……うん。冷たくて、すっごく気持ちよかった……」

砂浜で一通り波と戯れた後、俺たちは名残惜しそうに海を後にした。

ルシファーは相変わらず潮風に髪をなびかせて上機嫌だし、ベルフェゴールにいたっては、初めての『冷たい海』の余韻に浸るように自分の小さな手のひらをじっと見つめている。

「喜んでもらえて何よりです。……ですが皆さん、今日の『本番』はここからですよ?」

俺はズレたメガネを指先でスチャッと上げ、不敵な笑みを浮かべた。

「ん?」

「なによ、もったいぶっちゃって」

二人が小首を傾げる目の前に、俺はその巨大な建物をドーンと指し示した。

「バーン! 次に君たちを連れてきたかったのは、ここです!」

「なによここ? ……『マクハリの湯』……?」

ルシファーが建物の看板に書かれた漢字を器用に読み上げる。

「ズバリ、温泉施設です!」

「おん……せん……?」

二人は揃ってパチクリと目を丸くした。

「あれ? 魔界には温泉ってないんですか? ほら、すっごく大きいお風呂のことです」

「え? お風呂……?」

ルシファーは一瞬きょとんとしたが、はっと何かに気づいたように顔を強張らせ、俺をキッと睨みつけてきた。

「まさか……あんた、また何かエッチなことを企んでるんじゃないでしょうね!?」

「なわけないでしょうよ! どんな邪推の仕方をしてるんですか!」

秒でツッコミを入れる。俺は紳士だ。健全なオタク大学生だ。

「……お風呂なら……お家でも……毎日入れる……」

ベルフェゴールが抱き枕をぎゅっと抱きしめながら、眠そうに呟く。

俺は人差し指をチッチッチと左右に振ってみせた。

「ノンノンノン! ベルフェゴールくん、温泉というものは家のお風呂とはスケールも効能も大違いなんだよなぁ」

「ふん、お風呂なんて湯船にお湯が張ってあるだけでしょ。どこも同じよ」

フンスと鼻を鳴らすルシファー。

「くっくっく。そう言っていられるのも、今のうちですよ……?」

俺はニヤリと意味深な笑みを浮かべ、二人をフロントへと促した。

「うっひょおぉぉぉぉーーー!!! これはすごいわっ!!」

大浴場に足を踏み入れた瞬間、ルシファーの声が天井の高い空間に響き渡った。

「大きい……お風呂……海みたい……」

ベルフェゴールも、湯気の向こうに広がるいくつもの巨大な湯船を見上げて、珍しく圧倒されている。

「ちょうど砂まみれになって汗もかいてたから、これは嬉しいわね! 拓巳のやつ、意外と気が利くじゃないの!」

ルシファーは「極楽極楽」とばかりに嬉々として体を洗い始めた。

その横で、一足先にシャワーを浴び終えたベルフェゴールが、ルシファーの肩をちょんちょんと叩く。

「ルシファー……あそこ……!」

「ん? なあに? ――えっ!?」

ベルフェゴールが指差した先。それは、メインの広い浴槽の横で、ゴボゴボと激しい泡を立てて波打っている『ジェットバス』の湯船だった。

「あれは……まさか、魔界の第百五十層にあると言われている、あの伝説の……『溶岩風呂』……!?」

「人間の……世界にも……あった……」

ベルフェゴールがコクコクと深く頷く。

「そういえば、あんた魔界にいた頃、よくあそこに行って寝込んでたわよね」

「あそこは……泡がポコポコしてて……気持ちよく……寝てられるから……」

「あんな地獄の業火みたいなところ、普通の悪魔が入ったら一瞬で溶けて消えてなくなるのよ……。あんた、やっぱりどこかおかしいわ……」

ルシファーが引き気味に身震いする。

「ルシファー……早く洗って……。早くあの溶岩風呂に入ろう……」

「へ? あんた、もう体洗ったの?」

「……ぶい」

ベルフェゴールは水滴を滴らせながら、誇らしげにピースサインを決めてみせた。早い、早すぎる。

「私は髪を洗うのにもう少し時間がかかるから、先に入ってていいわよ」

「……ん」

トボトボと小さな足取りで、ジェットバスへと歩いていくベルフェゴール。

その後、ルシファーも念入りに全身を洗い終え、「さて、あの子はどうなったかしら」とジェットバスの様子を見に行くと――。

「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!???」

ルシファーの絶叫が大浴場に木霊した。

そこには、激しくぶくぶくと泡立つジェットバスの水面に、まるで『ペラペラの紙』のようになったベルフェゴールが、力なくぷかぷかと浮いていたのだ。

「えええええ! だ、大丈夫!? ベルフェゴール、本当に溶けてない!? 原形留めてないわよそれ!?」

「……あ。ルシファー、やっときた……」

ペラペラ状態のまま、ベルフェゴールがパチリと目を薄く開けた。

「……ここ。……気持ち良すぎて、本当に溶ける……」

「ええっ!? やっぱりそんなに熱い過酷な溶岩なの!? そんな危険なもの、人間はどんな肌をして入ってるのよ!」

「……これ。溶岩じゃない……。熱くない……」

「え? じ、じゃあ……」

ルシファーは恐る恐る、隣のジェットバスの浴槽へと足を踏み入れた。

チャポン……。

「っ!?!?!? な、なにこれぇぇぇぇ……っ! 気持ち良すぎて……私も溶けていきそう……っ!」

お湯に浸かった瞬間、ルシファーの全身の力が一一気に抜け、彼女もまたベルフェゴールと同じように湯船で『ペラペラの紙』のようになって浮かび上がった。

「なによこの、まるで宙に浮いているかのような浮遊感は……! それに、背中にピンポイントで当たるこの水流ジェットが、凝り固まった体をほぐして、気持ち良すぎる……! 最高、最高だわ……!」

二人の上位悪魔は、完全に人間の文明の利器ジェットバスによって骨抜きにされていた。

しばらくジェットバスの泡に癒された二人は、次に屋外へと通じる扉を開け、露天風呂へと向かった。

「外にあるなんて、寒くないのかしら?」

「……急に、体……冷えてきた……」

ガチャリ、と重いガラス扉を開けて外に出る。

その瞬間、二人の目の前には、先ほどまで自分たちが遊んでいた広大な海が、夕暮れのグラデーションに染まりながら一面に広がっていた。

「……す、すごい! なんていい眺めなの……!」

ルシファーが思わず息を呑み、感動に目を輝かせる。

「いい景色……でも……」

「「寒いっっっ!!!」」

流石に秋の夕方の外気は冷たい。二人はガタガタと震えながら、目の前にある大きな岩造りの露天風呂へと同時に飛び込んだ。

バシャンッ!!!

温かい湯に全身を包まれた瞬間、二人はたちまち、この世のものとは思えないほどの恍惚の表情を浮かべた。

「はあぁぁぁぁ……なにここ、天界……? 私たち、ついに寿命を迎えて天に召されたのかしら……」

「……悪魔は……逆立ちしても天界にはいけない……」

「知ってるわよ、そんなのマジレスしないでよ! 例えよ、例え! でも本当に最高だわ……」

ルシファーは湯船の縁に頭を預け、うっとりと目を閉じる。

「ここ……。ふかふかのベッドの上よりも……何倍も気持ちいい……」

ベルフェゴールも首まで湯に浸かり、心地よさそうに小さく息を吐いた。

しばらくの間、二人はゆっくりと、茜色から紫へと移り変わっていく水平線を眺めながら、静かに露天風呂を楽しんでいた。

ふと、ルシファーが静かに口を開いた。

「ねえ、ベルフェゴール」

「……ん?」

ベルフェゴールが湯面から目を向ける。

「あんた……これから先、この人間の世界でどうしていく気なの?」

「……どうするって……拓巳のお家で……ずっと、いっぱい寝る……」

いつもの怠惰な回答。しかし、ルシファーの表情は少しだけ真面目だった。

「あんたはそうやってずっと寝てられるだろうけど……それじゃ、拓巳にずっと迷惑がかかるわよ。私たちは居候なんだから」

「……ん……」

ベルフェゴールはきゅっと唇を結び、お湯の中に顔を半分沈めて下を向いてしまった。

「……ルシファーだって……毎日、アイドルの動画、ずっと見てる……」

下を向いたまま、ベルフェゴールが小さな声で反論する。

「くっ……! それは、そうだけど……分かってるわよ……」

図星を突かれたルシファーが、気まずそうに視線を泳がせる。

「でも、この世界に転生おちてきても、私たちには大した目的もないじゃない。そりゃあ、拓巳のありえないほどの優しさに、甘えっぱなしなのは自覚してるわよ」

「……ずっと、このままじゃ……いられないよね……」

ポツリと、ベルフェゴールが寂しそうに呟いた。

下を向いたままのベルフェゴールを横目で見て、ルシファーは「はぁ……」と大きく息を吐き、自分の前髪をバシャバシャと水面で濡らした。

「やめやめ! 折角のいいお風呂なのに、こんな湿っぽい話はナシよ!」

「……でも、本当にこれから、どうするの……?」

「うーん……。あ、そうだわ!」

ルシファーが何かを思いついたように、ぽんと手を叩いた。

「なに……?」

「あとで、拓巳の『願い事』でも、何か一つ叶えてあげましょっか。いつもお世話になってるお礼にさ」

「……ん。拓巳の、お願い……。叶える……」

ベルフェゴールも、その提案には賛成のようで、湯船の中で小さくコクコクと頷くのだった

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