【聖剣ルシフェル】
「なによ……ここ……」
なんとか両足で立ち上がったルシファーは、目の前に眩いばかりに広がる光景に、思わず言葉を失った。
視界を埋め尽くす溢れんばかりの金銀財宝。そしてその奥には、触れずとも狂おしいほどの圧倒的な密度を感じさせる莫大な魔力を秘めた武具の数々。
「これって……」
ぽつりと呟いた瞬間、ルシファーの脳裏にある噂が思い浮かんだ。
『天界のどこかには、歴代の大天使や神自身がかつて振るった伝説の宝具たちが眠る宝物庫が存在する』――天使たちの間で半ばおとぎ話として語られていた都市伝説。
「本当に存在していたなんてね……。あのジジイども、なんでこんなところに隠してるのよ」
毒づきながら並べられた神話級の武器群を一枚一枚改めるように巡るルシファー。
そして――とある異彩を放つ一つの武器の前で、ふと足を止めた。
『――お前みたいなものが、力に溺れるからだ』
その時、頭の中に直接重厚な声が響き渡った。
「……っ!? 神様……!?」
『まさか偶然この部屋を見つけるとはな。それもルシファー、貴様が』
「なによ、私の監視なんかしてないで、さっさとあいつをなんとかしなさいよ!」
『あやつを今の天界で止められる者はおらん。魔界にも救援を要請したが返事が来ない。応援は期待できぬだろう』
「はあ!? それじゃあどうしろって言うのよ!」
『ルシファーよ……お前はこの天界を、いや、仲間たちを守りたいか?』
神の問いかけに、ルシファーは躊躇うことなく即答した。
「当たり前じゃない! 私の家がなくなっちゃうでしょ!」
『ふっ。家、か……。ひとつだけ、アバドンを止める方法がある。しかしそれを行えば……貴様は天使ではなくなる。すなわち、ここに貴様の居場所はなくなるということだ』
「なによそれ。どういうことよ?」
『貴様の目の前にあるその宝具――『聖剣ルシフェル』。聞いたことはあろう』
「ルシフェル……って、あの!?」
『かつて一つであった天界と魔界を二つに分かつために振るわれたと言われる創世の宝具だ。それを持てばアバドンにも勝てよう。……しかし、ルシフェルを使った者は天使としての形を保てぬ。死ぬか、あるいは――』
――ガチャ。
神の言葉が終わりきる前に、ルシファーは目の前に置かれていた聖剣ルシフェルを迷いなくの手で掴み取っていた。
『……は?』
威厳に満ちていた神の声が、思わず素の驚きで裏返る。
「何驚いてるのよ。これを使わなきゃヤバいんでしょ? ……それにさ、私はそんなことで死んだりしないわよ」
その頃――惨状と化した大天使試験会場のコロシアム。
「こ、これほど……とは……」
ひしゃげて歪んだ眼鏡を外し、膝をつくミカエル。
その視線の先では、縦横無尽に拳を振るうカマエルの姿があった。
「オラァ! オラァッ! テメェ、大事な試験をぶち壊しやがって……! タダで済むと思うなよ!?」
目にも留まらぬ超高速の連撃をアバドンに叩き込むカマエル。
「ふん。見たところ、貴様が今の大天使の中で一番やれるようだな。『天拳』か……懐かしい! どれ、私も素手で相手をしてやろう」
アバドンは両手をバッ! と前方に突き出し、不気味な構えを取った。
「舐めてんじゃねぇぇぇッ!!」
さらに加速し、アバドンの懐へ潜り込んだカマエルが、魂を込めた突き上げの拳をアバドンの顎下へ叩き込む。
――ギュンッ!!
衝撃波がまるで光の柱のようにアバドンの背中から天へと突抜け破裂した。
「死ねやぁぁぁっ!」
勝利を確信し、狂暴に口角を上げるカマエル。
「……そんなものか?」
アバドンの冷酷な声が頭上で響いた。
――ガハッ……!?
突然、大量の鮮血を吐き捨てるカマエル。
アバドンの突き出されていた両腕が、カマエルの胸腔を深々と貫通していた。
「『天拳』とは……こうやるのだよ」
冷笑とともに、突き立てた両腕をその場で力任せに捻り上げるアバドン。
――ボンッ!!
不快な破裂音とともに、カマエルの両腕が肩口から綺麗に吹き飛んだ。
そのまま白目を剥き、何も言わずに地へ倒れ込むカマエル。
その瞬間――真上から滑空してきた「何か」が、倒れたカマエルを回収した。
「お姉ちゃん! あいつヤバいよっ!」
全身を激しく震わせながらも、片腕でカマエルを支えて必死に滑空するのはザドキエル。
「うん! 無理! 絶対勝てないよアレ!」
反対側からカマエルを抱えるイオフィエルが悲鳴をあげる。
二人は死に体のカマエルを、ミカエルの横に控えるラファエルの元へと必死で運び届けた。
「まだ息はあるわ! 早く治療魔法を――!」
「そんな余裕は……なさそうだぞ」
ミカエルが絶望に満ちた目で前方を見つめながら呟く。
その先では、余裕の笑みを浮かべ、長い金髪を優雅に靡かせながらアバドンがゆっくりと歩み寄ってきていた。
「さあ……次はどいつだ?」
アバドンが冷たく問いかけた、その時――。
ドガァァァァァンッッ!!!
アバドンの真後ろの石畳が、地殻変動のような爆風とともに激しく跳ね上がった。
土煙を切り裂いて現れたのは――背中に純白の天使の羽と、漆黒の悪魔の羽を左右対で生やし、手に異様なオーラを放つ『聖剣ルシフェル』を握りしめたルシファーの姿だった。
ルシファーは聖剣の刃先をまっすぐにアバドンへ向け、不敵に微笑む。
「待たせたわね。……さっきの続き、やりましょ?」
忙しくて全然続きが…




