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七つの滞在 〜オタク男子の平穏な日常を破壊する、最強の美少女悪魔たち〜  作者: ほさ
堕天した天剣

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【大天使試験】

「今回の議題は、先ほど貴様らも話していた『アバドン』についてだ」

神の重苦しくも無機質な声が、神聖な空間の隅々にまで冷たく響き渡る。

円卓の席に着く大天使たちは、誰一人として口を開くことなく、静寂の中でその声に耳を傾けていた。

「次の大天使試験のことは、奴も当然知っているはずだ。私の身体を犠牲にし、魔界の魔王の力まで借りて深淵に封印しているが……それでも決して安心できる存在ではない。警戒に警戒を重ねても足りぬほどにな」

静まり返る場の中で、メガネを指でクイッと押し上げながらミカエルが静かに挙手をした。

「お言葉ですが……私とカマエルがこの身を犠牲にしてでも、この天界をお守りいたします」

「そうですとも! この大七天使最強と名高いカマエルがいるのです。神よ、どうぞご安心ください」

カマエルが胸を叩いて力強く宣言する。

「ふむ、そうだな。守護天使たちも大幅に増員し、警備に当たらせよう。そうして、今回の試験をしっかりと無事に終わらせるのだ」

重厚な神の声が収束していく。

「「「はっ!」」」

全員が一斉に頭を下げると、一人、また一人とその気配を消し、退室していく。

「はあ……。だるいわねぇ」

最後に残ったルシファーが、両手を大きく上に伸ばして盛大にあくびを漏らした。

「あなたみたいな態度のが大天使だなんて、本当におかしな話だわ」

横で呆れ顔を浮かべていたガブリエルが刺すような視線を向ける。

「あんたこそペーペーのくせになによ。さっきからあの方々の圧力にビビり散らかしちゃって」

「しょ、しょうがないじゃない! あの方たちは同じ大天使でも格が違うのよ!」

「格ねぇ……。そんなの、圧倒的な力で理解(分から)らせればいいだけの話でしょ」

「はぁぁぁ……。あなたと話しても時間の無駄ね。それじゃあ」

言い捨てるように言うと、ガブリエルは光となって消えていった。

「さて……。私も部屋に帰るか」

ルシファーもまた面倒くさそうに姿を消す。

誰もいなくなった透明な空間に、ただ無機質な神の声だけがぽつりと残響した。

『アバドン……。何事も起きなければ良いが……』

そうして、何事もなく1ヶ月が過ぎた頃。

「お姉様〜〜〜っ!」

いつもの丘の下から、耳にタコができるほど聞き飽きた騒がしい声が響き渡る。

「ふぅ……」

一本木の下で眠っていたルシファーは、小さく溜息をつくとノロノロと身体を起こした。

「お姉様! お姉様ぁぁぁ〜〜〜っ!」

「うるさいわね! 聞こえてるわよ! っていうかあんた、今日は大天使試験の本番でしょ!? なんでこんなところにいるのよ!」

息を切らせて駆け上がってきたウリエルに、ルシファーが眉をひそめる。

「お姉様も今回の試験官ですよね!? どうせギリギリまでここで寝てると思って呼びに来たんですよ!」

「はあ、呆れた。私はギリギリに向かっても余裕で間にあうのよ。大天使様の滑空速度スピードを舐めないでちょうだい」

「ああっ! 滑空!! ……そうでした〜っ!」

ウリエルがガチガチの表情で分かりやすくショックを受ける。

「というか、時間大丈夫なの?」

「えーと……」

ウリエルが焦って天空に浮かぶ巨大な大時計を見上げた。

「ああっ!? もうこんな時間!? ここから会場まで普通に走ったら30分……あれ? 間に合わない!?」

「はあ……。ほら」

呆れ果てたルシファーが、スッとウリエルに向かって両手を差し出す。

「……お姉様っ❤」

――ギャァァァァァ!!! おろして! おろしてくださいッ!!!

ルシファーに米俵のように担がれ、雲を突き抜けるような超高速で空を飛ばされながら、絶叫するウリエル。

「ちょっと! 滑空中はバランスが崩れるんだから、あまり暴れないでちょうだい!」

悲鳴をあげるウリエルを担ぎ上げたまま、ルシファーは爆音とともに試験会場へと一瞬で降り立った。

大天使試験の会場――天界で最も巨大な『中央コロシアム』。

「はあ……はあ……。し、死ぬかと思った……」

地面に膝をつき、生気を失った目で呟くウリエル。

「ほら、さっさと受付行ってきなさい。私は試験官側の控え室だから」

ルシファーはウリエルを一瞥すると、スタスタと関係者通路へ歩いていく。

「はあ……はあ……っ、お姉様……!」

なんとか立ち上がったウリエルが、背中に向けて声を張る。

「……なに?」

ルシファーが足を止め、少しだけ顔を振り向かせた。

「合格したら、美味しいものご馳走してくださいね!」

満面の笑顔で叫ぶウリエル。

「……っ!? さっさと行きなさい! 合格しなきゃ承知しないからね!」

照れ隠しで顔を背け、素気なく言い捨てて奥へと消えていくルシファー。

『大天使試験』――。

天使の中でも群を抜いた上位の実力を持つ者を「大天使」と呼ぶ。その称号と権限を得るための特別な選抜試験である。

試験は多種多様な天界術の精度、応用力、戦闘力が総合的に判断される。

そして、その大天使の中でも頂点に位置する7人の絶対的強者たちが『大七天使』と呼ばれていた。

その1人である「天剣のルシファー」もまた、今回の試験官として受験生たちの実力を見定めていた。

「はあ……。今年もザコばっかりね」

コロシアムの薄暗い通路で、ルシファーが大きな溜息をつく。

「ちょっと! あなたなんで受験生たちを全力でぶっ飛ばしてるのよ! もう少し手加減というものをしなさいよ!」

カンカンに怒ったガブリエルが、コロシアムの舞台側から歩いてくる。

「別にぶっ飛ばしてるわけじゃないわよ。軽く遊んであげてるだけのつもりなのに、あいつらが勝手に吹っ飛んでいくのよ」

「ガブリエルは頭が硬すぎるんだよ〜。もう少し肩の力を抜きなよ〜」

ガブリエルの後ろから、ひらひらと手を振りながらイオフィエルがやってくる。

「お姉ちゃんの言う通りだよ〜」

ザドキエルも双子の姉の背中から重ねるように顔を覗かせた。

「ちょっ……イオフィエルさんにザドキエルさん! お二人ともふざけすぎです!」

「ガブリエルの言う通りよ。遊んでいないで、ちゃんと試験官の責務を果たしなさい」

凛とした声とともに現れたのは、大天使ラファエルだった。

「……はぁ。うるさい奴らが集まってきたわね。じゃあ私は午後まで控え室で寝るから、絶対に部屋に入ってこないでよね」

ルシファーはだるそうに肩をすくめると、さっさと自分の控え室へと消えていった。

「つまんないやつ〜」

イオフィエルとザドキエルが口を揃えてブーイングを鳴らす。

「あなたたちも少し休んだ方がいいんじゃないの? 午後は地獄のバトルロワイヤルよ。死人が出ないように制御するのが私たちの仕事でしょう?」

「そうだね〜。お昼寝してこよ〜」

ラファエルの提案に、双子の大天使もパタパタと控え室の方へ歩いていく。

「はいっ。……あの、ラファエルさん」

「ん? なにかしら、ガブリエル?」

「……あの傲慢なルシファーのことなんですけど、もうちょっと上から厳しく言ってくれませんか? あいつ、口も態度も悪すぎますよ!」

「うーん、とは言ってもねぇ……あの子は圧倒的な実力が伴っちゃってるからね。ガブリエルが実力で負かして黙らせればいいんじゃないかしら?」

「くっ……! それが難しいから言ってるんですよ……!」

「ふふふ、頑張りなさい」

呆れるガブリエルを優しくなだめるラファエル。

こうして前半戦を終えた大天使試験は、いよいよ生き残りをかけた午後の「バトルロワイヤル」へと向かっていくのだった。

一方、熱気に包まれる『受験生控え室』。

「……はぁ。前半の術式試験、全然ダメダメでした……」

長椅子に深く腰掛け、ウリエルが落ち込んだように呟く。

「そう? 私はウリエルが一番輝いて見えたけどな」

隣に座っていた受験生仲間の天使・マリルが、明るく笑いかけてくれた。

「ありがとうマリルちゃん。でも、こんな成績じゃ到底あのお姉様のようにはなれないよ……」

「お姉様……ルシファー様のことね! あの人も昔、午後のバトルロワイヤルで他の受験生を一人残らず全員ブチ倒して、力尽くで大天使に選ばれたんでしょ? ならウリエルも同じように全員倒しちゃえばいいんだよ! まあ、私も絶対に負けないけどね!」

「受験生……全員……」

マリルの言葉に、ウリエルは何かを吹っ切るように拳を握りしめた。

その時――ガチャン! と重い音を立てて控え室の扉が開き、警備担当の大天使が入ってきた。

「皆、午後の試験の時間だ。全員ただちにコロシアム中央へ移動するように!」

案内を聞き、控え室が一気に緊張感と熱気でざわめき立つ。

「うー! 緊張してきました〜〜っ!」

ウリエルが頬を両手で叩いて立ち上がる。

「がんばろ! ウリエル!」

マリルもガッツポーズを作って意気込む。

しかし――。

そんな熱気と殺気に満ちあふれる受験生たちの中でただ一人、部屋の隅で深くフードをかぶり、下を向いたままブツブツと不気味な言葉を咀嚼するように繰り返している天使がいた。

「……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」

その禍々しく歪んだ気配に気づく者は、まだ誰もいなかった。

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