【力の試験】
「さあ! ここに集まったのは、選び抜かれた100名を超える大天使候補生たちだわ!」
コロシアムの中央高台に立ち、ガブリエルの凛とした叫び声が巨大な会場の隅々にまで響き渡る。
「午後の試験は純粋な力の試練……通称『バトルロワイヤル』! 午前の試験はいわばただの余興に過ぎないわ! この殺し合いにも似た極限の中で、あなたたちの真の資質を示しなさい!」
「うおおおおおおおおっ!!!」
受験生たちから地鳴りのような歓声と殺気が巻き起こる。
「安心して全力で暴れていいからね〜。命が危なくなったら私たちがしっかり止めるし、ラファエルお姉さんが綺麗に治してくれるから〜」
イオフィエルが緩い声でマイク越しに呼びかける。
広大なコロシアムの敷地内に、100名以上の受験生たちが一定の距離を保ちながら点々と陣を取る。
天空に浮かぶ巨大な大時計の針が、刻み良く『13時』を指し示したその瞬間――。
ゴオオオオオオン……! ゴオオオオオオン……!
重厚で神聖な鐘の音が、天界の空を揺らして激しく鳴り響いた。
「――戦いの火蓋は落とされたわ! ハジメェッ!!!」
ガブリエルの合図と同時に、コロシアムの各地で一斉に怒号、悲鳴、そしてド派手な魔術の爆発音が巻き起こった。
「始まりましたね。……知っていますよ? あなたが特に目をかけているあの受験生……ウリエルでしたっけ? はたして無事に生きて帰って来られますかね?」
観客席の最上段、腕を組んで一人佇むルシファーの隣に、いつの間にかラファエルが並んで立っていた。
「はっ。あんたたちが目を光らせてるんじゃないの?」
ルシファーは眼下で繰り広げられる乱戦を見下ろしながら、鼻で笑う。
「ええ。私たち試験官である大天使が、致命傷になる前に入り込んで救出・回復を担当しますけれど……それでも毎年必ず死者が出るのが、この地獄のバトルロワイヤルですよ」
「まあ、あの子なら大丈夫よ。あの子の内に秘めた才能は……やがて私を超えて、いや、この天界で一番の存在になるわ」
「へえ。傲慢なあなたがそこまで言うなんて、それは楽しみですね」
ラファエルがクスリと微笑む。
一方、渦中の本人は――。
「はぁ……はぁ……っ! マリルちゃん!? マリルちゃん、どこに行ったんですか!?」
地面から爆発により生えてきた巨大な土壁の陰に身を隠しながら、ウリエルが焦燥しきった声を漏らす。
バトルロワイヤル開始直後、共に助け合おうと約束していたマリルと一緒にいたウリエルだったが、近くの受験生が放った強力な爆破魔術の衝撃波に巻き込まれ、離れ離れになってしまっていたのだ。
「隙ありぃぃぃッ!」
そこへ、物陰から必死の形相をした受験生が跳び出し、ウリエルの頭上へ容赦なく剣を振り下ろしてくる。
「ああっ!?」
間一髪、ウリエルは咄嗟に腕を掲げ、風の魔力を集中させた輝く聖盾を出現させてその一撃を受け止めた。
「なっ!? なんて咄嗟の反応速度だ……!?」
「……こんなところで負けるわけにはいかないんですッ!」
ウリエルは手のひらに強烈な風の魔力を纏わせると、至近距離から相手の胸元へ放出した。
ドガァンッ!
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
受験生は遥か後方へと吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。
「……はぁ、はぁ。危なかった……! 早くマリルちゃんを探さなくちゃ……!」
時間が経つにつれて、コロシアム内に残る受験生たちの数は目に見えて減っていった。
倒れた者や戦闘不能になった者は、ルシファーをはじめとする試験官たちが一瞬の閃光となって戦場へ割り込み、次々と場外へと運び出していく。
「あーもう! 倒れるペースが早すぎて忙しくなってきたじゃないのよ!」
ルシファーがイライラと叫びながら、気絶した受験生を回収する。
「文句を言ってる暇があるならさっさと仕事を回しなさい!」
ガブリエルもまた、両脇に気絶した受験生を一人ずつ抱えながら、超スピードで空を飛び交っていた。
「みんながんば〜っ❤」
そんな怒号飛び交う現場を横目に、高台の特等席で座りながらひらひらと手を振るイオフィエルとザドキエル。
「あなたたち二人も遊んでいないで、早く怪我人の治療を手伝いなさい!!」
普段は温厚なラファエルの、怒りに満ちたド迫力の怒号がコロシアムに響き渡った。
「「ふぁ〜い……」」
二人は面倒くさそうに顔を見合わせると、渋々立ち上がった。
そして――試験開始から約1時間が経過した頃。
あんなに溢れていた受験生たちは姿を消し、広大なコロシアムにはもう指で数えるほどの人数しか残っていなかった。
「な、なんとか……ここまで生き残れた……」
限界近くまで魔力を使い果たし、足元をふらつかせながらウリエルが息を吐く。
その時だった。
――ガタッ!
すぐ近くの瓦礫の山が崩れ落ちる重い音が響いた。
「だ、誰っ!?」
ウリエルが身構える。
瓦礫の影からゆっくりと這い出てきたのは――ボロボロに傷つき、衣服を破られたマリルの姿だった。
「ま、マリルちゃん! 無事だったんだね!?」
安心感からパッと表情を輝かせ、駆け寄ろうとしたウリエル。
「こ……こないで……っ! ウリエル……逃げて……!」
血を吐きながら、必死の顔で手を突き出すマリル。
「え……? マリル……ちゃん……?」
ウリエルはその異様な雰囲気に足を止めた。
――ザクッ……!
肉が断ち切られる不快な音が響く。
次の瞬間、マリルの胸の中央から、赤黒く血に塗れた一本の剣が突き出ていた。
「……あ……が……ウリ……エ……」
口から溢れ出す鮮血とともに途切れ途切れの言葉を残し、マリルの瞳から一瞬にして生気が失われ、そのまま糸が切れた人形のようにガクリと首が垂れた。
「……え? マリル……ちゃん……?」
目の前の光景が理解できず、ウリエルは呆然と立ち尽くす。
マリルを背後から刺殺したその剣。
それを握っていたのは、マリルの真後ろでゆらりと立ち上がる、頭から深くフードを被った一人の受験生だった。
マリルを引き裂いて剣を抜くと、その人物は狂気に満ちた歪んだ声で、ボソボソと低く呟いた。
「……シンダ……シンダ……アトスコシ……コロス……コロス……」




