『悪魔最強決定戦開始ィッ!?』
「只今より、転移悪魔最強決定戦を始めさせていただきたいと思いますっ!」
マイクを持ったエヴァが、緊張で声を震わせながら絶大な声を張り上げる。ここは、蓮華さんがどこからか手配して用意したという、千葉県にある遮るもののない広大な草むらだ。
「解説はこの方! 最強最悪! エクソシストでこの人の名前を聞いた奴は誰もが震え上がる! 自分こそが最強! 自分こそが伝説! 自分こそがルール! サイトォォォォォウ! レンンンンンンゲエエエエエ!」
エヴァが必死にテンションを上げて紹介するが、隣に立つ本人の機嫌はすこぶる悪かった。
「チッ……。なんだこの茶番は……? 殺されてえのか?」
「い、い、いえ! 申し訳ございません! ちょ、ちょ、調子に乗りすぎましたぁぁぁ!」
蓮華さんが凄むと、言うよりも早く、流れるような動作で地面にスライディング土下座をキメるエヴァ。その光景を横目で見ながら、僕は頭を抱えて呟く。
「な、なんでこんなことに……」
「仕方ねえだろ? お前が悪魔どもにモテるんだからよ。ここなら好きなだけ暴れてもいいからな。死ぬまでやれよ?」
「ふん! しょうがないから一番を取ってあげるわよ!」
腕を組んでツンとそっぽを向くルシファーに続き、サタンが僕の腕にすがりついてくる。
「拓巳ぃ〜❤︎ 全員殺してあなたの元にすぐ行くわね〜!」
「……負けない……」
「あらあら、みんなやる気ねぇ〜。お姉さん楽しみだわ!」
トロンとした目のベルフェゴールと、大人の色気を漂わせるアスモデウス。そんな中、ベルゼブブだけがチラチラと緑髪のお姉さんのほうを見ながら、弱気に声を漏らした。
「あの〜……。やっぱ俺も出ないとダメのか? 出たくないんだけど……?」
「王子様……待っててくださいね。私が迎えに行きます!」
三つ編みを揺らして目を輝かせるレヴィアタンの後ろから、扇子をパタパタと仰ぎながらマモンが割り込んでくる。
「賞金はいくらですの? まさかないわけじゃないですわよね?」
「ちょっと! なんで全員参加なんですか!」
「あ? この際全員でトーナメントにした方がいいだろ?」
「……と、言うわけで! 7人のトーナメント戦となります! あれ? 7人ですね……どうわけましょうか」
エヴァが指折り数えて首を傾げると、蓮華さんが冷酷な視線を突き刺した。
「あ? お前が出ろよ」
「……え?」
「だからお前が出ろって。それで8人だろ?」
「いやいやいや! あの化け物どもとは戦えませんよ!」
「あ? 出ねえの?」
「……出ます。出ますよ!」
バットをトントンと弄ぶ蓮華さんの威圧感に、エヴァは涙目で即答した。
「ハハハ! そうこなくっちゃな! よし! じゃあくじ引きで枠順を決めろ!」
「ちょっと待ってくださいます? 賞金は出るのですよね?」
「賞金ねえ。じゃあ勝者は望むものをくれてやるよ。金でも食いもんでもいい。……もちろん拓巳でもな?」
ニヤッと悪辣な笑みを浮かべる蓮華さんに、僕は思わず絶叫した。
「ちょっとおおお! なんで僕なんですか!!」
「しょうがねえだろ? もともとお前のために開いた大会だ。我慢しろや」
(くっ……。この人怖すぎてなんも言い返せない……!)
こうして、悪魔たち7人と不憫なエクソシスト1人による、運命のくじ引きが始まった。1回戦はルシファー対アスモデウス、2回戦はサタン対ベルゼブブ、3回戦はマモン対レヴィアタン、4回戦はベルフェゴール対エヴァだ。それぞれ1回戦の勝者と3回戦の勝者、2回戦の勝者と4回戦の勝者が準決勝で当たり、その勝者同士が決勝となる。
「あのストーカー悪魔と戦うとしたら決勝ね」
「全員殺すから関係ないわね〜」
「あらあらルシファーちゃんとなんて、ついてないわね〜」
「終わった……。初戦で殺される……」
初戦の相手がサタンだと知ったベルゼブブは、早くもガタガタと震えている。
「あら、レヴィアタンなんて魔界でもほとんど交流なかったですわね。まあ、お金のためにここで負けてくれるかしら?」
「お金より愛ですよ。王子様との永遠の愛です!」
「……エヴァ……先輩だけど……容赦しない……」
「はあ……。誰と当たっても死ぬんだから……。ベルフェゴールなら……なんか、いけそうな……気はしないわね」
顔を青白くしたエヴァが、ブツブツと絶望を呟いているのを見て、僕は思わず漏らした。
「いい組み合わせな気が……」
「おお? お前も乗り気じゃねえか」
「ち、違いますよ! ただ気になるっちゃ気になる組み合わせですね」
「へっ。だろ? じゃあ早速始めろ!」
蓮華さんの合図で、第1回戦の幕が上がる。金髪のツンデレ悪魔と、緑髪のお姉さん悪魔が広大な草原に向かい合った。
「あんたと戦うのって初めてね。でも、やることは変わらないわ」
「あらあら、お姉さんも楽しみだわ〜。おいで、ルシファーちゃん」
アスモデウスは余裕たっぷりに両手を広げる。試合開始のゴングなど存在しない。お互いの呼吸が合った瞬間、戦いは始まった。
「最初から全力で行くわよっ!」
ルシファーが叫ぶと同時に、その手に漆黒の魔剣ルシフェルが出現する。背中から黒い翼を広げ、アスモデウスへと一直線に特攻した。対するアスモデウスは、嬉しそうな顔を浮かべたまま、その場から一歩も動かない。
「ハァァァァ!」
猛烈な勢いで振り下ろされるルシフェルの刃。僕も、ルシファーも、誰もが「決着がついた」と思った。
だが――。
「くっ……! なん……で!」
「さあ? なんでだと思う?」
余裕の笑みを崩さないアスモデウス。振り下ろされたルシフェルの刃は、アスモデウスの細い指先、たった片手だけで完璧に止められていた。
「これが、ルシファーちゃんの全力かしら?」




