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七つの滞在 〜オタク男子の平穏な日常を破壊する、最強の美少女悪魔たち〜  作者: ほさ
悪魔たちのドキドキ旅行

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38/53

『超巨大UMAクラーケンを強欲にいただきます!』

「見えてきたぞ。あれが例のポイントだ」

世界エクソシスト協会から派遣されたお雇い船長が、日に焼けた厳つい顔で舵を握りながらボソリと言った。

僕たちを乗せた中型のクルーザーは、現在、ハワイのまばゆい太陽の下、目的の無人島へと向かって激しく波を蹴立てて進んでいた。目的はただ一つ、島民たちに恐れられている全長50メートル超の巨大タコUMA、通称【クラーケン】の討伐だ。

「おえええ……。や、やっと着いたの……? もう限界、死ぬ……脳みそがシェイクされてる……」

船の甲板で、青い顔をしたルシファーがぐったりと横たわり、情けない声を上げてゲロゲロになっていた。いつもの威厳は完全にゼロ、ただの重度の船酔い患者である。

「あらあら、ルシファーちゃんたら、陸ではあんなに威勢が良かったのに形無しねぇ」

その無様な姿を、アスモデウスが口元を袖で隠しながらニコニコと楽しそうに見下ろしている。

「本当だらしがないわねぇ。ねぇ拓巳~、あいつ使い物にならないから、このまま海に蹴り落としてタコの餌にしちゃいましょ?」

サタンが僕の腕に抱きつきながら、物騒極まりない提案をしてくる。

「落としませんよ! ……ルシファー、大丈夫ですか? もうすぐ目的地みたいですから、ほら、手、掴んでください」

僕はサタンを引き離し、横たわるルシファーの前に屈んでそっと手を差し出した。

「……え? ……あ、う、うん。……ありがと、拓巳……」

ルシファーは一瞬驚いたように目を見開いた後、心なしか頬をポッと赤く染め、少し恥ずかしそうに僕の手をギュッと握り締めて起き上がった。

「フン、サタンの言う通りですわよ。あんな乗り物酔いするような使えない阿呆は放っておきなさいな。今回の獲物は、この強欲の悪魔マモン様が『独り占め』にいたしますから、そこで指をくわえて見ておきなさい! ――ねえ、船長さん? 今回の討伐報酬は、貢献度に応じた『歩合制』で間違いないわよね?」

金銀財宝の刺繍が入ったドレスを潮風になびかせながら、新入りのマモンが扇子をパッと広げて船長に詰め寄る。

「ああ、ブルーノ局長からそう指示を受けている。一番働いた奴に、ハワイ支部の予算から特別ボーナスを出すそうだ」

船長が淡々と返す。

「アハハ、おもしれえじゃねえか! 金に目が眩んだ悪魔に先を越されるのは癪だし、私が先にあのタコ公をミンチにしてやらあ!」

蓮華さんがビキニ水着の上に羽織ったジャージを脱ぎ捨て、金属バットをブンブンと素振りしながら立ち上がる。やる気満々だ。

「おっ! 見ろよ、あの島だな! おいお前ら、早くそのタコとやらをぶっ倒してくれよ! 死体の調理と実食は、この俺が責任を持ってやってやるからな! ハァハァ、早くタコ焼き食わせろ!」

よだれを文字通りダラダラと垂らしながら、ベルゼブブが船の先端で目を爛々と輝かせていた。

船長が指差した前方には、緑に覆われた小さな無人島がはっきりと見えてきていた。

「あの島ですね。……それで、肝心の『50メートルの巨大タコ』っていう怪物はどこにいるんでしょうか? まわりには何も見えませんけど……」

僕が周囲の海原を見渡しながら首を傾げる。

「……あそこ……。……拓巳、あそこ見て……」

いつの間にか僕の背後に立っていたベルフェゴールが、眠たげな目のまま、無人島のすぐ隣の海域を小さな指でペシッと指差した。

「え?」

ベルフェゴールの指の先を見た瞬間、僕の心臓がドクンと跳ね上がった。

さっきまで何もなかったはずの海面に、目の前にある無人島と『全く同じサイズ』の、ドス黒い岩盤のような物体が、いつの間にかザザザ……と音を立てて浮上していたのだ。

「なっ……何ですか、あれ!! 島がもう一つ増えた!?」

僕が驚愕して叫ぶ。

「拓巳! 私の後ろに下がりなさい! 私と拓巳は戦闘能力的に、今回ここにいるだけでも命の危険があるわ!」

エヴァさんが鋭い顔つきで僕の前に立ち塞がり、両手を広げて僕を背後に庇った。

「あーっ!!! ちょっとそこの人間!! どさくさに紛れて拓巳の前に立って密着しないでよ! 離れなさい!!」

それを見たサタンが、嫉妬の炎をメラメラと燃え上がらせて激怒する。

「別に変な意味で近づいてないわよ! 私は自分の実力じゃあの化け物と戦えないから、拓巳の護衛に徹するって言ってるの!」

エヴァさんが大真面目に言い返す。

「エヴァさん、ありがとうございます。すいません、そういうことだからサタン、僕のことは心配しないで、あの怪物を倒すの頑張って!」

僕はエヴァさんの後ろから、サタンに向けて満面の笑顔でエールを送った。

ドクン……!

「う、うん……! 拓巳が私に『頑張って』って言ってくれた……! 拓巳のために、私、あのタコを世界で一番粉々に引き裂いてくるわね――っ❤︎」

サタンの目がハートマークになり、凄まじい速度で甲板を走り出した。

「本当に単純な奴ね、あいつは……。まぁ、船の上でゲロ吐いてるよりは、身体を動かした方が酔いも覚めるわ」

手すりに掴まっていたルシファーも、船が止まったことで少し元気を取り戻したのか、サタンに負けじと走り出す。

バッ!! と2人は同時に甲板から大空へと飛び出すと、背中から巨大な黒い漆黒の翼を広げ、クラーケン目掛けて一直線に飛び上がった。

「いけーっ! やっちまえお前らー! 足は綺麗に残しとけよー!」

ベルゼブブが船の上から能天気に拳を突き上げて応援する。

「あらあら、ベルゼブブちゃん。あなたも一応戦力なんだから、当然行くのよ?」

アスモデウスが背後から、般若のような満面の笑顔でベルゼブブの首根っこをガシッ! と片手で掴み上げた。

「ギャーーーッ!? 待って待ってアスモデウス様! 俺は料理担当――」

「フンッ❤︎」

「許してええええええええええ!!!」

アスモデウスはベルゼブブの悲鳴を一切無視し、笑顔のまま、恐ろしい怪力で彼を遥か彼方の海へと投げ捨てた。投げ飛ばされたベルゼブブは、空中で慌てて羽を広げて墜落を免れ、そのまま前線へと突き進む。

「拓巳さん、行ってくるわね~」

アスモデウスは僕に向かって優雅に手を振ると、自身も黒い羽を広げて美しく飛んでいった。

「こ、こわい……あの人、一番怒らせちゃいけないタイプだわ……」

「ですね……あの人だけは怒らせちゃいけない……」

エヴァさんと僕がガタガタと震えながら戦慄していると、ふと、エヴァさんが首を傾げた。

「あれ? ……そういえば、あの強欲悪魔の……マモンはどこに行ったのかしら?」

「え? そういえば、さっきまでそこにいたはずですが……」

僕が辺りを見渡す。

「あいつなら、お前らがギャーギャー騒いでる一番最初に、一人でとっくに飛んでったぞ」

蓮華さんがつまらなそうにバットをトントンと叩きながら、遥か前方の空を指差した。

「え?」

エヴァ点と僕が蓮華さんの指す方へ視線を向けると、なんと、サタンやルシファーが向かうさらにその遥か先、クラーケンの目と鼻の先の虚空を、黒いドレスをひらひらと羽ばたかせながら音もなく突進するマモンの後ろ姿があった。

「あっ! いつの一間にあんなところまで!?」

「あいつ、本気で最初の一撃で手柄と報酬を自分のものにする気だな」

蓮華さんがクスクスと笑う。

「蓮華さんは行かないんですか? 一番最初に突っ込んでいきそうなタイプなのに」

「フッ、慌てるな拓巳。おそらく、私らにもすぐに出番が回ってくるさ。……なぁ、ベルフェゴール?」

「……うん……。あのタコ……ただの、タコじゃ、ない……」

ベルフェゴールがジト目のまま、じっと海を見つめて呟いた。

その頃、最前線の空中。

「一撃で決めてやりますわ! 私の金になりなさい、はぁぁぁぁっ!!」

マモンは高笑いを上げながら、浮上してきた巨大な黒い島のようなクラーケンの本体目掛けて、煌びやかな両手を突き出した。

すると、クラーケンの頭上の空間がグニャリと歪み、そこを取り囲むように、巨大な「金色の光の輪」がいくつも出現した。

「【ゴールドラッシュ(強欲の黄金雨)】!!!」

マモンが叫んだ瞬間、その金の輪から、何百本もの鋭利に研ぎ澄まされた純金製の巨大な金色の棘杭が、大雨のように一斉に降り注いだ。

ブスブスブスブスッ!!! と、肉を切るおぞましい音が響き、クラーケンの巨大な胴体に無数の金の杭が深く突き刺さる。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

次の瞬間、ハワイの海全体を、そして僕たちの乗る船の鼓膜を激しく揺るがすような、地の底から響くような巨大な咆哮が轟いた。

「あーっ!! あいつ、抜け駆けしやがったわね! 私の拓巳へのアピールチャンスを!!」

後から追いついたサタンが地団駄を踏む。

「まぁ、今回はしょうがないわね」

ルシファーが空中で腕を組む。

「ほっ。これであのタコが死んだら、俺、すぐにあそこの足を切り落として食っていいんだな?」

ベルゼブブが安堵の息をつく。

「あらあら……ベルゼブブちゃん、残念だけど、まだ終わってないみたいよ?」

アスモデウスが目を細めて海面を指差した。

――ザッパーーーーーーーーーンッ!!!!!

凄まじい大爆発のような水飛沫を上げて、咆哮を上げていたクラーケンが、その全長50メートルを超える巨体を完全に海面から空中に向かって勢いよく飛び上がらせた。

「うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!! 船がひっくり返るーーー!!!」

クラーケンが飛び上がった勢いで発生した、津波のような大波に揺さぶられ、僕とエヴァさんは船の甲板にしがみつきながら絶叫した。お雇い船長が必死に舵を操っている。

「な……。何ですの、この常軌を逸したデカさは……!?」

空中へ飛び上がったクラーケンの巨体を見上げ、マモンが初めてその高飛車な笑みを消して汗を流した。

周囲の太陽の光を完全に遮り、僕たちの視界のすべてを巨大な『影』で覆い尽くすほどの質量。それはまるで、一つの「島」そのものが重力を無視して宙に浮いているかのような、圧倒的な絶望感だった。

ギョロリ……!

突如、クラーケンの胴体の中央にある、家一軒分はあろうかという巨大な目が見開かれ、目の前の空中に浮いていたマモンをピシャリと捉えて睨みつけた。

「くっ……!」

マモンがドレスの裾を握り締める。

「なによこのデカさ……魔界の原生生物でも、ここまでのサイズは見たことないわよ」

ルシファーもその質量に圧倒されている。

「やれー! クラーケン! その生意気で金に汚いバカ女を、そのままプチッと叩き潰しなさい!!」

なぜか敵であるはずのクラーケンを全力で応援し始めるサタン。

「サタンちゃんたら、味方を応援しなくてどうするのよ、まったくもう」

アスモデウスが呆れたように笑う。

「う、う、美味そう……!! あの太い足一本で、一体何人前のタコしゃぶができるんだ……! じゅるり!」

ベルゼブブだけは、逆にサイズが大きくなったことでテンションが最高潮に達していた。

「――舐めるんじゃありませんわ! 私の先制攻撃が少し浅かったようですので、もう一度、今度は跡形もなく塵にして差し上げますわ!」

マモンが再び魔力を練り上げ、両手を掲げようとした――その瞬間だった。

シュバッッッ!!!

クラーケンの、大蛇のように太く巨大な1本の「触手」が、目にも留まらぬ、音速を超えるようなスピードで横からマモンの身体を薙ぎ払った。

「あっ!! マモンさんが消された!?」

船の上からそれを見た僕が思わず悲鳴を上げる。

「へっ。心配すんな、拓巳。あの強欲女はそんなにやわじゃねえみてえだぜ」

隣で蓮華さんが、フッと不敵に笑う。

蓮華さんの言う通り、クラーケンの超高速の一撃に直撃したかと思われたマモンは、触手が当たるほんの数ミリの極限のタイミングで、真後ろへと音もなく瞬間移動するように下がって回避していた。

自身の必殺の一撃をかわされたことに気づいたクラーケンは、さらに激昂し、

「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!」

と、海水を沸騰させるほどの魔力を込めて怒りの咆哮を上げた。

「え? 一体何が起きたんですか!? あのタコの攻撃、完全に不意打ちで目にも留まらぬ速さだったのに、なんでマモンさんは完璧に予知したみたいに避けられたんですか?」

僕が混乱して尋ねると、背後からベルフェゴールがトコトコと歩み寄ってきた。

「……マモンは……『強欲』の悪魔……。相手が心の中で、何を一番『欲しているか(欲望)』を、視覚的に見ることができるの……。だから……クラーケンが今、マモンを【殺したい】っていう、強い殺意の欲望を抱いた瞬間に……その攻撃の軌道も、全部見えちゃう……」

「なるほど、相手の殺意欲を読み取って先読みしたのか……。あの悪魔、口だけじゃないんですね」

僕が関心していると、戦地ではサタンがチッと舌打ちをしていた。

「くっそー! なんで避けてんのよあの守銭奴! そのまま叩き落とされて死になさいよ!」

サタンが悔しそうに叫ぶ。

「あんたはどっちの味方なのよ! いい加減にしなさい!」

ルシファーがサタンの頭をポカッと殴る。

「くっ……非常にまずいですわね。このままクラーケンを一人で仕留め損ねて、他のやつらに手柄を横取りされてしまっては、私の取り分が減ってしまいますわ……!」

マモンは少し額に汗を浮かべながら、必死に次の金儲け……じゃなくて攻撃のチャンスを伺っている。

「やっぱりあんたの動機は金なのね! やっぱ一回死になさい!!」

呆れ果てたルシファーも、ついにマモンに向かってツッコミ(怒声)を入れるのだった。

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