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七つの滞在 〜オタク男子の平穏な日常を破壊する、最強の美少女悪魔たち〜  作者: ほさ
イギリスからの来訪者

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16/30

『エロイムエッサイム、からのシュリンプ! 胃袋を掴まれた美人退魔師』

「……what!?」

バッと凄まじい勢いで目を覚まし、スプリングを軋ませて上半身だけを跳ね上げるように起き上がったエヴァ。

「お? ようやく起きましたね。大丈夫ですか?」

俺はベッドの横の丸椅子から、心配そうに声をかけた。

「……あなたは、神代先生の……」

「拓巳です。さっきリビングでいきなり泡吹いて気絶しちゃったので、びっくりしましたよ。一応、空いている両親の寝室のベッドに運んでおきました」

「気絶……? ――ハッ!? さ、さっきの悪魔はどこにいったのよ!?」

エヴァは記憶を取り戻した瞬間、恐怖と使命感が入り混じった顔でガタッとベッドの上に立ち上がった。

「あ、ちょっと危ないですから、落ち着いて――」

俺が抑えようとした、まさにその時。カチャリと部屋の扉が開いた。

「どう? そいつ目覚めたの?」

ルシファーが、お盆に水の入ったコップを載せて、ひょっこりと部屋に入ってきた。

立ち上がった金髪美女エヴァと、部屋に入ってきた金髪悪魔ルシファー。二人の視線がバチッと真っ向から交錯する。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 悪魔ァァァァァッッッ!!!」

「ちょっ、なによいきなり大声出して! 耳がキーンとするじゃない!」

「エヴァさん、落ち着いてください! 敵じゃないですから!」

恐怖に顔を歪めたエヴァは、ベッドの上でズルズルと後ろへ下がると、その美貌を険しく歪めて舌打ちをした。

「チッ……! 聖水は持ってきてないけど……これなら……!」

エヴァはハーフパンツの後ろポケットへ手を突っ込むと、何かを素早く取り出した。

彼女の手握られていたのは、古びた、しかし禍々しいオーラを放つ小さな『黒い本』。

エヴァはそれをルシファーに突き出し、朗々と呪文を唱え始めた。

「――エロイムエッサイム! エロイムエッサイム!」

「……はぁ? なによそれ、呪いの言葉?」

ルシファーが眉をひそめる。だが、俺の心は別の意味で激しく震えていた。

(おおおおお! なんか昔懐かしい『悪魔くん』のオープニングみたいなこと言ってるぞこの人! カッコよすぎる!)

「我は求め訴えたり!!」

エヴァが完璧で流暢な日本語でそう叫んだ瞬間、彼女の持つ黒い本がバサササッと目にも留まらぬ速さでページをめくり、その中から――赤く不気味に光る一つ目を持った、小さな蝙蝠こうもりのような生物が現実世界へと飛び出してきたのだ!

「なんか出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ(大興奮)!!」

「げえっ!? なにこいつ、気持ち悪いわね!」

ルシファーが嫌そうに顔をしかめる。エヴァは勝ち誇ったようにビシッと指を突き出した。

「いきなさい、私の使い魔よ! あの邪悪な悪魔を祓いなさい!」

「キキィーッ!」と甲高い鳴き声を上げ、凄まじいスピードでルシファーの顔面へと特攻していく蝙蝠の魔物。

それはまさに、退魔師と悪魔の宿命のバトルが始まる合図――。

「……なによこいつ。まとわりつかないでよ、うっとうしいわね」

パシンッ!!!

「キキィャァァァアアアッッッ!?」

ルシファーが、まるで目の前を飛ぶ不快な害虫でも叩き落とすかのように、無造作に右手を横に一閃した。

乾いた打撃音と共に、エヴァの最強の使い魔は、部屋の壁に激突するよりも早く、光の粒子となって綺麗さっぱり消滅した。

「「……………………え?」」

エヴァと、そして俺の声が、完璧にシンクロして部屋に虚しく響いた。

数秒の静寂の後、俺たちの絶叫が重なる。

「「えええええええええええええええええええっっっ!!!???」」

「なんで!? なんで私の使い魔が、一瞬で消滅させられてるのよ!?」

エヴァが自分の黒い本を何度も叩きながらパニックに陥る。

「なによ? あれ使い魔だったの? 部屋に入ってきたハエかと思ったわ」

ルシファーはあっけらかんとした様子で、持ってきた水のコップを俺に手渡した。

「ちょっと! ルシファー! あんなにカッコいい、男のロマン溢れる演出から飛び出してきたハエ……じゃなくて使い魔に、なんて雑な扱い方をするんですか!」

「知らないわよ! いきなり不審なスピリチュアル呪文を唱えて襲ってきたのはそっちでしょ!」

「……そんな……。嘘よ……。イギリスの教会で、私と血の契約を結んだ、私の契約魔の中でも『最強』の子だったのに……」

エヴァはベッドの上でガタガタと震え、信じられないという風に呆然と呟いている。

その時だった。

「……うるさい。……なに、この騒ぎ……。眠れない……」

突然、エヴァのすぐ足元のベッドの布団が、モゾモゾと生き物のように動き出した。

「ひゃぅっ!? 」と悲鳴をあげるエヴァ。

バサッと布団を跳ね除けて現れたのは、眠たげに頭の青い髪をハネさせた、いつものパジャマ姿の幼女だった。

「……あれ? お姉さん……起きたの?」

ベルフェゴールは目をこすりながら、不思議そうにエヴァを見上げている。

「ちょ……! また悪魔!? なにこの家、どうなってんのよ!?」

「いや〜……これに関しては、本当に説明すると長くなりまして……」

俺が冷や汗を流しながら苦笑いしていると、エヴァはシーツを強く握りしめ、悲痛な表情で俺の肩を掴んだ。

「神代先生……! あなたのお子さんは、完全に悪魔に取り憑かれてます! それも、信じられないほど危険で強大な悪魔2体に……!」

「あら〜? 起きたのね? ちょうどよかったわ!」

エヴァが絶望のセリフを吐き出した瞬間、またしてもドアが開き、エプロン姿のアスモデウスが、何かが載った皿を片手に、ふわりと部屋に入ってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!(本日3回目の絶叫)」

「……ちょっと拓巳! この金髪の子のリアクション、もうお腹いっぱいよ! 騒がしいからどうにかしなさいよ!」

ルシファーが耳を押さえて文句を言う。

「う、うん! ちょっと……エヴァさん? あのー、こちらの方々は、一応……その、優しい側の……悪魔さんたちなので、どうか落ち着いて――」

「む、むむむ無理よ! 優しい悪魔なんて存在しないわ! こんな危険な悪魔たちに囲まれて、落ち着いていられるわけ――」

パニックを起こして完全拒絶モードのエヴァ。

すると、それを見ていたアスモデウスが、皿の上から箸で『それ』を持ち上げ、楽しそうに微笑んだ。

「あらあら……。お口が忙しいお嬢さんね。しょうがないわねぇ、これでも喰らいなさいっ!」

フワッ、とアスモデウスが綺麗なスナップを利かせて、その『何か』を投げた。

「こんな悪魔、見たことないわよっ! ああっ! 神代せんせぉぉ――むぐっ!?」

叫ぼうとしたエヴァの口の中に、アスモデウスが投げた『何か』が、ピンポイントでスッポリと収まった。

「おうえっ!? ――な、に、こ……れ……」

文句を言おうとしたエヴァの動きが、ピタッと止まる。

そして次の瞬間、彼女の美しい青い瞳が、信じられないほど大きく見開かれた。

「サクサクの軽い衣に……中は、信じられないほど甘くてプリップリの、これは……shrimpエビ!? お、美味しすぎるわ……! なにこれ、日本のマジックアート!?」

エヴァはブツブツと恍惚の表情で呟きながら、あまりの美味の衝撃に、完全に腰が抜けたように、ストン……とベッドの上に膝から崩れ落ちてしまった。

「ど、どうしました? 大丈夫ですか?」

俺は戸惑いながらエヴァの顔を覗き込む。

「……アスモデウスの得意料理……エビの、天ぷら……。一度食べたら……逃れられない……」

ベルフェゴールが「フッ、勝負はついた」と言わんばかりのドヤ顔で呟く。

「ふふ、そんなに美味しかったかしら? なら、これからみんなで夕飯なんだけど、一緒に食べていくわよね?」

アスモデウスが優しく微笑みながら尋ねると、エヴァはまだ口の中に残る天ぷらの余韻に浸りながら、コクっ……コクコクっ! と、壊れた人形のように激しく首を縦に振るのだった。

こうして、イギリスからやってきた本格派(?)エクソシストのエヴァを、日本の伝統料理『天ぷら』の圧倒的攻撃力によって、無事に胃袋から飼い慣らすことに成功した拓巳たちだった。

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