『イギリスからの来訪者! 泡吹くエクソシストと親父の秘密』
俺の名前は神代拓巳。ごく……ごく普通の大学生だ。以下略ッ!
――と、いつもならここで「我が家に居座る美少女悪魔たち」の紹介が入るところなのだが、今日の俺は、それどころではない未曾有の混乱に直面していた。
「あのー……。人違いじゃないですかね。僕の知り合いにイギリス人なんていないんですけど……」
ここは、我が家のリビング。
いつもなら悪魔たちがゲームをしたり寝転がったりして占拠しているはずのその場所に、今は一人の「見知らぬ外国人美女」が座っていた。
まばゆいほどのブロンドの金髪。どこか気品を感じさせる、彫りの深い整った顔立ち。
いやいやいや、何この状況!? 意味がわからない!
俺、さっき大学から帰ってきたばかりなんだけど! なんで玄関を開けたら、鍵もかかってない我が家のリビングに金髪外人美女が優雅に腰掛けてるわけ!? と、俺の脳内はスーパーコンピューター並みの速度で思考を巡らせていた。
すると、その金髪美女は、俺を値踏みするような鋭い視線で見つめながら、流暢な日本語で口を開いた。
「……それで、神代先生はどこにいるのよ」
「神代……先生?」
聞き覚えのない単語に、俺は間抜けな声を出す。
「Yes……。神代リンドウ先生よ。あなたの父親でしょ?」
「うーん、たしかにリンドウは僕の父親ですけど……。失礼ですが、あなたは……?」
俺が首を傾げると、彼女は「はぁ……」と大げさにため息をつき、信じられないといった様子で身を乗り出してきた。
「だから何回も言ってるでしょ! 私はイギリスで神代先生に『退魔』に関することを教えてもらってたの!」
「たいま……?」
大麻? いや、文脈的におそらく「退魔」だろう。
「つまりは……あなたはエクソシスト(悪魔祓い)なんですね。……いや、そう言われましても、僕は両親の仕事に関してはよくわかりませんし、いま両親が世界のどこを放浪しているかも本当に知らないんです」
俺が困り果てて正直に言うと、エヴァと名乗るその美女は、急にキッと表情を険しくして立ち上がった。
「何を言ってるのよ! あなた、私を騙そうとしても無駄よ! この家に住み着いている、この禍々しくも濃厚な『邪悪な気配』は何!? 明らかになにか隠してるでしょ!」
「ギクッ……!!!」
俺の心臓が激しく跳ね上がった。
(邪悪な気配……完全にルシファーたちのことじゃねえか……っ!)
俺は冷や汗をダラダラと流しながら、必死に愛想笑いを浮かべた。
「い、いやぁ、まさか! うちには今、僕1人で住んでるんですよ。あ、あはは……。というか、あなたお名前は? もし、いつになるか分かりませんけど父が帰ってきたら、伝言くらいは言っておきますので」
「1人? アンビリーバボー! そんなわけないでしょ、この不浄な空気は……! 私? 私はエヴァ。エヴァ・リオンよ」
「え? エヴァ……ンゲリ……」
俺が、日本の誇る某・汎用ヒト型決戦兵器の名前を言おうとした、まさにその時だった。
ガラガラガラガラ、ドーーーーンッ!!!
突然、リビングの引き戸が凄まじい音を立てて外れ、ドアの向こうから3つの人影が、団子のように重なり合いながらリビングの床へと倒れ込んできた。
「あ……」
俺の口から、乾いた声が漏れる。
「いつつ……。あ? は、はろ〜……」
一番上で尻もちをついたルシファーが、気まずそうに片手を上げて「ハロー」と挨拶をした。
どう見ても、ドアの隙間から聞き耳を立てて盗み聞きをしていたら、バランスを崩して突っ込んできたパターンである。
それを目撃したエヴァは、一瞬で顔を真っ白に硬直させ、ガタガタと全身を震わせ始めた。
「い、いるじゃない! 悪魔がァァァァァーーーーーっっっ!!!」
エヴァはリビング中に響き渡るような絶叫を上げると、白目を剥き、口からカニのようにカプカプと泡を吹いて、そのまま床へパタンと仰向けに倒れ込んだ。
「あれ……? エヴァさん? おーい、大丈夫ですか……?」
俺が恐る恐る声をかけるが、反応はない。
すると、重なり合っている悪魔の山の下から、窒息寸前のくぐもった声が聞こえてきた。
「ルシファー……降りて……死ぬ……」
「あ! ごめん!」
アスモデウスに潰されていたルシファーが、慌てて上から退く。
すると、アスモデウスの豊満すぎる胸の谷間から、青い髪のベルフェゴールがちょこんと、モグラのように顔を出した。
「……ふぅ。……死ぬかと思った……」
どうやら、アスモデウスの胸クッションのせいで物理的に窒息しかけていたらしい。ベルフェゴールは小さく息を吐いた。
「どうしましょう? この子。全然起きないわね〜」
アスモデウスは、自分たちのせいで大惨事が起きているやり取りを完全に無視して、床で泡を吹いて気絶しているエヴァを、指先でツンツンとつつきながら楽しそうに微笑んでいる。
状況が、あまりにもカオスすぎる。
勝手に上がり込んできた親父の弟子。
隠し通せるわけのなかった我が家の悪魔たち。
そして、悪魔祓いのプロを自称しておきながら、初手で泡を吹いて卒倒した金髪美女。
あまりの理不尽さとフリーダムさに、俺の全身がプルプルと小刻みに震え出した。
俺は大きく息を吸い込むと、我が家の天井が突き抜けるほどの声量で、リビングの主犯たちへ向かって怒鳴り散らした。
「……お……お……お前らぁぁぁぁぁーーーーーっっっ」




