Number.38 絶対に伝えるんだ
「......あーそんでな、ちょっと話しておきたいことがあるんだ。フィティちゃんにも伝えようとは思っているが、先んじてお前にな。」
「なんだよ......それ?」こちらはハスファド・イルマたちのグループとは違う。シスクトの顔を見ても、雰囲気を見ても、何を考えているかも嘘をついているのかも分からない。
それが改めて分かったとき、なぜだか少し安心したような気がした。
「ここは昔、それはもう大きな王国だった。それは、なんとなく分かるな?」
敷地を囲む大柄な塀、門に描かれた国章、何より......今いる廃城。それだけの要素でも十分なものだった。俺は黙ってうなずく。
「トリオウス王国、それがここの名前だった。今や見る影もないがな。数多くの人間を抱え込んでいたこの国は、反魔族の象徴のようになっていた。魔族が本格的な人類殲滅を始めたとき、真っ先に襲われたのもここだった。その時、国王はたった一人の息子を、命がけで外に逃がした。母親と共に。その事実を知っている人間はほとんどいない。」
「......何の話をしているんだ?なぜお前がそれを知っている?」
「俺の父は、トリオウス王国第15代国王。勇者トールと、大魔法使いウィンドヘグを魔王討伐に向かわせた男だ。」
シスクトは困惑する俺の顔を確認すると、微笑を浮かべながら話を続ける。
「俺の父は死んだ。魔王が放ったフレイムの中で。逃げのびた俺は、母の手によって色々なことを学ばされた。主に国王としての所作だったかな、興味もなかったし対して覚えては無い。」
確かにそう見える、と言ってやると、シスクトはくすくすと笑った。
「......俺の本当の名前は、"アッシュ・シスクード・トリオウス"。トリオウス王国の"王子"だ。」
「シスクード?......」
「そうだ。お前と初めて出会ったとき、俺はシスクトと名乗ってついて行くことを選んだ。それはお前の姿に、幼いころに見た勇者トールを感じたからなのかもしれない。」
「......それで、今俺に話すということは、王国再建を考えているわけだ?」
「ああ、この目で再び王国の姿を見て、思うところがあった。だが、まだ決心がついていない。フィティちゃんには、俺の決心がつくまで秘密にしておきたいんだ。」
「分かったよ......今のところは秘密にしてやる。ただし、フィティにも絶対に伝えるんだ。」
「当然。じゃあそういうわけで、今日一日ぐらいは演技を続けさせてもらうよ。じゃあな......」
最後にまた生気の抜けたような声を出してきたので、思わず笑ってしまった。
「......と、言うわけなんだフィティちゃん。」シスクトはそう言いながら前へ進む。
ミナトは表情一つ変えず私の隣を歩いている。
「大体わかったかな......」よく分からなかった。
シスクトがトリオウス王国の末裔など、簡単に受け入れられることでは無かった。
トリオウス王国は、私の中ではすでに滅んでいる。15代目で終わり、16代目はいない筈だった。
貴族は数人残っているみたいだけど......。
「これからどうするつもりなんですか?あそこに戻って......」
それでも、今の私にできることは信じることだけだった。そういう気がした。
私は視線を、高くそびえる廃城に移した。相も変わらず寂しい雰囲気を醸し出している。
「トリオウス王国を再建する。あそこは混乱の渦の中だ。動き出すなら今だ。そう......思う。」
シスクトは最後に何か言いかけて別の言葉にすり替えたような気がしたが、それについて言及するのはやめておいた。
「ミナト、フィティちゃん。俺の話を聞いてくれてありがとう。信じてくれなくても、それだけで十分だ。」
王国にこっそり入り込んだところ、シスクトが言っていた通り大混乱だった。
ハスファド・イルマが俺のことを散々担ぎ上げていたのは知ってる。
俺の見ていないところでだが。
そんな俺が消えたとなれば、それは混乱するだろう。しかしそれだけでないことはなんとなく分かっていた。
「ひどいありさまだな。まあ元々そこまで団結しているようには見えなかったが。」
「あんな作戦やらせたらそりゃあ鬱憤もたまるだろう。」
気配がしたので身を隠すと、大きな荷物を持った男が通り過ぎていった。自分が持っている全ての荷物を詰め込んだと言わんばかりの大荷物だった。
廃城の反対側が何やら騒がしかったので行ってみると、ハスファド・イルマが大勢の人々を集めていた。
士気を上げるための演説でもするのだろう。成功するとも思えないが。
シスクトはその様子を一瞥した後、すぐに城の中に入ってしまった。
俺とフィティもついて行く。シスクトは地下への階段を降りていく。我々の寝室がある階よりも下、フィティが懐かしむような目で眺めていた階よりももっと下。
結局たどり着いたところは、巨大な扉が目を引く寂れたところだった。その扉以外特に何かあるというわけでもなく、部屋全体が埃まみれで、いたる所に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
「ここは王国の中でも限られた人間しか知らないところでね......ほとんどの貴族も知らないんだ。」
シスクトはそう言いながら、服の中から小さな鍵を取り出した。
鍵は扉に設けられた鍵穴にぴったり入ると、気持ちの良い音を立てて時計回りに動いた。
「俺がこの国を再建する、重要なピースだ.......」
フレイム
分類:攻撃魔法
同じように炎を生み出す魔法"ファイヤー"とは違い、消えない炎を生み出す魔法。
使用者が解除しない限り、風に吹かれようと水に濡れようと消えることは無い。
この炎によって負った火傷は消えることがない。揺れる炎の形が一生"魂"に残り続ける。
非常に高度な魔法で、一人で扱うことはほとんど不可能である。




